死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。
準備運動は基本です
学園には教練場と呼ばれる、地球で言うところの体育館の凄いバージョンがある。柔道だ空手だの試合場と言った方が解り易いかもしれない。
ただしスケールがとにかく段違いだ。オリンピックの会場だって、ここまで広くはない。
天井がぼやけて見えるほど高くにあり、一面には芸術品じみた輝きを放つ、石造りの床。もちろんただの石ではなく、学園お抱えの熟練魔法士による対物理・対魔法結界が仕込まれている。
この広さ、集団規模の戦闘を想定した場所。この場所であれば、多少無茶な事をやっても傷一つ付かないだろう。
俺は今、その教練場の中にある、いわゆる選手控え室的な部屋で、軽く体を動かしていた。服装も学園から借りた運動着に変え、着心地を確かめる。
近くにはミルヴァとミハイルがおり、それぞれ複雑そうな表情で体を動かす俺を見つめていた。
頭から足元まで、全身の状態がほどよく暖まったところで切り上げる。
「うし、準備オーケーだな!」
「……たのしそうですね、セツナさん」
「クックック、久しぶりの戦闘だからな。ちょっとばかし物足りなそーな相手だが、まあそれはそれ」
「ぐぅ……! なんかうらやましーです。私も参加したかったのに!」
「いや、お前まで出てきたら流石に戦力差ってヤツがね……そもそも俺を認めさせる為にやる事だし」
本気で悔しがって地団駄踏んでいるミルヴァを押し留めていると、ミハイルが口を挟んできた。
「キラノさん、私は貴方の実力を知りません。学園長との邂逅でのあれは、互いに本気ではなかった。だからはっきり申し上げますと、私は今回の件。貴方の力を推し量る良い機会だと考えています」
「ふぅん。ま、あんたらからしたらまだまだ俺は異分子なんだろうからなぁ。別にいんじゃね?」
「……そう言って貰えると有難いです」
力の抜けた笑みを浮かべる青年。
なんとなしにミルヴァをみやると、青年の方に視線を固め、微かに頬を染めている少女の姿が。
「……」
「はっ!?」
にやにやして眺めていると、視線に気付かれる。さて、どうするのかと思っていると、やや硬直した後、こっち見んな! とばかりにギリッと睨みつけてきた。
からかうネタを一つゲットだ。こういう弱みを積み重ねて、いつかはあの借金をチャラにしてやんぜけっけっけ!
視線を交わし下らない争いを繰り広げている俺達を他所に、ミハイルは一から十まで真面目腐った声で言う。
「ここには強力な結界が張ってありますから、少々の事ではびくともしません。ですがそれを過信しすぎず、くれぐれも大事には至らない様、気を付けて下さい」
「分かってるよ。ちょこぉぉぉっと痛い目をみせてやるだけさ。大怪我とかさせたりしないから安心しなよ」
「めっちゃ自信有り気ですがセツナさん。彼らも不適合クラスとはいえ、世界最高峰の学園に入学できるだけの『何か』を持っているはずです。油断はしない方が良いですよ」
「何か、ねえ」
そこまで大した連中にゃ見えなかったがなぁ……
そんな大層な隠し玉あんなら、むしろ是非とも見せてもらいたいものだが。そしてそれが俺を殺し得る様な強力なものだったら文句なし。
……流石に高望みだな。
その時。
『うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉォォォォォォッッ!!』
「お?」
「どうやら、あっちの準備は整ったみたいですね」
反対側の控え室から、威勢の良い雄たけびが轟いてきた。
戦闘場を間に挟み、軽く一キロは離れているはずだが、それでもはっきりと聞こえる鬨の声。
へぇ……これは思っていたよりも……
「なるほど。確かに、油断しない方が良さそうだな」
パンッ! 両手で頬を張り、気を入れ直す。
連中は実践経験などないだろう。それは初めて顔を合わせた瞬間から分かっている。
だが、それでも、あるいはだからこそ、か。
俺の想像も及ばない、この世界のやり方で襲い掛かってくる可能性はある。願わくばそれが。
「んじゃ、行くかね」
戦闘場へと歩き出す。歩きながら振り返ると、ミルヴァが「いってらー」と手を振り、ミハイルが相変わらず神経質そうにこちらを見ていた。何がそんなに心配なんかね、あの男は。
俺からは必要以上の攻撃はしないと約束した。約束した以上、仮に殺意をぶつけられようとも貫くとも。
だから可能性として挙げられる大事とは、俺の安否に他ならない。
いいんだよ、そんなもん。
むしろ願わくば、その大事が起こってくれますように。
口元が笑みに吊り上る。
端から見たら不敵な笑みにでも見えるのかもしれないが、これは紛れも無く期待の現われ。
――――そして、連中と対峙する。
不適合クラス総勢23名。リーダー格マーク・アル・ヴァラン。アオイ・ヤブサメ。リーネ・ファウラン。この三人を中心とする、敵意の塊共。
いいね、これ。やるべき事がはっきりし過ぎて落ち着くわ。
その敵意、心が圧し折れても、保ち続けてられっかよ?
「それじゃあ、始めようか」
死にたがりVS不適合クラス。
開、戦!
ただしスケールがとにかく段違いだ。オリンピックの会場だって、ここまで広くはない。
天井がぼやけて見えるほど高くにあり、一面には芸術品じみた輝きを放つ、石造りの床。もちろんただの石ではなく、学園お抱えの熟練魔法士による対物理・対魔法結界が仕込まれている。
この広さ、集団規模の戦闘を想定した場所。この場所であれば、多少無茶な事をやっても傷一つ付かないだろう。
俺は今、その教練場の中にある、いわゆる選手控え室的な部屋で、軽く体を動かしていた。服装も学園から借りた運動着に変え、着心地を確かめる。
近くにはミルヴァとミハイルがおり、それぞれ複雑そうな表情で体を動かす俺を見つめていた。
頭から足元まで、全身の状態がほどよく暖まったところで切り上げる。
「うし、準備オーケーだな!」
「……たのしそうですね、セツナさん」
「クックック、久しぶりの戦闘だからな。ちょっとばかし物足りなそーな相手だが、まあそれはそれ」
「ぐぅ……! なんかうらやましーです。私も参加したかったのに!」
「いや、お前まで出てきたら流石に戦力差ってヤツがね……そもそも俺を認めさせる為にやる事だし」
本気で悔しがって地団駄踏んでいるミルヴァを押し留めていると、ミハイルが口を挟んできた。
「キラノさん、私は貴方の実力を知りません。学園長との邂逅でのあれは、互いに本気ではなかった。だからはっきり申し上げますと、私は今回の件。貴方の力を推し量る良い機会だと考えています」
「ふぅん。ま、あんたらからしたらまだまだ俺は異分子なんだろうからなぁ。別にいんじゃね?」
「……そう言って貰えると有難いです」
力の抜けた笑みを浮かべる青年。
なんとなしにミルヴァをみやると、青年の方に視線を固め、微かに頬を染めている少女の姿が。
「……」
「はっ!?」
にやにやして眺めていると、視線に気付かれる。さて、どうするのかと思っていると、やや硬直した後、こっち見んな! とばかりにギリッと睨みつけてきた。
からかうネタを一つゲットだ。こういう弱みを積み重ねて、いつかはあの借金をチャラにしてやんぜけっけっけ!
視線を交わし下らない争いを繰り広げている俺達を他所に、ミハイルは一から十まで真面目腐った声で言う。
「ここには強力な結界が張ってありますから、少々の事ではびくともしません。ですがそれを過信しすぎず、くれぐれも大事には至らない様、気を付けて下さい」
「分かってるよ。ちょこぉぉぉっと痛い目をみせてやるだけさ。大怪我とかさせたりしないから安心しなよ」
「めっちゃ自信有り気ですがセツナさん。彼らも不適合クラスとはいえ、世界最高峰の学園に入学できるだけの『何か』を持っているはずです。油断はしない方が良いですよ」
「何か、ねえ」
そこまで大した連中にゃ見えなかったがなぁ……
そんな大層な隠し玉あんなら、むしろ是非とも見せてもらいたいものだが。そしてそれが俺を殺し得る様な強力なものだったら文句なし。
……流石に高望みだな。
その時。
『うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉォォォォォォッッ!!』
「お?」
「どうやら、あっちの準備は整ったみたいですね」
反対側の控え室から、威勢の良い雄たけびが轟いてきた。
戦闘場を間に挟み、軽く一キロは離れているはずだが、それでもはっきりと聞こえる鬨の声。
へぇ……これは思っていたよりも……
「なるほど。確かに、油断しない方が良さそうだな」
パンッ! 両手で頬を張り、気を入れ直す。
連中は実践経験などないだろう。それは初めて顔を合わせた瞬間から分かっている。
だが、それでも、あるいはだからこそ、か。
俺の想像も及ばない、この世界のやり方で襲い掛かってくる可能性はある。願わくばそれが。
「んじゃ、行くかね」
戦闘場へと歩き出す。歩きながら振り返ると、ミルヴァが「いってらー」と手を振り、ミハイルが相変わらず神経質そうにこちらを見ていた。何がそんなに心配なんかね、あの男は。
俺からは必要以上の攻撃はしないと約束した。約束した以上、仮に殺意をぶつけられようとも貫くとも。
だから可能性として挙げられる大事とは、俺の安否に他ならない。
いいんだよ、そんなもん。
むしろ願わくば、その大事が起こってくれますように。
口元が笑みに吊り上る。
端から見たら不敵な笑みにでも見えるのかもしれないが、これは紛れも無く期待の現われ。
――――そして、連中と対峙する。
不適合クラス総勢23名。リーダー格マーク・アル・ヴァラン。アオイ・ヤブサメ。リーネ・ファウラン。この三人を中心とする、敵意の塊共。
いいね、これ。やるべき事がはっきりし過ぎて落ち着くわ。
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