死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。
不適合は、不死の覚悟を持ち得るか? 前編
教室の中に入った俺に、沈黙という重りが圧し掛かってきた。
堂々扉を開けて入ったのだから気付いていないはずはないが、誰一人として一言たりとも発する気配がない。
全員で申し合わせた様に、いや。事実申し合わせているんだろう。俺の事など気にもしていないとばかりに、顔を俯けては無視を決め込んでいる。最後の抵抗ってヤツかね。
だがそれは見せ掛けだけの、障子紙よりも薄っぺらなそれでしかない事は、一目で分かった。
なぜならば全員唇を引き結び、表情がろくに見えないというのに、体の震えを全く隠せていなかったからだ。まさかクラス一丸となってフルフル震える遊びなんてのが流行ってるわけじゃあるまい。
……ない、よな? 異世界特有のなんとかとか言わないでくれよ?
特に何事もなく、教壇まで辿り着く。
敗戦の仕返しに、その道程にトラップでも仕込まれてやいないか警戒してたんだが、杞憂だったらしい。
「さてお前ら」
俺が一言声に出しただけで、全員が飛び跳ねそうなほど震え上がったのが面白い。
あの気の強い三人までもが押し黙っているのだから、あの一戦で与えた効果は予想以上に大きかったようだ。
「言うまでもなく勝負は俺の勝ちだったわけだが、この時間ではその感想でも述べてもらおうか」
いつまでもだんまりを決め込んではいられないと悟ったのだろう。
おずおずと顔を上げ、反論してきたヤツがいた。
「お、お言葉ですが、あの勝負は決着つかずの無効試合――」
「アホウが一人乱入してきたせいで変な事にはなったが、そうでなけりゃどうなってたかなんて、俺よりもお前達自身の方が理解してるだろうが。この期に及んで意地を張るな」
ばっさりと両断され、アオイは再び押し黙った。
「言っとくがあの時、俺は一切魔法なんぞ使っちゃいない。全部生身の肉体で使える技術だ」
「そっそんなわけがあるか! 『ワープ』に『肉体強化』! おまけに何だあの理不尽な防御力は!? あれがただの人間に出来る事か!」
「わたくしの魔法まで無効化しておいて、そのような詭弁が通ると思って!?」
マークやリーネの発言により、少しだけ勢いを取り戻して生徒諸君。
理不尽なのは自分でも認めるとこだが、事実なんだからしょうがない。
「立会いだったミハイルが何も言わなかったろ。つまり問題なしだ」
「ミハイル先生は、確かに公正な方だ……だが、それでも――っ」
食い下がってくるのは、あくまで自分が『魔法も使えないただの人間』になどやられるはずがない、という自負からくるものか。
なまじ戦いの最中、『不死』を見せてしまったのも、納得がいかない理由の一つになってしまっているんだろう。
『不死』は確かに理不尽の極みで、はっきり言って戦い方次第ではそこらの魔法よりよっぽど強力な能力となる。だが断じてこの能力に頼った事など人生一度たりともない。
相手の攻撃に急所から突っ込むのは、自分を殺してくれるかもしれない期待感からであって、味わうのはいつも絶望の二文字だ。
そういった意味で、二度も『不死』を発動させたこいつらは実際大したものである。その点だけは俺も認めている。
しかし『不死』は一切の魔力を使用しない為、これは魔法には当たらない。アルティは祝福なんて言ってたが、こんなもんは呪いだ呪い。
もはやバランスブレイカーレベルのチートだが、対処方はある。
ミルヴァがやった様に、『不死』が発動しない威力の攻撃を連続で当ててくるのは非常に厄介だったし、学園長室で食らった拘束魔法も、『不死』は弾かなかった。
実戦経験ゼロの生徒達に求めるには難易度が高かったかもしれないが、それでも20対1の数差だ。決して不可能な事ではなかったはずである。
数の差を活かしてチャンスをものにできなかった時点で、勝敗は決していた。そしてあれが実戦であったのなら、ここにいる23人は全員死亡していたのだ。
これを敗北と呼ばずになんと呼ぶ?
「経験不足」
「――ッ」
「自分の知らない技や能力を使ってくる敵なんざ、この世にいくらでもいる。その内のたった一つ二つを見せられた程度でオタついてるヤツが、一体どうして戦場で活躍なんてできるってんだ」
「そ――れは……」
子供何だから仕方ない、といってやりたいところだが、こいつらは王族貴族の集まりなんだと忘れてはいけない。
まだ十をいくつか越えたばかりの年齢でも、戦場に駆り出される可能性は、決して低くはないのだ。
学園の方針に従うのなら『格』を養う為の授業を行う必要があるのだろう。こいつらの人格を矯正する為の。
だが俺は考えて、考えて考えて、一つ結論を出していた。
ごめんそれムリ。
人格矯正なんざ俺にゃあできませんよって。
俺に出来るとすればそれは――
「俺はこれからお前らに、死なない術を叩き込む。嫌でも死ねないくらいに強くしてやる」
死にたがりとは、すなわち死について熟知した者。
死にたくて死にたくて、でも死ねなかった敗北者。
だからこそ、その敗北の数だけ、死なない術の数も知っているのだ。
「お前らの矜持やプライドなんざしったこっちゃない。『格』なんて育ててやるつもりもない。俺が約束してやるのはたった一つ。お前ら全員どこぞの戦場で、敵の総大将と決闘して華々しく散るなんて贅沢な死に方だけは絶対にできなくなる!」
なにしろ『不死』が育てる不死身の集団だ。ゾンビよりも性質が悪いぜ!
生徒達全員の眼を見回し、問い掛ける。
呆気に取られたヤツが多いが、理解なんざ後で追いつく。今ここで訊きたい事は一つだけ。
「お前ら……『死なない』覚悟はあるかっ!」
堂々扉を開けて入ったのだから気付いていないはずはないが、誰一人として一言たりとも発する気配がない。
全員で申し合わせた様に、いや。事実申し合わせているんだろう。俺の事など気にもしていないとばかりに、顔を俯けては無視を決め込んでいる。最後の抵抗ってヤツかね。
だがそれは見せ掛けだけの、障子紙よりも薄っぺらなそれでしかない事は、一目で分かった。
なぜならば全員唇を引き結び、表情がろくに見えないというのに、体の震えを全く隠せていなかったからだ。まさかクラス一丸となってフルフル震える遊びなんてのが流行ってるわけじゃあるまい。
……ない、よな? 異世界特有のなんとかとか言わないでくれよ?
特に何事もなく、教壇まで辿り着く。
敗戦の仕返しに、その道程にトラップでも仕込まれてやいないか警戒してたんだが、杞憂だったらしい。
「さてお前ら」
俺が一言声に出しただけで、全員が飛び跳ねそうなほど震え上がったのが面白い。
あの気の強い三人までもが押し黙っているのだから、あの一戦で与えた効果は予想以上に大きかったようだ。
「言うまでもなく勝負は俺の勝ちだったわけだが、この時間ではその感想でも述べてもらおうか」
いつまでもだんまりを決め込んではいられないと悟ったのだろう。
おずおずと顔を上げ、反論してきたヤツがいた。
「お、お言葉ですが、あの勝負は決着つかずの無効試合――」
「アホウが一人乱入してきたせいで変な事にはなったが、そうでなけりゃどうなってたかなんて、俺よりもお前達自身の方が理解してるだろうが。この期に及んで意地を張るな」
ばっさりと両断され、アオイは再び押し黙った。
「言っとくがあの時、俺は一切魔法なんぞ使っちゃいない。全部生身の肉体で使える技術だ」
「そっそんなわけがあるか! 『ワープ』に『肉体強化』! おまけに何だあの理不尽な防御力は!? あれがただの人間に出来る事か!」
「わたくしの魔法まで無効化しておいて、そのような詭弁が通ると思って!?」
マークやリーネの発言により、少しだけ勢いを取り戻して生徒諸君。
理不尽なのは自分でも認めるとこだが、事実なんだからしょうがない。
「立会いだったミハイルが何も言わなかったろ。つまり問題なしだ」
「ミハイル先生は、確かに公正な方だ……だが、それでも――っ」
食い下がってくるのは、あくまで自分が『魔法も使えないただの人間』になどやられるはずがない、という自負からくるものか。
なまじ戦いの最中、『不死』を見せてしまったのも、納得がいかない理由の一つになってしまっているんだろう。
『不死』は確かに理不尽の極みで、はっきり言って戦い方次第ではそこらの魔法よりよっぽど強力な能力となる。だが断じてこの能力に頼った事など人生一度たりともない。
相手の攻撃に急所から突っ込むのは、自分を殺してくれるかもしれない期待感からであって、味わうのはいつも絶望の二文字だ。
そういった意味で、二度も『不死』を発動させたこいつらは実際大したものである。その点だけは俺も認めている。
しかし『不死』は一切の魔力を使用しない為、これは魔法には当たらない。アルティは祝福なんて言ってたが、こんなもんは呪いだ呪い。
もはやバランスブレイカーレベルのチートだが、対処方はある。
ミルヴァがやった様に、『不死』が発動しない威力の攻撃を連続で当ててくるのは非常に厄介だったし、学園長室で食らった拘束魔法も、『不死』は弾かなかった。
実戦経験ゼロの生徒達に求めるには難易度が高かったかもしれないが、それでも20対1の数差だ。決して不可能な事ではなかったはずである。
数の差を活かしてチャンスをものにできなかった時点で、勝敗は決していた。そしてあれが実戦であったのなら、ここにいる23人は全員死亡していたのだ。
これを敗北と呼ばずになんと呼ぶ?
「経験不足」
「――ッ」
「自分の知らない技や能力を使ってくる敵なんざ、この世にいくらでもいる。その内のたった一つ二つを見せられた程度でオタついてるヤツが、一体どうして戦場で活躍なんてできるってんだ」
「そ――れは……」
子供何だから仕方ない、といってやりたいところだが、こいつらは王族貴族の集まりなんだと忘れてはいけない。
まだ十をいくつか越えたばかりの年齢でも、戦場に駆り出される可能性は、決して低くはないのだ。
学園の方針に従うのなら『格』を養う為の授業を行う必要があるのだろう。こいつらの人格を矯正する為の。
だが俺は考えて、考えて考えて、一つ結論を出していた。
ごめんそれムリ。
人格矯正なんざ俺にゃあできませんよって。
俺に出来るとすればそれは――
「俺はこれからお前らに、死なない術を叩き込む。嫌でも死ねないくらいに強くしてやる」
死にたがりとは、すなわち死について熟知した者。
死にたくて死にたくて、でも死ねなかった敗北者。
だからこそ、その敗北の数だけ、死なない術の数も知っているのだ。
「お前らの矜持やプライドなんざしったこっちゃない。『格』なんて育ててやるつもりもない。俺が約束してやるのはたった一つ。お前ら全員どこぞの戦場で、敵の総大将と決闘して華々しく散るなんて贅沢な死に方だけは絶対にできなくなる!」
なにしろ『不死』が育てる不死身の集団だ。ゾンビよりも性質が悪いぜ!
生徒達全員の眼を見回し、問い掛ける。
呆気に取られたヤツが多いが、理解なんざ後で追いつく。今ここで訊きたい事は一つだけ。
「お前ら……『死なない』覚悟はあるかっ!」
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