Noah's Ark
5話 審判の日
「……え?母さん…?」
先程まで普通に話していたはずの母の頭が床を転がっていた。
そして頭をまるまる失った母の身体は、力が抜けたようにーードシャーー血の海を作り崩れ落ちた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
姉の叫び声がとても遠くから聞こえた気がした。
驚きの表情のまま、時が止まったかのように、ピクリともその表情を変えない母の頭が、鮮血を撒き散らしながら遥斗の足元に転がっている。
「遥斗!窓!窓!」
姉の呼びかけに俺は、呆然とした表情で窓を見た。
怪物、そう表現出来る者が窓すぐ向こう側にいた。
白色の陶器の様な生気の無い皮膚を剥き出しに、目は無く、顔と思しき部分はクチバシの様に前に突き出ていた。
そこから頭の後ろまで大きく裂けた口元から、グロテスクな口内と無数の牙を覗かせている。
その光景に驚きよりも、母を殺した仇が目の前にいる事実に身体からふつふつと怒りと憎悪が湧き上がった。
殺すーー
人生で初めて明確な殺意に目覚めた瞬間、窓の向こうにに立つ怪物は、鋭く凶器の様な長い爪が生えた腕を勢い良く振り下ろし、軽々と壁を壊し家に侵入してきた。
怒りで頭に血が上っている俺は、近くにあった椅子を手に取り、その怪物に殴りかかった。
その時、突然横から姉に突き飛ばされた。
「…っ!」
突然の事に驚きながらも姉へと視線を移し、言葉を失った。
姉は背中から、怪物の鋭い爪と腕ごと腹を貫かれていた。
涙を流し懇願するかのような表情で俺を見つめ、仕切りに何かを伝えようと口元を動かしている。
そして、腹を貫くその腕がゆっくりと引き抜かれ、うつ伏せに倒れた。
姉の最後の言葉は届くことなく、虚しく命を散らした。
「嘘…だろ…?」
その呼びかけに応えるものは、この空間には一人も残されていなかった。
「殺す…殺して…やる…殺してやるぁああぁぁあ!!」
俺の中で何かが弾けたーー
その圧倒的な怒りと殺意に呼応するかのように、気づけば右手には一振の、漆黒に染まった長剣が握られ、左手の甲には真っ赤な光を放つ刻印が浮かび上がっていた。
「ーーうぉぉあぁぁああ!!」
俺は声を上げ斬りかかったーー
怒りでろくに頭が働いてない俺は、その手にいつの間にか握られている漆黒の剣を疑問に思うことは無く、激しい憎悪と怒りに身を任せたまま、ただ目の前の侵略者を葬るために動いた。
そして、左手から溢れ出る謎の力によって、身体能力は人間を遥かに超越していた。
ーー一閃。
気付けば怪物は、肩から脇腹に掛けて斜めに鋭く切られていた。
何が起こったか分からないまま立ち尽くし、一瞬で絶命したその怪物からは一滴の血も流れず、変わりに黄金に輝く塵となり床に山を作った。
「母さん…姉ちゃん…なんで…」
我に返り、母と姉を殺された現実を目の当たりにした俺は、握られた剣をその場に落とし、膝をついて大声で泣いた。
しかし怪物達は、いつまでも悲観に明け暮れる時間を与えてはくれなかった。
辺りでも同じように虐殺があったのだろう。
白い身体を返り血に染めた怪物達が、崩された壁の向こう側からこちらに近づいて来るのが見えた。
「なんなんだよ…なんなんだよお前らはぁっ!!」
怪物を葬った漆黒の剣は、辺りからその姿を消していたーー
俺は剣のことよりも香織の事が気になり、彼女の無事を確かめるべく、地獄と化した街へ飛び出した。
「香織…!無事でいてくれ…!」
機械的に獲物を探し、徘徊する白い怪物。
その姿を見る度、家で起こった虐殺を思い出し激しい憎悪を抱くが、今は圧倒的な恐怖が上回っていた。
見つからないようやり過ごしながら、香織の住む家へと急いだ。
なんて光景だ…。
サイレンの音が辺りからけたたましく聞こえ、それに被るように人の怒号や悲鳴、銃声の様な物までもが聞こえてきた。
そして外は辺り一面、血の海と化していた。
人だけでなく犬や猫、鳥までもがその亡骸を晒し、それを見る度に何度も吐き気に襲われたが何とか抑え、足を進める。
「一体何が…」
ふと空を見ると、その絶望的な光景に思わず足を止めた。
辺りに殺戮を振りまく白い怪物達が、夜空から無数に伸びる光の柱の中を、ゆっくりと降りてきているのが見えたのだ。
その光景は遥か向こうの空にまで及んでいた。
審判の日ーー
先程まで普通に話していたはずの母の頭が床を転がっていた。
そして頭をまるまる失った母の身体は、力が抜けたようにーードシャーー血の海を作り崩れ落ちた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
姉の叫び声がとても遠くから聞こえた気がした。
驚きの表情のまま、時が止まったかのように、ピクリともその表情を変えない母の頭が、鮮血を撒き散らしながら遥斗の足元に転がっている。
「遥斗!窓!窓!」
姉の呼びかけに俺は、呆然とした表情で窓を見た。
怪物、そう表現出来る者が窓すぐ向こう側にいた。
白色の陶器の様な生気の無い皮膚を剥き出しに、目は無く、顔と思しき部分はクチバシの様に前に突き出ていた。
そこから頭の後ろまで大きく裂けた口元から、グロテスクな口内と無数の牙を覗かせている。
その光景に驚きよりも、母を殺した仇が目の前にいる事実に身体からふつふつと怒りと憎悪が湧き上がった。
殺すーー
人生で初めて明確な殺意に目覚めた瞬間、窓の向こうにに立つ怪物は、鋭く凶器の様な長い爪が生えた腕を勢い良く振り下ろし、軽々と壁を壊し家に侵入してきた。
怒りで頭に血が上っている俺は、近くにあった椅子を手に取り、その怪物に殴りかかった。
その時、突然横から姉に突き飛ばされた。
「…っ!」
突然の事に驚きながらも姉へと視線を移し、言葉を失った。
姉は背中から、怪物の鋭い爪と腕ごと腹を貫かれていた。
涙を流し懇願するかのような表情で俺を見つめ、仕切りに何かを伝えようと口元を動かしている。
そして、腹を貫くその腕がゆっくりと引き抜かれ、うつ伏せに倒れた。
姉の最後の言葉は届くことなく、虚しく命を散らした。
「嘘…だろ…?」
その呼びかけに応えるものは、この空間には一人も残されていなかった。
「殺す…殺して…やる…殺してやるぁああぁぁあ!!」
俺の中で何かが弾けたーー
その圧倒的な怒りと殺意に呼応するかのように、気づけば右手には一振の、漆黒に染まった長剣が握られ、左手の甲には真っ赤な光を放つ刻印が浮かび上がっていた。
「ーーうぉぉあぁぁああ!!」
俺は声を上げ斬りかかったーー
怒りでろくに頭が働いてない俺は、その手にいつの間にか握られている漆黒の剣を疑問に思うことは無く、激しい憎悪と怒りに身を任せたまま、ただ目の前の侵略者を葬るために動いた。
そして、左手から溢れ出る謎の力によって、身体能力は人間を遥かに超越していた。
ーー一閃。
気付けば怪物は、肩から脇腹に掛けて斜めに鋭く切られていた。
何が起こったか分からないまま立ち尽くし、一瞬で絶命したその怪物からは一滴の血も流れず、変わりに黄金に輝く塵となり床に山を作った。
「母さん…姉ちゃん…なんで…」
我に返り、母と姉を殺された現実を目の当たりにした俺は、握られた剣をその場に落とし、膝をついて大声で泣いた。
しかし怪物達は、いつまでも悲観に明け暮れる時間を与えてはくれなかった。
辺りでも同じように虐殺があったのだろう。
白い身体を返り血に染めた怪物達が、崩された壁の向こう側からこちらに近づいて来るのが見えた。
「なんなんだよ…なんなんだよお前らはぁっ!!」
怪物を葬った漆黒の剣は、辺りからその姿を消していたーー
俺は剣のことよりも香織の事が気になり、彼女の無事を確かめるべく、地獄と化した街へ飛び出した。
「香織…!無事でいてくれ…!」
機械的に獲物を探し、徘徊する白い怪物。
その姿を見る度、家で起こった虐殺を思い出し激しい憎悪を抱くが、今は圧倒的な恐怖が上回っていた。
見つからないようやり過ごしながら、香織の住む家へと急いだ。
なんて光景だ…。
サイレンの音が辺りからけたたましく聞こえ、それに被るように人の怒号や悲鳴、銃声の様な物までもが聞こえてきた。
そして外は辺り一面、血の海と化していた。
人だけでなく犬や猫、鳥までもがその亡骸を晒し、それを見る度に何度も吐き気に襲われたが何とか抑え、足を進める。
「一体何が…」
ふと空を見ると、その絶望的な光景に思わず足を止めた。
辺りに殺戮を振りまく白い怪物達が、夜空から無数に伸びる光の柱の中を、ゆっくりと降りてきているのが見えたのだ。
その光景は遥か向こうの空にまで及んでいた。
審判の日ーー
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