死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。
教師の教えは、初撃で決まる。
先ほどの授業から一コマ空けて。
学園長の説教から無事に生還を果たした俺は、ほんの二時間程度前と同じ場所に立っていた。
しかし、そこから眺める風景は、微妙にその時と異なりを見せている。
まず感じたのは、棘。棘としか言い様がない。
「「「「「……」」」」」
教室中の至るところから、もの言いたげな視線が、こちらを槍衾の如く貫いてくる。
特に、例の三人。
最もギラギラと煮え滾る様な視線で睨み付けているのが、金髪の映える少年マーク・アル・ヴァラン。話を聞く限り、このクラスにおいて最上級の問題児。家の権威を乱用し、今まで着任してきたベテラン教師の数々を解任においやったと聞く。
続いて、黒髪長髪の大和撫子アオイ・ヤブサメ。遥か東方の国より留学してきたらしいが、魔法の才に恵まれず、不適合クラスへと移動。その他の科目はおおむね好成績ながら、魔法の習得に執着するあまり、その辺りにもムラッ気が抜けないのだとか。
最後に、ジ・お嬢様! と言わんばかりの鉄壁プライドハーフエルフ、リーネ・ファウラン。珍しい人種の集まるこの国の、さらに特異なこのクラスにおいてさえ、ただ一人しか存在しない深緑色の姫君。北方のエルフが治める国から社会勉強の為の留学――という名目の厄介払い。それが実情を聞いた俺の感想だった。さっき本人が語っていた様に、類まれなる魔法の才を手土産に学園の門を叩きにきた。しかし、そこで待っていたのは、不適合の烙印。さぞかし業腹だった事は想像に難くない。そしてその鬱憤を、今の俺みたいな立場の、かつての新任教師達にぶつけてきたであろう事も。
そんな問題児連中が今押し黙って尖った視線をぶつけてくるだけなのは、俺の後ろに控えるミルヴァとミハイルを警戒しているからだ。そこに、俺の割って入る余地が一切存在しない。
もしも二人がいなければ、こいつら全員、俺に対して何がしか攻性行動に移っていたとしても全く不思議ではない。
ミルヴァが言っていた、死ぬかもしれないとはそういう事だ。かつてこのクラスを勤めた教師の中には、本当に死んだ者こそいないものの、その一歩手前の重症を負った者は実在する。
さきの授業の際、あるいはミルヴァの一喝がなければ、俺がその立場に置かれていてもおかしくはなかったのかもしれない。だとすればあの時のミルヴァの行動は、自身の感情より、俺を気遣ってのものだという可能性とてあるわけだ。どうせ本人は否定するんだろうが。
さて、そんじゃあ始めますか。諸々含め、どうせ俺にできる事など限られている。ならば、俺のやり易い方法を通させてもらうだけだ!
「ご不満そうだなぁ? お前ら」
「「「……!」」」
「ま、気持ちは解るぜ。いきなり見知らん馬の骨にあれこれ教えられろとか言われても、従う事なんてできねーわな」
「「「…………ッ!?」」」
ギシギシと、空気が軋み始める音が聞こえてくる。
どうやら、魔法を使える連中が何がしか動いている様子だ。このまま放っておけば、面倒な事態に発展しかねない。
ミルヴァとミハイルが即座に反応し手を下そうとするが、俺が押し留めた。
ここは、この場は、俺が治めなければなるまい。
俺の、やり方でな。
「――お前か」
「ぶがッ!?」
ざっと教室見回し、魔法を唱えている連中の指揮を担当しているらしきヤツを見極めて飛び掛り、その顔面を鷲掴みにしてやった。
もちろん、手加減はしている。
掴まれている本人にだけ、手加減しているのだと良く分かる握り具合できっちりと。
流石に指揮官が捕らえられては詠唱が続けられないのか、ざわついていた空気が。その意識が。この一点に集中する。
「せ、生徒に手を出すなど、教師の風上にもおけん! やはり貴様はただの凡俗だ! 即刻父上に報告し、学園にはしかるべき処置を――」
「ほい、黙れ♪」
指揮官役の生徒に十分なだけ骨を砕かれる想像をさしてから、声を張り上げてきたマーク少年の指に手を掛けた。
別に異常な力で握ったり、折ったりとか、そういうのは全くしていない。ただ本当につまんだだけである。
「ひぃ――――ッ」
そしてたったそれだけであっさりと押し黙る。
腕でも足でもなく、ただ指一本。それで恐怖して身動きできなくなる大貴族の息子。そんな雑魚に一々時間を割いてやるつもりはない。
むしろ。
「――――」
「……ふん……」
危険なのは、後の二人か。
アオイとリーネの二人はこちらの出方、その実力を測る様に観察している。
――ふむ、やっぱりここは、こういうのが一番効くのかね。
俺はマーク少年を解放し、元の教壇の位置に戻って、全体に話掛けた。
「ああ、やっぱり俺を認めてない連中が多いね。結構結構。もし俺の事何も知らんくせに勝手に警戒解いてる連中だったらどうしようかと思ってたわ」
「き、貴様は、学園長の推薦を受けるほどの人物だと……ッ」
「だから常識的なマナーに則ったアプローチでくるだろうって? いくらなんでも、その考えは甘すぎんだろ」
「……!」
「ま、そーいう連中ばかりだからこそ話が早い。お前らに何か教えるにゃあ、まず俺の力を認めさせる必要があるわな」
傷心の生徒を一人一人解す様に言葉で諭して――なんて器用な真似ができるタマではない。
やるなら一括で、ミルヴァが一息でその力を見せ付けた。それを上回るインパクトで、こいつらに思い知らせてやろう。
「ふん……愚民風情が……!」
「魔法も使えないただの人間に、負ける気はしません!」
感じる感じる。青々しい、何の根拠もない、ただの自信。
それらをまとめて。
――捻り潰してやる。
学園長の説教から無事に生還を果たした俺は、ほんの二時間程度前と同じ場所に立っていた。
しかし、そこから眺める風景は、微妙にその時と異なりを見せている。
まず感じたのは、棘。棘としか言い様がない。
「「「「「……」」」」」
教室中の至るところから、もの言いたげな視線が、こちらを槍衾の如く貫いてくる。
特に、例の三人。
最もギラギラと煮え滾る様な視線で睨み付けているのが、金髪の映える少年マーク・アル・ヴァラン。話を聞く限り、このクラスにおいて最上級の問題児。家の権威を乱用し、今まで着任してきたベテラン教師の数々を解任においやったと聞く。
続いて、黒髪長髪の大和撫子アオイ・ヤブサメ。遥か東方の国より留学してきたらしいが、魔法の才に恵まれず、不適合クラスへと移動。その他の科目はおおむね好成績ながら、魔法の習得に執着するあまり、その辺りにもムラッ気が抜けないのだとか。
最後に、ジ・お嬢様! と言わんばかりの鉄壁プライドハーフエルフ、リーネ・ファウラン。珍しい人種の集まるこの国の、さらに特異なこのクラスにおいてさえ、ただ一人しか存在しない深緑色の姫君。北方のエルフが治める国から社会勉強の為の留学――という名目の厄介払い。それが実情を聞いた俺の感想だった。さっき本人が語っていた様に、類まれなる魔法の才を手土産に学園の門を叩きにきた。しかし、そこで待っていたのは、不適合の烙印。さぞかし業腹だった事は想像に難くない。そしてその鬱憤を、今の俺みたいな立場の、かつての新任教師達にぶつけてきたであろう事も。
そんな問題児連中が今押し黙って尖った視線をぶつけてくるだけなのは、俺の後ろに控えるミルヴァとミハイルを警戒しているからだ。そこに、俺の割って入る余地が一切存在しない。
もしも二人がいなければ、こいつら全員、俺に対して何がしか攻性行動に移っていたとしても全く不思議ではない。
ミルヴァが言っていた、死ぬかもしれないとはそういう事だ。かつてこのクラスを勤めた教師の中には、本当に死んだ者こそいないものの、その一歩手前の重症を負った者は実在する。
さきの授業の際、あるいはミルヴァの一喝がなければ、俺がその立場に置かれていてもおかしくはなかったのかもしれない。だとすればあの時のミルヴァの行動は、自身の感情より、俺を気遣ってのものだという可能性とてあるわけだ。どうせ本人は否定するんだろうが。
さて、そんじゃあ始めますか。諸々含め、どうせ俺にできる事など限られている。ならば、俺のやり易い方法を通させてもらうだけだ!
「ご不満そうだなぁ? お前ら」
「「「……!」」」
「ま、気持ちは解るぜ。いきなり見知らん馬の骨にあれこれ教えられろとか言われても、従う事なんてできねーわな」
「「「…………ッ!?」」」
ギシギシと、空気が軋み始める音が聞こえてくる。
どうやら、魔法を使える連中が何がしか動いている様子だ。このまま放っておけば、面倒な事態に発展しかねない。
ミルヴァとミハイルが即座に反応し手を下そうとするが、俺が押し留めた。
ここは、この場は、俺が治めなければなるまい。
俺の、やり方でな。
「――お前か」
「ぶがッ!?」
ざっと教室見回し、魔法を唱えている連中の指揮を担当しているらしきヤツを見極めて飛び掛り、その顔面を鷲掴みにしてやった。
もちろん、手加減はしている。
掴まれている本人にだけ、手加減しているのだと良く分かる握り具合できっちりと。
流石に指揮官が捕らえられては詠唱が続けられないのか、ざわついていた空気が。その意識が。この一点に集中する。
「せ、生徒に手を出すなど、教師の風上にもおけん! やはり貴様はただの凡俗だ! 即刻父上に報告し、学園にはしかるべき処置を――」
「ほい、黙れ♪」
指揮官役の生徒に十分なだけ骨を砕かれる想像をさしてから、声を張り上げてきたマーク少年の指に手を掛けた。
別に異常な力で握ったり、折ったりとか、そういうのは全くしていない。ただ本当につまんだだけである。
「ひぃ――――ッ」
そしてたったそれだけであっさりと押し黙る。
腕でも足でもなく、ただ指一本。それで恐怖して身動きできなくなる大貴族の息子。そんな雑魚に一々時間を割いてやるつもりはない。
むしろ。
「――――」
「……ふん……」
危険なのは、後の二人か。
アオイとリーネの二人はこちらの出方、その実力を測る様に観察している。
――ふむ、やっぱりここは、こういうのが一番効くのかね。
俺はマーク少年を解放し、元の教壇の位置に戻って、全体に話掛けた。
「ああ、やっぱり俺を認めてない連中が多いね。結構結構。もし俺の事何も知らんくせに勝手に警戒解いてる連中だったらどうしようかと思ってたわ」
「き、貴様は、学園長の推薦を受けるほどの人物だと……ッ」
「だから常識的なマナーに則ったアプローチでくるだろうって? いくらなんでも、その考えは甘すぎんだろ」
「……!」
「ま、そーいう連中ばかりだからこそ話が早い。お前らに何か教えるにゃあ、まず俺の力を認めさせる必要があるわな」
傷心の生徒を一人一人解す様に言葉で諭して――なんて器用な真似ができるタマではない。
やるなら一括で、ミルヴァが一息でその力を見せ付けた。それを上回るインパクトで、こいつらに思い知らせてやろう。
「ふん……愚民風情が……!」
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