死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。
死にたがりと生きたがり
一度門を潜ると、前には建物一つ見当たらない広原が広がっていた。国の中があれだけ人で充満していただけに、あまりの変化にそれこそ別世界にでも来たかのような錯覚すら感じる。
しかし、ゲインは交易国としても有数の大国だ。
街道は人や馬車が行き来しやすいように手を加えられているし、少し離れたところに視線をやれば、許可証待ちと思われるいくつかの集団が並んでいるのが見えた。
やがてその僅かな名残でさえも小さくなっていき、気配も感じなくなったところで、顔を引っ込めた。
あんな毎日がお祭り騒ぎな賑わいを見せるほどの国は滅多にない。当分ああいう雰囲気とはお別れだな。
そこで御者の人から笑って声を掛けられた。
「お客さーん、もしも魔物が出た時にはお願いしますよおー?」
「ええもちろん! 馬車の運行に支障は出させませんよ」
ハルンがすぐに返答したのを聞いて、俺は驚いていた。
「へ? この辺魔物でんの?」
「出るに決まってんだろぉぉがぁぁぁ……てめぇ、何処の田舎モンだぁぁ?」
「へえ、魔物かぁ」
熊とか虎とかサメとかゾンビなんかは倒した事があるが、さすがにモンスターはない。
なんか面白いやつに出会えないかと、少し楽しみだ。
パンッと小気味良い音と共に扇子を閉じたハルンが、口を開く。
「この辺りの魔物はなかなか手強いよ? 学園の実習課題で『特定の魔物を倒してくること』っていうものもあるしね。とはいえ、あまりに危険な種が近くにいられても交易に支障が出るし、そういう特にやばい魔物は昔ロリ園ちょ――学園長先生が一掃したらしいね」
ふむ、なるほど。
「お前あいつの事心の中でロリ園長って呼んでるのかー」
「あれっそっち!?」
まあ、そんな話はともかくとしてだ。
最初からずっと気になっていた事があるんだが……
「ヴァルガのおっさん」
「けっ気安く呼んでんじゃねぇぇ餓鬼がぁぁぁ」
気にせず聞く。
「横にある、やたらとでかい袋はなんなんだよ」
ヴァルガの隣には、小柄な人間なら一人丸々すっぽり。いくら旅とはいえ、そんなに持ち物は必要ないだろ。
「あん? 知らねぇよぉぉ。俺が座ったときにゃもうここにあったんだぁぁぁ」
「ホントかあ? ペットが心配で、つい連れてきちまったんじゃねぇの?」
「するかああぁぁぁ! 大体ペットじゃねぇよぉぉ、奴隷だぁぁぁ!」
「……むしろそっちのが酷くねぇか?」
大声でそんな台詞を叫ばないでほしい。
ほら御者さんがなんか、妙な目でこっちを見てるだろうが。
「ちっ……あいつなら知り合いに預けてあらぁぁぁ。下手すりゃ、同族との戦いに巻き込んじまうかもしれねぇぇってのに、連れてきたりなんぞしねぇぇ」
「……」
ふむ……嘘ではないかな。
と、なると。
「僕も知らないなぁ……見ての通り、あまり重い物は持ち歩けないからね。最小限の荷物しか持ってきていないよ」
三人が顔を見合わせる。
……あやしい。
もしかすると、ミハイルが用意した何か――という可能性もあるが、それだったらあの男はもったいぶらずに告げている気がする。
とすると、
「前の乗客の忘れ物とか?」
「こぉんなでけぇ荷物、誰が忘れるってんだよぉぉ」
「そだね。もしも本人が気付かなくても、他の乗客や御者の人が気付くだろうし」
確かに忘れるにはあまりにも目立ち過ぎる。
はて、では一体?
その時だった。
「……(モゾモゾ)」
「――ん?」
俺の視線が、何かありえないものを捉えた。
……ごしごし。
眼をこすって見直した時には、特に何もない。ないはずだ、が……
「(ぴょこ)」
「!?」
いや、間違いねえ!
俺は『ソレ』が何なのかを、正確に理解してしまったがために驚愕と動揺を隠せない。
ってかこれマズくねぇ!?
「どうしたぁクソガキィィ?」
「何か分かったの?」
「いやぁ……なんつーか、そのだな……」
自分でもちょっと信じ難い事なので、他の二人に告げるのも躊躇われて歯切れが悪くなる。
うわああぁぁぁ……どーするよ俺!? ってか何やってんだ『あいつ』は!
二人の疑惑の視線が強くなってきて、とうとう観念しそうになった時――
「死にたくなああああああああああああああああああああああああああああい!!!」
物凄い悲鳴が聞こえた。しかも俺的に聞き捨てならん。
全員瞬時に表情を切り替え、馬車の外を見やる。
そこには。
「逃げてきてるね……」
「こっちに向かって、思い切りな」
「後ろに大群引き連れやぁがってぇぇぇ」
遠目からだがおそらく俺とそう年の差がないくらいに若い、まだ少年と呼んでもおかしくない男が一人、この馬車に向かって全力疾走してくる。
――その後ろに数十もの魔物(たぶん)を連れながら。
「ど、どおーっ! どおぉぉっ!」
慌てて御者が馬を止めた。
まだ五百メートル以上の距離があるが、あの速度だと激突するまで二分と掛からないだろう。
「やれやれ……」
やるしかなさそうだな。
ヴァルガとハルンも、それぞれ戦闘態勢に入っている。
そういえばこいつら、どうやって戦うんだ?
「なあ、あんたらってどういう戦闘スタイルなの? ざっくりでいいんで、本格的に戦いに入る前に聞いておきたいんだけど」
「そりゃあもちろん魔法士スタイルさ。恥ずかしながら、あまり接近戦には自信がないものでね。基本的にはほど良い距離維持したまま魔法を打ち込むことになる。好みの属性は『風』系統かな」
「なるほど……おっさんは?」
「『治癒』系統魔法士だ」
「……」
ここであえて、ヴァルガの容姿に触れさせてもらおう。
身長は俺を大きく上回る二メートル越え、体格はトップアスリートと比較しても勝るとも劣らないムキムキさ。
右の頬には経緯不明な深い傷跡があり、適当に短くカットしただけの白髪と無精ヒゲ。
……
「ウソつけえええええ!」
「あああぁぁぁ!?」
有り得ん!
こんなヤ○ザもどきが回復系の魔法士なんぞ、何かの間違いだあっ。
ヴァルガの両肩をがっしりと掴み、言い聞かせる。
「あんたはどう考えても脳筋なパワータイプだろうが! そんな繊細な魔法が使える面構えじゃないし、俺をからかっているなら今すぐ吐けっ」
「…………ハルンよぉぉ、魔物の前にこのガキぶち殺してもいいかぁぁぁ?」
「せめて旅が終わった後にした方が賢明かと。それより、もうそこまで来ていますよ?」
確かに、いまや魔物の群れ(と男一人)はもうすぐそこに迫っていた。
拳を握り締め、関節の状態を確認――よし。『鎌』の調子は良好だ。
骨を鳴らし、獰猛に笑う。
「俺のスタイルは、実戦で見せてやんよ」
「けっ、興味ねぇよぉぉ。精々足引っ張らねぇ程度に逃げ回ってやがれぇ」
「回復役は後ろに引っ込んでてもいいんだぜ、おっさん?」
「テメェみてぇなクソガキに誰が背中預けるかよぉぉぉ」
「はいはい二人共減らず口はそこまで――――行きますよ!」
そして、魔物の群れに飛び込んでいく刹那――信じられない声が耳朶を打つ。
「やめろっ殺すなあああああああ!」
「――っはあ!?」
声の主に顔を向ける。
魔物に追われていた男。死ぬのはいやだと、無様に叫びながら逃げてきたそいつの口から、有り得ない言の葉が飛び出していた。
「っ!? ちぃ!」
出鼻を挫かれた俺は、魔物の一撃を危うくかわす。
狼の亜種のような魔物だ。ただし飛び掛って来る際に力を込めた脚が、地面をわずかだがヒビ割るほどの脚力。意識を逸らしていると、大怪我するかもしれない。
あんな男のいう事など気にしていられるか!
再度飛び掛ってきた魔物の首をかわしざまに掴み、瞬時に圧し折る。それで動かなくなった。
魔物といっても、基本的な急所は動物と同じみたいだ。これなら大して苦にならない。
ヴァルガやハルンもそれぞれ思うところはあったみたいだが、さすがあの曲者の下に鍛えられてきただけの事はある。
初手こそ陰りがあったものの、即座に冷静さを取り戻し、今は各々の実力のままに圧倒している。
「おぉぉぉらああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヴァルガが腕力に任せてラリアットをかまし、複数の魔物を一撃に葬っている。
……結局そういう戦い方になんのかよ。
回復魔法関係ないじゃん。
「『ウインド・プレス』!」
また別の場所ではハルンが、この混戦の中でどうやればああも距離感を保っていられるのか不思議になるほどに完璧な位置から、魔物の群れに強烈な魔法を叩き込んでいた。
その威力は凄まじく、一気に半分近くの魔物が魔法に巻き込まれて消し飛んだ。
こりゃあMVPは確定したな、さすがは本職。生徒会長の肩書きは伊達ではないということか。
ミルヴァとどっちが強いだろうか?
正直今の印象的にはミルヴァの圧勝なんだが、この変態まだ実力を隠してそうなんだよなあ……
っと! 意識を逸らしてるとやばいな。
こっちに向かってきた、いわゆる『ゴブリン』っぽい敵に狙いを定めて――
「やめろおおおおおおッ!」
「なっ!?」
いきなりあの男が飛び掛かってきた。
「ちょ、この……ふざっけんな!」
ぶっ飛ばしてやろうと思ったのに、この男取っ組み合いながら妙に器用にかわしやがるっ。
なんなんだこいつは!?
「キラノくん! 前!」
「げっ」
ハルンの声に振り向けば、そこには既にゴブリンが手の届く距離で棍棒を振り上げていて。
「シッ」
男が横合いに出した蹴りが、ゴブリンを吹っ飛ばした。
「敵う相手か! さっさと逃げろ!」
さらにそいつは自分が蹴り飛ばしたゴブリンを怒鳴り付ける。
もう、意味不明だよ。
すっかり戦意を喪失したゴブリンは、そのままスコスコと近くの森へ向かって駆けていく。
俺はなんだか妙に疲れて、追いかける気にもならなかった。
そしてそれが最後の一匹だったらしい。
ヴァルガとハルンがこっちに駆け寄って来た。
「キラノくん、怪我は?」
「ないっ!」
いかん、別にハルンは何も悪くないのに怒鳴ってしまった。
俺が対処すべきは、目の前にいる。
「……」
こいつだ。この男。
助けてもらったクセに、礼を言うどころが睨みつけてきやがる無礼者。
それどころか、むしろ魔物を助けようとしていた節がある。
一体何モンだこのヤロウ!
しかし、ゲインは交易国としても有数の大国だ。
街道は人や馬車が行き来しやすいように手を加えられているし、少し離れたところに視線をやれば、許可証待ちと思われるいくつかの集団が並んでいるのが見えた。
やがてその僅かな名残でさえも小さくなっていき、気配も感じなくなったところで、顔を引っ込めた。
あんな毎日がお祭り騒ぎな賑わいを見せるほどの国は滅多にない。当分ああいう雰囲気とはお別れだな。
そこで御者の人から笑って声を掛けられた。
「お客さーん、もしも魔物が出た時にはお願いしますよおー?」
「ええもちろん! 馬車の運行に支障は出させませんよ」
ハルンがすぐに返答したのを聞いて、俺は驚いていた。
「へ? この辺魔物でんの?」
「出るに決まってんだろぉぉがぁぁぁ……てめぇ、何処の田舎モンだぁぁ?」
「へえ、魔物かぁ」
熊とか虎とかサメとかゾンビなんかは倒した事があるが、さすがにモンスターはない。
なんか面白いやつに出会えないかと、少し楽しみだ。
パンッと小気味良い音と共に扇子を閉じたハルンが、口を開く。
「この辺りの魔物はなかなか手強いよ? 学園の実習課題で『特定の魔物を倒してくること』っていうものもあるしね。とはいえ、あまりに危険な種が近くにいられても交易に支障が出るし、そういう特にやばい魔物は昔ロリ園ちょ――学園長先生が一掃したらしいね」
ふむ、なるほど。
「お前あいつの事心の中でロリ園長って呼んでるのかー」
「あれっそっち!?」
まあ、そんな話はともかくとしてだ。
最初からずっと気になっていた事があるんだが……
「ヴァルガのおっさん」
「けっ気安く呼んでんじゃねぇぇ餓鬼がぁぁぁ」
気にせず聞く。
「横にある、やたらとでかい袋はなんなんだよ」
ヴァルガの隣には、小柄な人間なら一人丸々すっぽり。いくら旅とはいえ、そんなに持ち物は必要ないだろ。
「あん? 知らねぇよぉぉ。俺が座ったときにゃもうここにあったんだぁぁぁ」
「ホントかあ? ペットが心配で、つい連れてきちまったんじゃねぇの?」
「するかああぁぁぁ! 大体ペットじゃねぇよぉぉ、奴隷だぁぁぁ!」
「……むしろそっちのが酷くねぇか?」
大声でそんな台詞を叫ばないでほしい。
ほら御者さんがなんか、妙な目でこっちを見てるだろうが。
「ちっ……あいつなら知り合いに預けてあらぁぁぁ。下手すりゃ、同族との戦いに巻き込んじまうかもしれねぇぇってのに、連れてきたりなんぞしねぇぇ」
「……」
ふむ……嘘ではないかな。
と、なると。
「僕も知らないなぁ……見ての通り、あまり重い物は持ち歩けないからね。最小限の荷物しか持ってきていないよ」
三人が顔を見合わせる。
……あやしい。
もしかすると、ミハイルが用意した何か――という可能性もあるが、それだったらあの男はもったいぶらずに告げている気がする。
とすると、
「前の乗客の忘れ物とか?」
「こぉんなでけぇ荷物、誰が忘れるってんだよぉぉ」
「そだね。もしも本人が気付かなくても、他の乗客や御者の人が気付くだろうし」
確かに忘れるにはあまりにも目立ち過ぎる。
はて、では一体?
その時だった。
「……(モゾモゾ)」
「――ん?」
俺の視線が、何かありえないものを捉えた。
……ごしごし。
眼をこすって見直した時には、特に何もない。ないはずだ、が……
「(ぴょこ)」
「!?」
いや、間違いねえ!
俺は『ソレ』が何なのかを、正確に理解してしまったがために驚愕と動揺を隠せない。
ってかこれマズくねぇ!?
「どうしたぁクソガキィィ?」
「何か分かったの?」
「いやぁ……なんつーか、そのだな……」
自分でもちょっと信じ難い事なので、他の二人に告げるのも躊躇われて歯切れが悪くなる。
うわああぁぁぁ……どーするよ俺!? ってか何やってんだ『あいつ』は!
二人の疑惑の視線が強くなってきて、とうとう観念しそうになった時――
「死にたくなああああああああああああああああああああああああああああい!!!」
物凄い悲鳴が聞こえた。しかも俺的に聞き捨てならん。
全員瞬時に表情を切り替え、馬車の外を見やる。
そこには。
「逃げてきてるね……」
「こっちに向かって、思い切りな」
「後ろに大群引き連れやぁがってぇぇぇ」
遠目からだがおそらく俺とそう年の差がないくらいに若い、まだ少年と呼んでもおかしくない男が一人、この馬車に向かって全力疾走してくる。
――その後ろに数十もの魔物(たぶん)を連れながら。
「ど、どおーっ! どおぉぉっ!」
慌てて御者が馬を止めた。
まだ五百メートル以上の距離があるが、あの速度だと激突するまで二分と掛からないだろう。
「やれやれ……」
やるしかなさそうだな。
ヴァルガとハルンも、それぞれ戦闘態勢に入っている。
そういえばこいつら、どうやって戦うんだ?
「なあ、あんたらってどういう戦闘スタイルなの? ざっくりでいいんで、本格的に戦いに入る前に聞いておきたいんだけど」
「そりゃあもちろん魔法士スタイルさ。恥ずかしながら、あまり接近戦には自信がないものでね。基本的にはほど良い距離維持したまま魔法を打ち込むことになる。好みの属性は『風』系統かな」
「なるほど……おっさんは?」
「『治癒』系統魔法士だ」
「……」
ここであえて、ヴァルガの容姿に触れさせてもらおう。
身長は俺を大きく上回る二メートル越え、体格はトップアスリートと比較しても勝るとも劣らないムキムキさ。
右の頬には経緯不明な深い傷跡があり、適当に短くカットしただけの白髪と無精ヒゲ。
……
「ウソつけえええええ!」
「あああぁぁぁ!?」
有り得ん!
こんなヤ○ザもどきが回復系の魔法士なんぞ、何かの間違いだあっ。
ヴァルガの両肩をがっしりと掴み、言い聞かせる。
「あんたはどう考えても脳筋なパワータイプだろうが! そんな繊細な魔法が使える面構えじゃないし、俺をからかっているなら今すぐ吐けっ」
「…………ハルンよぉぉ、魔物の前にこのガキぶち殺してもいいかぁぁぁ?」
「せめて旅が終わった後にした方が賢明かと。それより、もうそこまで来ていますよ?」
確かに、いまや魔物の群れ(と男一人)はもうすぐそこに迫っていた。
拳を握り締め、関節の状態を確認――よし。『鎌』の調子は良好だ。
骨を鳴らし、獰猛に笑う。
「俺のスタイルは、実戦で見せてやんよ」
「けっ、興味ねぇよぉぉ。精々足引っ張らねぇ程度に逃げ回ってやがれぇ」
「回復役は後ろに引っ込んでてもいいんだぜ、おっさん?」
「テメェみてぇなクソガキに誰が背中預けるかよぉぉぉ」
「はいはい二人共減らず口はそこまで――――行きますよ!」
そして、魔物の群れに飛び込んでいく刹那――信じられない声が耳朶を打つ。
「やめろっ殺すなあああああああ!」
「――っはあ!?」
声の主に顔を向ける。
魔物に追われていた男。死ぬのはいやだと、無様に叫びながら逃げてきたそいつの口から、有り得ない言の葉が飛び出していた。
「っ!? ちぃ!」
出鼻を挫かれた俺は、魔物の一撃を危うくかわす。
狼の亜種のような魔物だ。ただし飛び掛って来る際に力を込めた脚が、地面をわずかだがヒビ割るほどの脚力。意識を逸らしていると、大怪我するかもしれない。
あんな男のいう事など気にしていられるか!
再度飛び掛ってきた魔物の首をかわしざまに掴み、瞬時に圧し折る。それで動かなくなった。
魔物といっても、基本的な急所は動物と同じみたいだ。これなら大して苦にならない。
ヴァルガやハルンもそれぞれ思うところはあったみたいだが、さすがあの曲者の下に鍛えられてきただけの事はある。
初手こそ陰りがあったものの、即座に冷静さを取り戻し、今は各々の実力のままに圧倒している。
「おぉぉぉらああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヴァルガが腕力に任せてラリアットをかまし、複数の魔物を一撃に葬っている。
……結局そういう戦い方になんのかよ。
回復魔法関係ないじゃん。
「『ウインド・プレス』!」
また別の場所ではハルンが、この混戦の中でどうやればああも距離感を保っていられるのか不思議になるほどに完璧な位置から、魔物の群れに強烈な魔法を叩き込んでいた。
その威力は凄まじく、一気に半分近くの魔物が魔法に巻き込まれて消し飛んだ。
こりゃあMVPは確定したな、さすがは本職。生徒会長の肩書きは伊達ではないということか。
ミルヴァとどっちが強いだろうか?
正直今の印象的にはミルヴァの圧勝なんだが、この変態まだ実力を隠してそうなんだよなあ……
っと! 意識を逸らしてるとやばいな。
こっちに向かってきた、いわゆる『ゴブリン』っぽい敵に狙いを定めて――
「やめろおおおおおおッ!」
「なっ!?」
いきなりあの男が飛び掛かってきた。
「ちょ、この……ふざっけんな!」
ぶっ飛ばしてやろうと思ったのに、この男取っ組み合いながら妙に器用にかわしやがるっ。
なんなんだこいつは!?
「キラノくん! 前!」
「げっ」
ハルンの声に振り向けば、そこには既にゴブリンが手の届く距離で棍棒を振り上げていて。
「シッ」
男が横合いに出した蹴りが、ゴブリンを吹っ飛ばした。
「敵う相手か! さっさと逃げろ!」
さらにそいつは自分が蹴り飛ばしたゴブリンを怒鳴り付ける。
もう、意味不明だよ。
すっかり戦意を喪失したゴブリンは、そのままスコスコと近くの森へ向かって駆けていく。
俺はなんだか妙に疲れて、追いかける気にもならなかった。
そしてそれが最後の一匹だったらしい。
ヴァルガとハルンがこっちに駆け寄って来た。
「キラノくん、怪我は?」
「ないっ!」
いかん、別にハルンは何も悪くないのに怒鳴ってしまった。
俺が対処すべきは、目の前にいる。
「……」
こいつだ。この男。
助けてもらったクセに、礼を言うどころが睨みつけてきやがる無礼者。
それどころか、むしろ魔物を助けようとしていた節がある。
一体何モンだこのヤロウ!
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