死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。
見据える先と越えるべき壁
己さえも魔力の一部と捉え、流れに乗る。意識は白く、存在が希薄になるほどに、深く深く集中に沈む。それが『対抗魔法』のコツだと、ハルンは言った。
魔法の発動時の魔力流。それを“掴み取る”イメージで、常に場の魔力を把握するべく全身の感覚を全開にしておく。レイラとの戦闘時、ハルンが参加できなかったのはその為だ。
魔力流とは、渦風の様なものだと言う。対抗魔法のイメージとは、その渦の流れに手を伸ばし、乱す事なのだと。
ならば、一度形を成してしまった魔法とは、さながら竜巻だろう。魔法の威力により規模の違いこそあれ、そこに手を突っ込むなど自殺行為でしか有り得ない。
ましてや発動された神域魔法など、最大クラスの自然災害だ。乱す乱せない云々以前の問題で、まともに触れる事すら適わない。
だからどうあがいたってがくえんちょうせんせいにはたどりつけないんだこざいくなんかつうようしないんだほんとうにりかいできてるのかいまったくきみというやつはあーだこーだ。
説明ついでのネガティブ発言があまりにもうざかったので思わず俺は、
「あー、ほっぺ大丈夫?」
「今に至ってもすこぶるジンジン喚いているよ。これでも一応乙女を捨てたつもりはないんだけどね。顔はないだろう顔は」
「いやいや、女はやっぱり子供を育てないといけないし腹はまずいよな――とか思ってたら迷わず顔面いってました。反省はしていない」
「しなよ!? 人として! 男として! この真っ赤に腫れた頬を見て存分にさ!」
「めんどい」
「そそそ、そういう問題かなぁ……ッ」
「そんなことより対抗魔法だよ対抗魔法。くだんねー失敗してもらっちゃ困るんだ。しゃんと集中しろ!」
「ぬぬぬぬぬ……ッ君とは後で決着をつけないといけないみたいだね……!」
「学園長とっ捕まえた後でなら、いつでもどーぞ?」
ハルンがメラメラと怒りの炎を燃やして睨みつけてくるのを、飄々とかわす。
こんなやりとりでも、さっきまでの地中核まで沈んでいきそうな雰囲気に比べれば全然良い。
まあ、こうしてやる気を取り戻してもらう為に、いくらか大事な話しをしたワケだが。
例えば――
「はあ……ところで君の――『ヘイト』だっけ? 本当に信じていいのかい? 僕はまだ半信半疑なんだけどね」
「これ以上口で言ったって納得できねーだろ。ここまできたらやって見せた方が早い」
「神様から授かった、神域魔法を越える異能、か。ミレ先生が知ったら解剖されそうだね」
「唐突にこえぇ事言い出すなよ!?」
「いいじゃない、だって君――」
アルティ以外、この世界の誰も知らない事実を、言った。
「死ねないんでしょ?」
そう、大雑把にではあるが、ハルンには俺の事情を明かしていた。
『ヘイト』の効果を最大限に発揮する為に、対抗魔法とやらについてもっと理解を深めておきたいというのに、肝心の術者であるハルン自身のやる気が欠けていた。
彼女の奮起を促す為にも、まずは学園長の『パラドクス』を打ち破れる可能性をはっきりと提示する必要があった。その手っ取り早い手段が『ヘイト』の存在であり、そうすると半ば必然的に『不死』に関してまでをも説明する流れとなっていった。
別に隠していたワケではないんで、それは良いんだが……
「はあはあはあ学園長せんせぇ……待っててくださいねえええええ……!」
「……」
学園長の残り香でも堪能するかの様に鼻をひくつかせ、学園長の歩き去っていった方角を血走った眼で凝視し、口の端から涎を一筋垂らしている人型の何か。
状況的に仕方がなかったとはいえ、初めて事情を打ち明かした相手がこんなんかと思うと少し悲しくなってくる。
前向きな思考と変態力を取り戻しつつあるハルンだが、『ヘイト』の可能性を示唆したくらいではこうはならなかった。
やっぱり、その次のヤツが一番の起爆剤だったろう――
『――学園長先生が嘘をついている?』
『嘘っていうより、演技しているって方が正確だな。多分そう」
『どうしてそんな事が分かるのさ? さっきの情報量の少ない会話で、何か感じたの?』
『俺も最初は、あいつらがヴァンストルからの刺客だと思い込んでた……が、そうなるとどうにも不自然に感じる点が多くてな』
『不自然?』
『一つ確認するが、お前の眼から見ても、学園長もレイラも間違いなく本人だった。そうだな?』
『間違いないね。レイラさんの戦闘スキルに学園長先生の神域魔法……とても偽者に真似できる技術じゃないよ』
『そして学園長は、遙か昔から世界の調律を考え、行動してきた』
『さすがに人間の僕はその辺りの事は書物でくらいしか知らないけど、知る限りではそれも間違いないよ』
『だから俺は最初、世界のバランスを保つ、つまりはゲインとヴァンストル。二つの大国が激突する事態を防ぐ為にミルヴァを捕らえてヴァンストルに引き渡すつもりでこんな事をしたのかと考えた。でも違うな、ただそれだけならわざわざこんな事しなくても、堂々とゲイン・アルムハンドとして公言すりゃいい。少なくともゲインにおいて、あいつが決めた方針に逆らうヤツはいやしねぇ。お前だってそうだろう?』
『もちろんさ! あの方の意見に口を挟める人なんて、ミハイル先生くらいしか思い当たらないよ』
『あ、ミハイルは逆らえるんだ……“いやしねぇ”とか言っておいて誰かいたんじゃ恥ずかしい』
『君の恥なんてどうでもいいから、さっさと続き聞かせてよ』
『お前学園長絡みだと容赦ないね……元気出てきたみたいだから、別にいいけどさ』
『つーづーきー!』
『へいへい……以上を踏まえ、学園長をヴァンストル側に置いてこの状況を考えるとすれば、自身の窮地を演出する事で学園から引き剥がしたかったヤツがいるとしか思えない。だけど言った通り、学園の中だけで考えればわざわざそんな事をする必要はない。つまり、“ソイツ”は本来学園の外の人物である可能性が高い。んで、この時期にそんな条件に当て嵌まるのはたったの二人』
『君と、ミルヴァーナ姫だね』
『ん。でもってあのクセモノ学園長なら、こんな事したってミルヴァが学園から出てこない事は分かってたはず、つまりは消去法で、ただ一人』
『……』
『自分の意向に従うかどうか不透明、龍族を倒すほどの未知数な戦闘力。ミルヴァともそれなりに付き合いがあって、いざ事が起こった時、どう動くかが全く読めない――学園長が俺を遠ざけたいって考えても不思議はないわな』
『――確かに、一応、筋は通っている。いる、けど……』
『ああ、やっぱり引っ掛かる? 俺もだよ。なんでって、今度は少し雑過ぎる』
『今こうして次々とボロが出てきている事自体が有り得ない。あの人が本気で練った計画だったら、それこそ誰一人に気付かれる事なく終わっていても不思議はないよ』
『龍族の件もあるし、突発的過ぎて対応が間に合わなかったかとも思ったが、その程度で粗が出るようなヤツが何百年も世界のバランスなんざ守ってこられるわけはない。むしろ俺を排除したいだけならそのまま龍族に突き出せばいいだけの話しなんだから、龍族が来た事はむしろ渡りに船だったはず。なのにそうしなかった……それだけでも、他に狙いがあったと見て取れる』
『つまり』
『わざと、意図的、故意、演技……そうなるよな』
『なんで、そんなこと……?』
『それはさすがに訊いてみにゃわからん。だが少なくともあくまでヴァンストル側として考えを進めるよりはそっちのが真相に近い確信がある。だとすればお前に“ダメだ”つった事も本心だったかどうか怪しいもんだ。んで、答え合わせの為にもさっさとこんなところは切り抜けて、学園長を追うべきだと俺は考えるんだが、どうか?』
『……』
『学園長の本音……知りたくね?』
『……………………知りたい!』
――それでやっとこさやる気を取り戻し、今に至る。
目標が定まったハルンは、元々の優秀さを取り戻し、実に無駄なく対抗魔法についてのイメージを掴ませてくれた。
改めて考えて、やっぱこの魔法はすげぇ。
研究途中で未完成とハルンは言うが、既に実戦で使えるレベルだし、俺からすりゃ十分な完成度だ。
そもそも最初に最上級魔法までは想定してあるとか言ってたし、今回は偶々相手が悪かっただけで、本来ならこの世のほぼ全ての魔法に対し有効なんじゃなかろうか? これがハルンの望む域にまで達し、実用化したとすれば、この世界の戦場風景が大きく変わる事になるかもしれない。
そして、この件が成功したとすれば、それはきっと俺の望みにも――
「キラノ君?」
「おっと、何でもない」
「君の頭の回転が速いのはわかったから、人に集中しろって言っておいて自分だけ適当にやるのはやめてよね」
「しねぇっつの。お前がトチんねぇかどうか心配してただけだ」
「……」
「あ」
やべ、言い訳間違えたか。
ようやくやる気を出してくれたのに、また逆戻りされたら困る。っていうか詰む。
なにわなくとも謝ろうと、口を開く前に、
「そりゃ、不安は不安だよ。どれだけ気力を取り戻したって、子供の頃から憧れだった人の全力が目の前に立ち塞がってるんだ。頭が冷えて、心が燃えてきて、その上でまだ、自信なんてない――いや、怖いよ」
「ハルン?」
「怖いよ……もし僕の全力が何一つ起こす事無く弾き返されたら? 僕のこれまでの努力なんて、あの人の足元にすら及んでいないと思い知らされたら? 想像しただけで、怖くて怖くてたまらない……!」
「ハルン」
「でもっ逃げない! 学園長先生の口から、今度こそ真実を聞きたいっ。その時に胸を張っていられる様に、今ここで、これ以上情けない自分になりたくないんだっ!」
「ハルン!」
逃げないと、胸を張って学園長の前に立つと猛りながら、一瞬の後に何もかもを失う恐怖に全身を震わせているその肩を抱きしめた。
「あ……」
「やれる。お前もお前の考えた魔法も半端じゃない。二人で力を合わせれば、絶対に届く」
「……うん」
「学園長とっ捕まえて、二人でとても口にはできない尋問でもしてやろうぜ。涎が出るだろ」
「はは……それは、楽しそうだね…………」
両目に雫を浮かべ、薄く笑った直後――瞳は魔法士のものとなる。
「対抗――発動……!」
対抗魔法と神域魔法。
後に歴史を揺るがす事となる究極魔法が、初めて神の領域と激突した瞬間だった。
魔法の発動時の魔力流。それを“掴み取る”イメージで、常に場の魔力を把握するべく全身の感覚を全開にしておく。レイラとの戦闘時、ハルンが参加できなかったのはその為だ。
魔力流とは、渦風の様なものだと言う。対抗魔法のイメージとは、その渦の流れに手を伸ばし、乱す事なのだと。
ならば、一度形を成してしまった魔法とは、さながら竜巻だろう。魔法の威力により規模の違いこそあれ、そこに手を突っ込むなど自殺行為でしか有り得ない。
ましてや発動された神域魔法など、最大クラスの自然災害だ。乱す乱せない云々以前の問題で、まともに触れる事すら適わない。
だからどうあがいたってがくえんちょうせんせいにはたどりつけないんだこざいくなんかつうようしないんだほんとうにりかいできてるのかいまったくきみというやつはあーだこーだ。
説明ついでのネガティブ発言があまりにもうざかったので思わず俺は、
「あー、ほっぺ大丈夫?」
「今に至ってもすこぶるジンジン喚いているよ。これでも一応乙女を捨てたつもりはないんだけどね。顔はないだろう顔は」
「いやいや、女はやっぱり子供を育てないといけないし腹はまずいよな――とか思ってたら迷わず顔面いってました。反省はしていない」
「しなよ!? 人として! 男として! この真っ赤に腫れた頬を見て存分にさ!」
「めんどい」
「そそそ、そういう問題かなぁ……ッ」
「そんなことより対抗魔法だよ対抗魔法。くだんねー失敗してもらっちゃ困るんだ。しゃんと集中しろ!」
「ぬぬぬぬぬ……ッ君とは後で決着をつけないといけないみたいだね……!」
「学園長とっ捕まえた後でなら、いつでもどーぞ?」
ハルンがメラメラと怒りの炎を燃やして睨みつけてくるのを、飄々とかわす。
こんなやりとりでも、さっきまでの地中核まで沈んでいきそうな雰囲気に比べれば全然良い。
まあ、こうしてやる気を取り戻してもらう為に、いくらか大事な話しをしたワケだが。
例えば――
「はあ……ところで君の――『ヘイト』だっけ? 本当に信じていいのかい? 僕はまだ半信半疑なんだけどね」
「これ以上口で言ったって納得できねーだろ。ここまできたらやって見せた方が早い」
「神様から授かった、神域魔法を越える異能、か。ミレ先生が知ったら解剖されそうだね」
「唐突にこえぇ事言い出すなよ!?」
「いいじゃない、だって君――」
アルティ以外、この世界の誰も知らない事実を、言った。
「死ねないんでしょ?」
そう、大雑把にではあるが、ハルンには俺の事情を明かしていた。
『ヘイト』の効果を最大限に発揮する為に、対抗魔法とやらについてもっと理解を深めておきたいというのに、肝心の術者であるハルン自身のやる気が欠けていた。
彼女の奮起を促す為にも、まずは学園長の『パラドクス』を打ち破れる可能性をはっきりと提示する必要があった。その手っ取り早い手段が『ヘイト』の存在であり、そうすると半ば必然的に『不死』に関してまでをも説明する流れとなっていった。
別に隠していたワケではないんで、それは良いんだが……
「はあはあはあ学園長せんせぇ……待っててくださいねえええええ……!」
「……」
学園長の残り香でも堪能するかの様に鼻をひくつかせ、学園長の歩き去っていった方角を血走った眼で凝視し、口の端から涎を一筋垂らしている人型の何か。
状況的に仕方がなかったとはいえ、初めて事情を打ち明かした相手がこんなんかと思うと少し悲しくなってくる。
前向きな思考と変態力を取り戻しつつあるハルンだが、『ヘイト』の可能性を示唆したくらいではこうはならなかった。
やっぱり、その次のヤツが一番の起爆剤だったろう――
『――学園長先生が嘘をついている?』
『嘘っていうより、演技しているって方が正確だな。多分そう」
『どうしてそんな事が分かるのさ? さっきの情報量の少ない会話で、何か感じたの?』
『俺も最初は、あいつらがヴァンストルからの刺客だと思い込んでた……が、そうなるとどうにも不自然に感じる点が多くてな』
『不自然?』
『一つ確認するが、お前の眼から見ても、学園長もレイラも間違いなく本人だった。そうだな?』
『間違いないね。レイラさんの戦闘スキルに学園長先生の神域魔法……とても偽者に真似できる技術じゃないよ』
『そして学園長は、遙か昔から世界の調律を考え、行動してきた』
『さすがに人間の僕はその辺りの事は書物でくらいしか知らないけど、知る限りではそれも間違いないよ』
『だから俺は最初、世界のバランスを保つ、つまりはゲインとヴァンストル。二つの大国が激突する事態を防ぐ為にミルヴァを捕らえてヴァンストルに引き渡すつもりでこんな事をしたのかと考えた。でも違うな、ただそれだけならわざわざこんな事しなくても、堂々とゲイン・アルムハンドとして公言すりゃいい。少なくともゲインにおいて、あいつが決めた方針に逆らうヤツはいやしねぇ。お前だってそうだろう?』
『もちろんさ! あの方の意見に口を挟める人なんて、ミハイル先生くらいしか思い当たらないよ』
『あ、ミハイルは逆らえるんだ……“いやしねぇ”とか言っておいて誰かいたんじゃ恥ずかしい』
『君の恥なんてどうでもいいから、さっさと続き聞かせてよ』
『お前学園長絡みだと容赦ないね……元気出てきたみたいだから、別にいいけどさ』
『つーづーきー!』
『へいへい……以上を踏まえ、学園長をヴァンストル側に置いてこの状況を考えるとすれば、自身の窮地を演出する事で学園から引き剥がしたかったヤツがいるとしか思えない。だけど言った通り、学園の中だけで考えればわざわざそんな事をする必要はない。つまり、“ソイツ”は本来学園の外の人物である可能性が高い。んで、この時期にそんな条件に当て嵌まるのはたったの二人』
『君と、ミルヴァーナ姫だね』
『ん。でもってあのクセモノ学園長なら、こんな事したってミルヴァが学園から出てこない事は分かってたはず、つまりは消去法で、ただ一人』
『……』
『自分の意向に従うかどうか不透明、龍族を倒すほどの未知数な戦闘力。ミルヴァともそれなりに付き合いがあって、いざ事が起こった時、どう動くかが全く読めない――学園長が俺を遠ざけたいって考えても不思議はないわな』
『――確かに、一応、筋は通っている。いる、けど……』
『ああ、やっぱり引っ掛かる? 俺もだよ。なんでって、今度は少し雑過ぎる』
『今こうして次々とボロが出てきている事自体が有り得ない。あの人が本気で練った計画だったら、それこそ誰一人に気付かれる事なく終わっていても不思議はないよ』
『龍族の件もあるし、突発的過ぎて対応が間に合わなかったかとも思ったが、その程度で粗が出るようなヤツが何百年も世界のバランスなんざ守ってこられるわけはない。むしろ俺を排除したいだけならそのまま龍族に突き出せばいいだけの話しなんだから、龍族が来た事はむしろ渡りに船だったはず。なのにそうしなかった……それだけでも、他に狙いがあったと見て取れる』
『つまり』
『わざと、意図的、故意、演技……そうなるよな』
『なんで、そんなこと……?』
『それはさすがに訊いてみにゃわからん。だが少なくともあくまでヴァンストル側として考えを進めるよりはそっちのが真相に近い確信がある。だとすればお前に“ダメだ”つった事も本心だったかどうか怪しいもんだ。んで、答え合わせの為にもさっさとこんなところは切り抜けて、学園長を追うべきだと俺は考えるんだが、どうか?』
『……』
『学園長の本音……知りたくね?』
『……………………知りたい!』
――それでやっとこさやる気を取り戻し、今に至る。
目標が定まったハルンは、元々の優秀さを取り戻し、実に無駄なく対抗魔法についてのイメージを掴ませてくれた。
改めて考えて、やっぱこの魔法はすげぇ。
研究途中で未完成とハルンは言うが、既に実戦で使えるレベルだし、俺からすりゃ十分な完成度だ。
そもそも最初に最上級魔法までは想定してあるとか言ってたし、今回は偶々相手が悪かっただけで、本来ならこの世のほぼ全ての魔法に対し有効なんじゃなかろうか? これがハルンの望む域にまで達し、実用化したとすれば、この世界の戦場風景が大きく変わる事になるかもしれない。
そして、この件が成功したとすれば、それはきっと俺の望みにも――
「キラノ君?」
「おっと、何でもない」
「君の頭の回転が速いのはわかったから、人に集中しろって言っておいて自分だけ適当にやるのはやめてよね」
「しねぇっつの。お前がトチんねぇかどうか心配してただけだ」
「……」
「あ」
やべ、言い訳間違えたか。
ようやくやる気を出してくれたのに、また逆戻りされたら困る。っていうか詰む。
なにわなくとも謝ろうと、口を開く前に、
「そりゃ、不安は不安だよ。どれだけ気力を取り戻したって、子供の頃から憧れだった人の全力が目の前に立ち塞がってるんだ。頭が冷えて、心が燃えてきて、その上でまだ、自信なんてない――いや、怖いよ」
「ハルン?」
「怖いよ……もし僕の全力が何一つ起こす事無く弾き返されたら? 僕のこれまでの努力なんて、あの人の足元にすら及んでいないと思い知らされたら? 想像しただけで、怖くて怖くてたまらない……!」
「ハルン」
「でもっ逃げない! 学園長先生の口から、今度こそ真実を聞きたいっ。その時に胸を張っていられる様に、今ここで、これ以上情けない自分になりたくないんだっ!」
「ハルン!」
逃げないと、胸を張って学園長の前に立つと猛りながら、一瞬の後に何もかもを失う恐怖に全身を震わせているその肩を抱きしめた。
「あ……」
「やれる。お前もお前の考えた魔法も半端じゃない。二人で力を合わせれば、絶対に届く」
「……うん」
「学園長とっ捕まえて、二人でとても口にはできない尋問でもしてやろうぜ。涎が出るだろ」
「はは……それは、楽しそうだね…………」
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