死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。
報酬がなければトラウマを話せばいいじゃない?
「問題がないようであれば、出発は翌日に。それまでに準備を整えておいてください」
それを締めに、その場は解散となった。
だが、俺はまだ納得しちゃいない。他の連中が出て行くのを待って、ミハイルに詰め寄った。
「どーいうつもりだ?」
「何の事でしょう?」
「とぼけんな。俺を勝手に学園長捜索隊に組み込んだ事だ」
白々しく誤魔化そうとするミハイルに、逃げ場は与えない。
ヤツ自身、それで誤魔化せるつもりもなかっただろう。それ以上抵抗する事はなかった。
「ミルヴァさんのカミングアウトにより、彼女の立場は非常に微妙なところに置かれてしまいました」
「ああ……そりゃ、仕方ない事じゃねぇか」
可能性の一端とはいえ、この現状であんな事を打ち明ければ周囲の反応だって堅くなるだろう。あいつはそれを承知の上であの行動に出たんだ。今の状況だって、覚悟の上だろう。
「ええそうです、彼女はね。では、貴方はどうですか?」
「――なに?」
「彼女と行動を共にしていた貴方にも、不審の目は向けられているという事です」
立場っていうものは、何時だって不安定で、ちょっとした事であっさりと逆転する。
今度は俺が、ミハイルに問い詰められる番だった。
ずい、と迫る美貌の青年。
トップモデルとしても通用しそうなその優顔の裏には、殺人犯相手に尋問を掛ける警察じみた胆力も併せ持つ。
「……俺への疑いは、ひとまず解いてくれたんじゃなかったっけか?」
「私はね。ですが、あの三人は話が別です」
確かにそれは、三人の態度を見てれば嫌でもわかる。
特にミレは、堂々とミルヴァへの疑いを口にしているくらいだし。俺に対しても良い感情を持ってはいないだろう。
「いや……だからって、それが捜索隊となんの関係がある?」
単に危険人物を二つに分けただけじゃないかよ。監視したけりゃ、むしろそういう連中は一まとめにしておくのが普通だろ。たったの二人だし。
「それではこの状況を動かせません。ミルヴァさんは本人が言っていた通り、学園の外に出る事は難しい。今、事態を打開できるのはキラノさん。貴方しかいないのです」
「……つまりだ」
あの三人と、ミルヴァとの橋渡し役になれと?
疑問に、ミハイルははっきりと頷いた。
「ミレさんは、今日の様子を見る限り、数日での説得は困難でしょう。であれば、貴方にはまずヴァルガさんとハルンさんとの関係改善をお願いしたいのです。お二人共学園長に対する尊敬の念は強く、今回の旅で成果を示せれば、必ず認めてもらえるでしょう」
話の流れは、とりあえず掴めた。
しかしなあ……ちょっとそれは話が巧すぎやしないか?
「それって、学園長が無事なのがほぼ前提になってねえ? 言いたかないが、もしあいつが既に死んでたりしたらどうすんだ?」
「それはありません」
やけにきっぱりと、ミハイルが断言する。
単なる信頼関係で言ってるわけじゃなさそうだ。
何か……知ってやがるのか?
「根拠は?」
疑念をそのまま口に出すと、優男は懐からなにやら取り出した。
差し出されるままに手に取り翳してみると。
「――球?」
紛う事なき、水晶玉だった。
首を傾げている俺に、ミハイルが説明を始める。
「それはマジックアイテムの一つで、『魔力を込めた者の安否を確認する』効果があります」
おお!? スマホの様ななんちゃってマジックアイテムとは違う、モノホンのマジックアイテムが今ここに!
「話の流れからして、学園長の魔力が込められてるんだよな? どうやって確認するんだ?」
「色です。青色ならば『無傷』。黄色ならば『軽傷』。赤色ならば『重傷』。黒色ならば『死亡』となります」
視線を落とした先、水晶の色は。
「青、だな」
無傷を示す、碧と呼んでもいいくらいに美しい、青色。
その見事な輝きは間違いなく、主の無事を知らせていた。
「それは『呪い』の様な魔法にも反応してくれます。青色は、そういった魔法にも一切掛けられていない、完全無事である証拠になります」
「なるほどね……」
それでお前は、学園長がいなくなったっていうわりに動じなかったわけか。少なくとも無事である事は確認できていたから。
「この事、他の連中では誰が知ってる?」
「学園長の代理を任された、私一人です」
「……」
俺ひょっとして、国家機密クラスのやばい事知らされちゃったん?
いや! 知らせやがったのはこいつの判断なんだから、何も問題はない!
……ない、はず……だよな?
ともかく、とミハイルが話を本題へと戻す。
「学園長が無事で、何処かに身を潜めているのは間違いありません。なので早急にあの方を探し出し、その中で二人の信頼を勝ち取ってください」
「めっさムチャを言われてる気がするんだが……」
「この国、ひいては世界の安否が掛かっているのです。ムチャでもやってください」
不満は一刀両断された。こいつ案外、スパルタ方式なのかもしれない。
だがな、俺だってただで転ぶほど甘くはねぇぞ。
「わあったよ」
「では――」
「で? 報酬は?」
「は?」
ミハイルは、まるで宇宙語でも聞いたかの様な顔になった。
俺からすりゃ、むしろ心外なんだが。
「だってそうだろ。学園長を救う、つまりこの国を救う。ミルヴァに不審を持ってる連中から信頼を得て、ヴァンストルの企みを破る。場合によっては龍族やら、ヴァンストルの刺客やらとやりあう事になるかもしれねぇし。あるいはほんとに世界を救う事に繋がるのかもしんねぇのに、まさか無償で扱き使うつもりだったとか? それこそ冗談だろ」
「む……それは……」
苦虫でも噛み潰した顔をしているミハイルだが、それでも様になってるのがイケメンの腹立つところだ。
なんなのこれ。
ムカつくから、もう少しからかってやろう。
「ま! いきなりそんな、世界と釣り合うほどの報酬なんて思い付かないか。だったらいいぜ、一つだけ条件呑んでくれれば、ちょっと教師の給料に色を付けてくれる程度で引き受けたる」
「その、条件とは?」
そして俺は爆弾を投下した。
「お前とミルヴァの過去バナ、根堀葉堀聞かせてもらっちゃおうかなあ~~?」
「――――」
出会って一週間。
初めてミハイルから、本気の動揺を感じた。
「な……な……なに、を言って……!?」
「イヤならいーぜー? 最悪俺はこの国ほっぽって逃げ出したって構わねんだし? ご自由にどーぞ」
「ぐ……ぬぅ……ッ!?」
射殺す様な眼光で睨まれた。しかし先にムチャを頼んだ自覚があるせいか、さっきの様に両断する事もできずに苦悩している。
おうおう、悩め悩め。
そういうの個人的にも、ヘイトポイント的にも大好物だわけっけっけ!
そこでミハイルから離れ、背を向ける。
「ま、まだ話は――」
「準備だけはちゃんとやっておくよ。あんたも返事を明日までに考えといてね♪」
肩越しにVサインを返し、すたこらと立ち去る。
はっはあ! こりゃあ明日が愉しみだぞ!
それを締めに、その場は解散となった。
だが、俺はまだ納得しちゃいない。他の連中が出て行くのを待って、ミハイルに詰め寄った。
「どーいうつもりだ?」
「何の事でしょう?」
「とぼけんな。俺を勝手に学園長捜索隊に組み込んだ事だ」
白々しく誤魔化そうとするミハイルに、逃げ場は与えない。
ヤツ自身、それで誤魔化せるつもりもなかっただろう。それ以上抵抗する事はなかった。
「ミルヴァさんのカミングアウトにより、彼女の立場は非常に微妙なところに置かれてしまいました」
「ああ……そりゃ、仕方ない事じゃねぇか」
可能性の一端とはいえ、この現状であんな事を打ち明ければ周囲の反応だって堅くなるだろう。あいつはそれを承知の上であの行動に出たんだ。今の状況だって、覚悟の上だろう。
「ええそうです、彼女はね。では、貴方はどうですか?」
「――なに?」
「彼女と行動を共にしていた貴方にも、不審の目は向けられているという事です」
立場っていうものは、何時だって不安定で、ちょっとした事であっさりと逆転する。
今度は俺が、ミハイルに問い詰められる番だった。
ずい、と迫る美貌の青年。
トップモデルとしても通用しそうなその優顔の裏には、殺人犯相手に尋問を掛ける警察じみた胆力も併せ持つ。
「……俺への疑いは、ひとまず解いてくれたんじゃなかったっけか?」
「私はね。ですが、あの三人は話が別です」
確かにそれは、三人の態度を見てれば嫌でもわかる。
特にミレは、堂々とミルヴァへの疑いを口にしているくらいだし。俺に対しても良い感情を持ってはいないだろう。
「いや……だからって、それが捜索隊となんの関係がある?」
単に危険人物を二つに分けただけじゃないかよ。監視したけりゃ、むしろそういう連中は一まとめにしておくのが普通だろ。たったの二人だし。
「それではこの状況を動かせません。ミルヴァさんは本人が言っていた通り、学園の外に出る事は難しい。今、事態を打開できるのはキラノさん。貴方しかいないのです」
「……つまりだ」
あの三人と、ミルヴァとの橋渡し役になれと?
疑問に、ミハイルははっきりと頷いた。
「ミレさんは、今日の様子を見る限り、数日での説得は困難でしょう。であれば、貴方にはまずヴァルガさんとハルンさんとの関係改善をお願いしたいのです。お二人共学園長に対する尊敬の念は強く、今回の旅で成果を示せれば、必ず認めてもらえるでしょう」
話の流れは、とりあえず掴めた。
しかしなあ……ちょっとそれは話が巧すぎやしないか?
「それって、学園長が無事なのがほぼ前提になってねえ? 言いたかないが、もしあいつが既に死んでたりしたらどうすんだ?」
「それはありません」
やけにきっぱりと、ミハイルが断言する。
単なる信頼関係で言ってるわけじゃなさそうだ。
何か……知ってやがるのか?
「根拠は?」
疑念をそのまま口に出すと、優男は懐からなにやら取り出した。
差し出されるままに手に取り翳してみると。
「――球?」
紛う事なき、水晶玉だった。
首を傾げている俺に、ミハイルが説明を始める。
「それはマジックアイテムの一つで、『魔力を込めた者の安否を確認する』効果があります」
おお!? スマホの様ななんちゃってマジックアイテムとは違う、モノホンのマジックアイテムが今ここに!
「話の流れからして、学園長の魔力が込められてるんだよな? どうやって確認するんだ?」
「色です。青色ならば『無傷』。黄色ならば『軽傷』。赤色ならば『重傷』。黒色ならば『死亡』となります」
視線を落とした先、水晶の色は。
「青、だな」
無傷を示す、碧と呼んでもいいくらいに美しい、青色。
その見事な輝きは間違いなく、主の無事を知らせていた。
「それは『呪い』の様な魔法にも反応してくれます。青色は、そういった魔法にも一切掛けられていない、完全無事である証拠になります」
「なるほどね……」
それでお前は、学園長がいなくなったっていうわりに動じなかったわけか。少なくとも無事である事は確認できていたから。
「この事、他の連中では誰が知ってる?」
「学園長の代理を任された、私一人です」
「……」
俺ひょっとして、国家機密クラスのやばい事知らされちゃったん?
いや! 知らせやがったのはこいつの判断なんだから、何も問題はない!
……ない、はず……だよな?
ともかく、とミハイルが話を本題へと戻す。
「学園長が無事で、何処かに身を潜めているのは間違いありません。なので早急にあの方を探し出し、その中で二人の信頼を勝ち取ってください」
「めっさムチャを言われてる気がするんだが……」
「この国、ひいては世界の安否が掛かっているのです。ムチャでもやってください」
不満は一刀両断された。こいつ案外、スパルタ方式なのかもしれない。
だがな、俺だってただで転ぶほど甘くはねぇぞ。
「わあったよ」
「では――」
「で? 報酬は?」
「は?」
ミハイルは、まるで宇宙語でも聞いたかの様な顔になった。
俺からすりゃ、むしろ心外なんだが。
「だってそうだろ。学園長を救う、つまりこの国を救う。ミルヴァに不審を持ってる連中から信頼を得て、ヴァンストルの企みを破る。場合によっては龍族やら、ヴァンストルの刺客やらとやりあう事になるかもしれねぇし。あるいはほんとに世界を救う事に繋がるのかもしんねぇのに、まさか無償で扱き使うつもりだったとか? それこそ冗談だろ」
「む……それは……」
苦虫でも噛み潰した顔をしているミハイルだが、それでも様になってるのがイケメンの腹立つところだ。
なんなのこれ。
ムカつくから、もう少しからかってやろう。
「ま! いきなりそんな、世界と釣り合うほどの報酬なんて思い付かないか。だったらいいぜ、一つだけ条件呑んでくれれば、ちょっと教師の給料に色を付けてくれる程度で引き受けたる」
「その、条件とは?」
そして俺は爆弾を投下した。
「お前とミルヴァの過去バナ、根堀葉堀聞かせてもらっちゃおうかなあ~~?」
「――――」
出会って一週間。
初めてミハイルから、本気の動揺を感じた。
「な……な……なに、を言って……!?」
「イヤならいーぜー? 最悪俺はこの国ほっぽって逃げ出したって構わねんだし? ご自由にどーぞ」
「ぐ……ぬぅ……ッ!?」
射殺す様な眼光で睨まれた。しかし先にムチャを頼んだ自覚があるせいか、さっきの様に両断する事もできずに苦悩している。
おうおう、悩め悩め。
そういうの個人的にも、ヘイトポイント的にも大好物だわけっけっけ!
そこでミハイルから離れ、背を向ける。
「ま、まだ話は――」
「準備だけはちゃんとやっておくよ。あんたも返事を明日までに考えといてね♪」
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