時計
時計
朝、携帯の目覚ましに起こされる。
「まだこんな時間じゃないか」ということを繰り返してギリギリになって初めて自分の状況に気づく。
布団を押入れに詰めて、服を着替えて、下の階のリビングに向かう。
お母さんは近所のスーパーに出かけ、お父さんはとっくに会社へと向かっていた。
お母さんの焼いてくれたパンは冷めていて、食欲がそそられなかったので、学校への道の途中にあるコンビニでおにぎりを買おうと思ったが、そんな時間は皆無だった。歯磨きをせず、学校へ行く。
走っていくと、交差点で信号が赤だった。
急いでいた俺は信号破っても、人に迷惑をかけなければいいやと思って、横断歩道を渡っていた。
ただ、走っていると、重大な問題に気づいた。
学校のバックと、遊びに行く時のバックを間違えていた。
なんか、もうどうでもよくなって、家に帰ろうと思った。
歩いていると、普段は閉まっているバブル時代に建設されたであろう、バーを改築した喫茶店が開店していた。
なぜか、ドアが少し空いていたので、足に身をまかせると、その中に入っていた。
「いらっしゃい」
60代であろうか
真っ黒なヒゲが特徴的なおじさんが迎えてくれた
店内は、俺とおじさんいがいは誰もいなくて、テーブルが4つほどあったが、一人で何かを飲もうとは微塵も考えていなかったので、カウンター席に座った。
座って初めて気づいたのだが、店内には無数の時計が飾ってあった。
しかも、それらは四角いものや六角形のもの、蝶の形、太陽の形、アニメのキャラクターと、多種多様であって、俺はおじいそんの趣味かと思って、話を聞いてみた。
「なんで、こんなに時計があるんですか?」
「お前さんは、喫茶店に来て、何も頼まずに、俺に話しかけるのかい?」
そういえば、何も頼んでいなかった。
「じゃあ、200円くらいで飲めるもので」
実際、昨日、ゲームセンターに行って、お金を使い過ぎてしまったので、お金は400円程しか残っていなかった。
「あいよ」
正直、お母さんがいつも注いでくれるミロが一番飲みたかったが、喫茶店でミロの注文はなんとなく、気がひけた。
「で、こんなに沢山の時計、どうして買ったんですか?」
「買ったんじゃなくて、迷い込んできたのさ」
「はい?」
何を言っているのかわからなかった。
「お客さんが、よう分からん時計をみんなここに置いていくのさ。それで、その時間をぐちゃぐちゃにしてあげるんだよ。」
「はあ」
歳のせいだろう。飲み物を飲んだらすぐ帰ろう。
「なるほど」
「お前さんは時計持ってきたかい?」
右手にはいつも身につけている中国製の時計があった。
「もらったろか?」
「は?」
素で「は?」と言ったのは小学生以来だろうか。
怖くなってきた。
時計を見ると、もう授業が始まっている時間だった。
なんだか、背後から知らない誰かにまじまじと見られている感覚に襲われて、言いようもなく不安になった。
「俺、急用思い出したんで、行きます」
「まあまあ、落ち着きなさいよ。これだけ飲んでお行きなさいよ」
目の前に置かれたのは、真っ黒のよくわからないコーヒーだった。
飲みたくない。
「すいません、本当に時間ないんで」
おじさんは悲しそうな目をしたが、俺の何かを諦めたように
「分かったよ。これから頑張りや。じゃあ、間に合うようにな」
「ありがとうございました」
200円を置いて店から逃げ出すように出た。
時計を見ると、一限目の古典がとっくに始まっている時間だった。
急ごう。
俺は、何かに追われて生きている。
これまでも、これからも。
「まだこんな時間じゃないか」ということを繰り返してギリギリになって初めて自分の状況に気づく。
布団を押入れに詰めて、服を着替えて、下の階のリビングに向かう。
お母さんは近所のスーパーに出かけ、お父さんはとっくに会社へと向かっていた。
お母さんの焼いてくれたパンは冷めていて、食欲がそそられなかったので、学校への道の途中にあるコンビニでおにぎりを買おうと思ったが、そんな時間は皆無だった。歯磨きをせず、学校へ行く。
走っていくと、交差点で信号が赤だった。
急いでいた俺は信号破っても、人に迷惑をかけなければいいやと思って、横断歩道を渡っていた。
ただ、走っていると、重大な問題に気づいた。
学校のバックと、遊びに行く時のバックを間違えていた。
なんか、もうどうでもよくなって、家に帰ろうと思った。
歩いていると、普段は閉まっているバブル時代に建設されたであろう、バーを改築した喫茶店が開店していた。
なぜか、ドアが少し空いていたので、足に身をまかせると、その中に入っていた。
「いらっしゃい」
60代であろうか
真っ黒なヒゲが特徴的なおじさんが迎えてくれた
店内は、俺とおじさんいがいは誰もいなくて、テーブルが4つほどあったが、一人で何かを飲もうとは微塵も考えていなかったので、カウンター席に座った。
座って初めて気づいたのだが、店内には無数の時計が飾ってあった。
しかも、それらは四角いものや六角形のもの、蝶の形、太陽の形、アニメのキャラクターと、多種多様であって、俺はおじいそんの趣味かと思って、話を聞いてみた。
「なんで、こんなに時計があるんですか?」
「お前さんは、喫茶店に来て、何も頼まずに、俺に話しかけるのかい?」
そういえば、何も頼んでいなかった。
「じゃあ、200円くらいで飲めるもので」
実際、昨日、ゲームセンターに行って、お金を使い過ぎてしまったので、お金は400円程しか残っていなかった。
「あいよ」
正直、お母さんがいつも注いでくれるミロが一番飲みたかったが、喫茶店でミロの注文はなんとなく、気がひけた。
「で、こんなに沢山の時計、どうして買ったんですか?」
「買ったんじゃなくて、迷い込んできたのさ」
「はい?」
何を言っているのかわからなかった。
「お客さんが、よう分からん時計をみんなここに置いていくのさ。それで、その時間をぐちゃぐちゃにしてあげるんだよ。」
「はあ」
歳のせいだろう。飲み物を飲んだらすぐ帰ろう。
「なるほど」
「お前さんは時計持ってきたかい?」
右手にはいつも身につけている中国製の時計があった。
「もらったろか?」
「は?」
素で「は?」と言ったのは小学生以来だろうか。
怖くなってきた。
時計を見ると、もう授業が始まっている時間だった。
なんだか、背後から知らない誰かにまじまじと見られている感覚に襲われて、言いようもなく不安になった。
「俺、急用思い出したんで、行きます」
「まあまあ、落ち着きなさいよ。これだけ飲んでお行きなさいよ」
目の前に置かれたのは、真っ黒のよくわからないコーヒーだった。
飲みたくない。
「すいません、本当に時間ないんで」
おじさんは悲しそうな目をしたが、俺の何かを諦めたように
「分かったよ。これから頑張りや。じゃあ、間に合うようにな」
「ありがとうございました」
200円を置いて店から逃げ出すように出た。
時計を見ると、一限目の古典がとっくに始まっている時間だった。
急ごう。
俺は、何かに追われて生きている。
これまでも、これからも。
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