死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。
理不尽に勝る『平等』はこの世にあるのだろうか?
「ッ」
 迫り来る死神の一閃を前に、レイラは超人的な速度で対応する。振り下ろされた鎌に対し、迷わず回避する事を選択した。俺の放つ微妙な雰囲気の変化を鋭敏に察知し、鎌の危険度を一目で看破し、状況を瞬時に理解した上で動いた。
まあ、つまりだ。
生け捕りを諦め、殺す気できた。
「シッ!」
長い袖から靡く髪からフリル付きのスカートから、全身のあらゆる箇所から一斉に暗器が飛んできた。恐らくこれが、持てる全ての武器だろう。
軌道も見事の一言で、数十にもなる小粒な武器が全て微妙に角度や速度を変えて、急所もそうでないところも狙って撃ってくる。真っ当に考えれば、全て防ぐのはまず不可能。
でも残念、これならミルヴァの火炎弾のが遥かに防ぎ辛かったなあ!
ダラリと両腕から力を抜く。関節の使い方とは、何も曲げたり握ったりばかりではない。
――脱力。
肩関節から先の一切の力を抜く事で、腕からは硬さが抜け、しなりを得る。後は『ソレ』を、振り回すだけで良い。
「よっ……とぉ!」
「……!?」
膝を曲げ腰を回す。全身の柔軟性から得た速度と遠心力を以って振り回される両腕は、もはや鞭と変わらない。
迫る武器を片端から叩き落す、『蛇鞭』だ。
急所は守らずとも『不死』が防いでくれただろうが、力の差を見せ付ける意味で、敢えて全ての暗器を狩り尽くした。
己の持てる武器全てが粉々になる様を見せ付けられ、流石のレイラもはっきりと表情が歪む。
――小細工は通用しない。否応無くそれを悟らされた彼女に残されたものはただ一つ。
「すぅ――――」
呼吸を整え、集中した彼女の全身を魔力が包む。強化は一瞬で完了し、妨害の余地など微塵もない。
魔法初心者の俺から見ても滑らかで、魔法学園の教官として恥じないレベルの使い手だったと窺い知れる。今の彼女の拳は岩をも砕く凶器と化している。防御力の方も、きっと人並み外れているんだろう。
ただただ残念なのは、
「俺にゃ関係ねーな」
強ければ強い奴ほど、俺には攻撃を届かせられなくなる。自分を殺せる相手を求めて、強い相手を探せば探すほど絶望する。
理不尽ってのは平等だ、俺自身に対しても例外なく。
だから躊躇なく踏み込んだ。生き残ってしまう以上に怖いことなど、俺にはない。
ピクリと、レイラの眉が跳ねる。つい先ほど一撃で何メートルもすっ飛ばされたにも関わらず接近に迷いを見せない様子を、不審にでも思ったか。
「終わりです!」
とはいえそこは、さすがに達人級。繰り出された剛拳に、疑念による陰りは全くない。
むしろ、これまでで最も強烈な、殺さないよう気を遣われた先のソレとは別次元の一撃だ。人間の頭蓋など、掠っただけで砕かれる。
それでこそ、真っ向から迎え撃つに値するってもんだ。
……二本かな。
俺は迫る殺人拳に対し“指を二本突き出して応じた”。
「!」
レイラは端から見れば奇行とも呼べる俺の動きにわずかに瞠目しつつ、腕の勢いを落とす事無く突き抜く。
まあそうだな。真っ当に考えりゃ、全力の突きを指で防げるわけはない。お前の判断は正しいよ。
だが、狭い。視野があまりにも、狭すぎる。
そこまで考えて思い出す。そーいや、俺って教師だったっけか。
だったら――
「授業の時間だ。お前に本物の『理不尽』を教えてやる」
授業料は、お前が持ってる情報だよ。
――そして拳が、指先に僅かに触れた。その瞬間、
拳は俺の眼前一ミリ手前で完全に停止していた。
寸止めじゃない。レイラは間違いなく俺の顔面を撃ち抜くつもりだった。なのにその、鉄塊にもめり込みそうな威力の拳は、俺の指に触れただけで勢いが完全に死んだのだ。
「な――に……?」
何が起こったか、分からないって顔だな。
おかげで隙だらけだぞっとお!
「しまっ……!?」
遅いっつーの!
手を開き、五本の指を胸の辺りに突き刺した。
血は流れない貫通まではさせない、めり込むくらいで十分だ。『コイツ』を打ち込むにはな!
「本来は、救命道具がない際の裏技として開発したんだがなあ」
せいぜい味わえよ、もてなすのはお前の専売特許じゃねーんだぜ?
そして俺は……
「『縛』」
めり込ませた指を、タイミングに合わせて圧縮した。心臓の鼓動、まさにその、コンマ単位の直後。
“有り得ないリズムと有り得ない強度”で刻まれた、人工的に打ち込まれた『鼓動』が全てを壊す。
「か…………っ……!?」
息が詰まり、悲鳴などあげられまい。
呼吸が狂い、血流が狂う。酸欠で脳の回転が停滞し、筋硬直みたいに手足が動かせない。
いわゆる『急性心不全』の症状に陥っているわけだ。意識すら、半ば以上飛んでいるだろう。
「ッ……ぁ……!」
パクパクと声にならない叫びをあげ、受身すら取れないままに、大の字に倒れる。まだ意識は残している様だが、もはや指一本たりとも動かせまい、勝敗は完全に決していた。
それを勝者の視点から見下ろし、片腕を天へと突き上げる。
異世界最初の技術戦――
「俺の勝ちぃ」
笑みを以って、宣言した。
 迫り来る死神の一閃を前に、レイラは超人的な速度で対応する。振り下ろされた鎌に対し、迷わず回避する事を選択した。俺の放つ微妙な雰囲気の変化を鋭敏に察知し、鎌の危険度を一目で看破し、状況を瞬時に理解した上で動いた。
まあ、つまりだ。
生け捕りを諦め、殺す気できた。
「シッ!」
長い袖から靡く髪からフリル付きのスカートから、全身のあらゆる箇所から一斉に暗器が飛んできた。恐らくこれが、持てる全ての武器だろう。
軌道も見事の一言で、数十にもなる小粒な武器が全て微妙に角度や速度を変えて、急所もそうでないところも狙って撃ってくる。真っ当に考えれば、全て防ぐのはまず不可能。
でも残念、これならミルヴァの火炎弾のが遥かに防ぎ辛かったなあ!
ダラリと両腕から力を抜く。関節の使い方とは、何も曲げたり握ったりばかりではない。
――脱力。
肩関節から先の一切の力を抜く事で、腕からは硬さが抜け、しなりを得る。後は『ソレ』を、振り回すだけで良い。
「よっ……とぉ!」
「……!?」
膝を曲げ腰を回す。全身の柔軟性から得た速度と遠心力を以って振り回される両腕は、もはや鞭と変わらない。
迫る武器を片端から叩き落す、『蛇鞭』だ。
急所は守らずとも『不死』が防いでくれただろうが、力の差を見せ付ける意味で、敢えて全ての暗器を狩り尽くした。
己の持てる武器全てが粉々になる様を見せ付けられ、流石のレイラもはっきりと表情が歪む。
――小細工は通用しない。否応無くそれを悟らされた彼女に残されたものはただ一つ。
「すぅ――――」
呼吸を整え、集中した彼女の全身を魔力が包む。強化は一瞬で完了し、妨害の余地など微塵もない。
魔法初心者の俺から見ても滑らかで、魔法学園の教官として恥じないレベルの使い手だったと窺い知れる。今の彼女の拳は岩をも砕く凶器と化している。防御力の方も、きっと人並み外れているんだろう。
ただただ残念なのは、
「俺にゃ関係ねーな」
強ければ強い奴ほど、俺には攻撃を届かせられなくなる。自分を殺せる相手を求めて、強い相手を探せば探すほど絶望する。
理不尽ってのは平等だ、俺自身に対しても例外なく。
だから躊躇なく踏み込んだ。生き残ってしまう以上に怖いことなど、俺にはない。
ピクリと、レイラの眉が跳ねる。つい先ほど一撃で何メートルもすっ飛ばされたにも関わらず接近に迷いを見せない様子を、不審にでも思ったか。
「終わりです!」
とはいえそこは、さすがに達人級。繰り出された剛拳に、疑念による陰りは全くない。
むしろ、これまでで最も強烈な、殺さないよう気を遣われた先のソレとは別次元の一撃だ。人間の頭蓋など、掠っただけで砕かれる。
それでこそ、真っ向から迎え撃つに値するってもんだ。
……二本かな。
俺は迫る殺人拳に対し“指を二本突き出して応じた”。
「!」
レイラは端から見れば奇行とも呼べる俺の動きにわずかに瞠目しつつ、腕の勢いを落とす事無く突き抜く。
まあそうだな。真っ当に考えりゃ、全力の突きを指で防げるわけはない。お前の判断は正しいよ。
だが、狭い。視野があまりにも、狭すぎる。
そこまで考えて思い出す。そーいや、俺って教師だったっけか。
だったら――
「授業の時間だ。お前に本物の『理不尽』を教えてやる」
授業料は、お前が持ってる情報だよ。
――そして拳が、指先に僅かに触れた。その瞬間、
拳は俺の眼前一ミリ手前で完全に停止していた。
寸止めじゃない。レイラは間違いなく俺の顔面を撃ち抜くつもりだった。なのにその、鉄塊にもめり込みそうな威力の拳は、俺の指に触れただけで勢いが完全に死んだのだ。
「な――に……?」
何が起こったか、分からないって顔だな。
おかげで隙だらけだぞっとお!
「しまっ……!?」
遅いっつーの!
手を開き、五本の指を胸の辺りに突き刺した。
血は流れない貫通まではさせない、めり込むくらいで十分だ。『コイツ』を打ち込むにはな!
「本来は、救命道具がない際の裏技として開発したんだがなあ」
せいぜい味わえよ、もてなすのはお前の専売特許じゃねーんだぜ?
そして俺は……
「『縛』」
めり込ませた指を、タイミングに合わせて圧縮した。心臓の鼓動、まさにその、コンマ単位の直後。
“有り得ないリズムと有り得ない強度”で刻まれた、人工的に打ち込まれた『鼓動』が全てを壊す。
「か…………っ……!?」
息が詰まり、悲鳴などあげられまい。
呼吸が狂い、血流が狂う。酸欠で脳の回転が停滞し、筋硬直みたいに手足が動かせない。
いわゆる『急性心不全』の症状に陥っているわけだ。意識すら、半ば以上飛んでいるだろう。
「ッ……ぁ……!」
パクパクと声にならない叫びをあげ、受身すら取れないままに、大の字に倒れる。まだ意識は残している様だが、もはや指一本たりとも動かせまい、勝敗は完全に決していた。
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