死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

死にたがりVS不適合 後編

 ミルヴァとの戦闘開始から数分が経過。構図としては、接近戦タイプの俺と遠距離タイプのミルヴァで真っ二つになった。
 ミルヴァが魔法で突き放し、俺はそれを突破する。
 魔法でなくとも、剣対銃みたいな感じになれば、自然とそうなる。
 言葉にすると簡単なんだが、当然それを扱う人間の技量によって、立場が逆転する事だってままにある。
 例えば、さっきまで戦っていたリーネの魔法は、アークやアオイらを相手にしながらでも避けるのは難しくなかった。
 こっちが隙を見せれば撃ってくる。悪いことではないのだが、百パーセントそればかりっていうのはさすがに正直すぎる。逆を言えば、フェイントに恐ろしく弱い事を意味するのだから。
 実力や底力はある。実際かなり手加減していたといえ、不意の一撃を二発も貰った。それは認めざるを得ない。
 だが圧倒的なまでに経験不足、あいつらの評価はそれに尽きた。
 それに引き換え――


「はっはあ! 逃げ回ってばかりですねぇセツナさん!」
「っっのやろ! クッソうぜぇ真似しやがってえええええ!」


 細かい数など覚えていない。脚を目掛けて飛んできた、数十発目の炎の弾丸を後ろに転がって避ける。
 ちっくしょう、こいつの曲者具合ときたら!


「貴方の妙な能力に関しては、彼らとの戦いを見ながらある程度見当を付けましたからね」


 ふふん♪ と得意げに鼻を鳴らしているミルヴァ。
 こ、このヤロウ。その鼻に指をぶっ刺してモガモガさせてやりてぇ……! 


「強力な魔法の直撃を受けても無傷でいられるその能力、発動に条件がありますよね。船にいる時に行った『ジャンケンで負けたらしっぺ対決』では発動しませんでしたし」
「お前、デコピンだと嫌がったからなぁ」
「一発食らって、壁にめり込む体験をしてみれば誰だってそうなりますよ! そうでなくても、腕が折れるかと思いましたし!」
「まあ指の力って、イコール関節の力だからなぁ。どうあってもダメージは避けられなかったな」
「五体満足でいられるのが奇跡ですね!」


 ぬぐぐぐ…………なんてこった。航海中の暇潰しがまさか能力を見破られる布石になろうとは。
 だがまだ完全に見切られているわけではない。まだ誤魔化せるはず!


「『一定以上の威力を持った攻撃を無効化する』――それが貴方の能力なのでしょう?」
「――――」


 完全な当たりではないが、遠いと言うにはあまりにも近すぎる。
 とりあえず、口笛でも吹いておいた。


「な、なぁ~んの事かなあ?」
「……セツナさん、存外嘘が下手なんですね」


 本気で隠そうと思ってない事に関してはな!
 実際、不死だの異世界人だのばれても俺は一向に構わないのだ。知られたからどうこうなるもんでもないだろうし。


「ふーむ、ではとりあえず当たりだと仮定した上で戦略を組み立てるとしましょうか!」


 そうしてヤツは、背後に数百発もの“超低威力”の火の玉を浮かび上がらせ、不敵に微笑んだ。


「セツナさんの速度も技術も知っていますが、三百六十度から襲い来る低威力の高速火炎弾。さて、避けきる自信はおありですか?」」


 そうして、火の玉の中でも最前列に位置するものらがクルクルと、ダンスでもしているかの如く動き出す。
 まるで主に、己の武威を示しているかの様に。
 それが、ぴたりと止まった次の瞬間――


「っちぃぃぃぃ!?」


 一斉に、逃げ場ごと蹂躙せんと飛び掛ってきた。
 威力はほぼ皆無。子供が振り回して遊んでいる花火みたいな火力しかない。
 ――そしてそれこそが、俺にとっては最も恐ろしい攻撃となる。
 威力を捨てている分、速度は音速の域に到達している。まるでマシンガンの掃射だ。
 前に、後ろに、横に、上に、走って、飛んで、跳ねて、回って。
 かろうじて直撃は回避しているものの、一々腕や脚を掠っていく熱量が、じわじわと鬱陶しさを増していく。このままでは、完全に捉まるのも時間の問題だろう。


「長期戦は無理かな……」


 腹を括る。
 あの生徒達を相手にしていた程度の力では、まるで太刀打ちできない。
 この魔法の使い方。この容赦の無さ。間違いなくこいつは、戦場経験者だ。


「血生臭さは感じないんだがなぁ」


 これだけの力があれば、殺さずに敵を圧倒する事も場合によっては可能かもしれないが。
 ああ、余計な思考だ。
 今は全力で、目の前の相手を叩き伏せる事だけを考えていればいい。
 俺は目の前に飛んできた炎弾を――指で弾き飛ばした。


「んんっ!?」


 あまりの暴挙に、ミルヴァも驚きを露にしていたが、魔法の精度に陰りを見せる事はなかった。さすがの精神力だな。
 別に難しい話でなく、単にこの異世界に来て、初めて全力を出してやっただけなのだが。要はダメージを受けるより早く、攻撃を潰せばいい。
 ひゅんひゅん飛び回る火の玉が実に鬱陶しい、数を減らすか。
 俺の逃げ場を無くすという事は、常に俺の傍にあるという事で、俺の傍にあるという事は俺に潰される運命にあるという事。
 指で、手首で、肘で、肩で、首で、腰で、膝で、足首で、つま先で。
 潰して潰して潰し尽くした。
 わずか十数秒の間。それだけで、何百発もの火炎の弾が、無へと帰していた。


「……ああなるほど、ようやく本気という事ですか」


 俺の目の色が変わったのを見て取ったか、ミルヴァの攻性は、その勢いを一時止めていた。
 臆したのとは違う。むしろ逆。
 次の一合が、決定的な瞬間になると予感した、構えだ。
 ここに至って、小細工では埒が明かないと悟ったのだろう。いい判断だ、俺も長引かせるつもりはないからな。
 これで終わりにしてやる。互いにそう思っているのを肌で感じた。
 もはやこの戦いの意味すら忘却の彼方にあった俺達の頭に――




『あー……緊急招集、緊急招集! 今から名前を呼ばれた者達は、至急学園長室に集まってくれ。繰り返す緊急しょう――』




 幼い学園長の声が響き渡った。


「あん?」
「これは、珍しいですね。学園長からの呼び出しとは」


 その呼び出された名前の中には、ミルヴァとミハイル。そして、何故だか俺のものまであったのだった。

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