死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。
エリートの学園……なんだよな?
学園とやらは『ゲイン』の国内においても特別な施設らしく、他の地区は特に何もないのに、学園の周囲だけは分厚い石の壁で覆われている。
才能と入学金さえあれば平民でも入れるらしいが、基本的にその場所は王族貴族等のエリート集団の巣窟だ。つまりはVIP。それだけ厳重な造りが必要だというわけだ。
何かの間違いで襲撃でも受ければ、世界大戦、勃・発!
そしてそんな核弾頭じみた危険施設が国の最奥の最奥。最も立ち入りが厳しい場所に位置しているのも無理はないというか、当然なわけで、何が言いたいかってーとすなわち――
「遠いんですけど……」
この国ひろおおおい!
国全部徒歩で見て回ろうとしたら何ヶ月掛かるのか?
馬車を四つ乗り継いだところで、ついにぼやいてしまう。ケツの痛みが、なかなか無視できないレベルになってきた。
だってそろそろ宿を出て五時間くらいになんよ? お昼もとっくに回って馬車に乗りながら軽食で済ましたし。まだぁ? って言いたくもなるわ!
すると隣に座っているミルヴァが唇を尖らせる。
「『ワープ』の魔法使えば一瞬でいけますけど? 私使えますけど? 「味気ないからヤダ」って駄々こねたのセツナさんじゃないですか」
「だってさぁ……」
『ワープ』とやらにも興味はあったが、それは別に後でも見れると思ったんだ。
ここは魔法都市だろ? もっとここでしか見られないもんがあると期待してもしょうがないだろ。
今のところ、そういったもんは見つけられていないが。
悔しがって歯軋りしている俺を見かねたか、ミルヴァが溜息を吐いた。そして何を思ったか。次の瞬間には、馬車の外に出るギリギリにまで寄って、手招きしてくる。
「?」
そんな誘いにものこのこと釣られてしまう、傷心中の俺。
ミルヴァは傍に寄って来た俺には何も言わず、黙って上空を指差す。そこには――
「おおっ」
「この光景は、おそらく『ゲイン』でしか見られないでしょう。この国の誇る名物の一つと言っても過言ではないと思います」
驚いた。確かにこれは地球では絶対に見られない光景だわ。
――上空を生身の人間が飛び交っている光景。
『ゲイン』には陸・海問わず大勢の人間が訪れる。場合によっては空からも何かやってくる。
例えば、空飛ぶ不思議人間・空飛ぶ魔法の絨毯・飼い慣らされた小型ドラゴンなどなど。さすがは世界に誇る魔法大国である。
うわ、なんだか翼の生えた馬車まである。ファ○シオンか。
残念ながらただの人間であるところの俺には、そんな芸当なければ道具もない。ただただ遥か上空を羨ましげに見上げる、ちっぽけな存在。それが今の俺。
どんな理不尽に巻き込まれても死なないだけです。あとちょっとした神様級の反則技を少々使えるのとあとちょっとした戦闘技を(以下略)。
なんで、ああいうものを見ると、素直に思う。
「なにあれ便利、超欲しいんだけど」
「カネを手に入れてから言ってください」
「…………」
「…………」
「お前さ……俺がカネ借りてからやたら手厳しくなってない?」
「気のせいじゃありません」
「気のせいならしかたな――くねぇじゃねえか!?」
フェイント仕掛けんなよ!?
はぁ……
ため息を吐いている俺とは対照的に、なぜだか機嫌が良さそうなミルヴァが言う。
「大丈夫ですよ。その為にこれから仕事して、おカネを稼ぐんじゃないですか!」
「そうだけどな。それはあの魔法の絨毯だの、飛竜だのを買えるほど稼げる仕事なのか?」
「ええそれはもう確実に!」
「またきっぱりと言い切るね。根拠は?」
「命懸けですから! 当然報酬もそれ相応ですよ!」
「――待て。お前本っ当に俺に何させたいの?」
ただの教職で死ぬはずがない。絶対に何がしか理由があるはずであり。
「まあまあ、その辺りの説明は学園に着いてから本職の先生がきちんと教えてくれますから♪」
「……人が命懸けの職場に行こうとしてるっていうのに、ずいぶん嬉しそうだな。実は俺の事嫌いなの?」
「え? いえいえいえそんなワケないじゃないですかぁ。誤解させてしまったのならすみません」
素直に頭を下げるミルヴァ。
――うん、嘘ではないな。本当でもなさそうだけど。
「久しぶりに古巣に戻れる事が楽しみで、少し高揚しているだけですよ」
「ふーん……」
ちょっと母校に帰れるってだけで、そこまで嬉しいもんかね? 俺にはわからん。
「あ! あれですっ。あの大きい建物!」
馬車から身を乗り出し、大声を挙げて指差す少女。
この国には当然、ビルだの高層マンションだのは存在しない。家だろうと店だろうと、高くて二階建てくらいのものがほとんどだ。
なので学園くらいに大きな建物ともなれば、言われずとも一際目を引く。その存在には、言われるまでもなく気付いていた。
――とはいえ。
「いやこれ……流石に大きすぎねぇ?」
スカ○ツリーを真下から見上げた時ですら、ここまでの高さは感じなかった。
それが、まるで国会議事堂の様に横幅を広げ、そびえ立っている。
明らかに他の建物とは雰囲気が違う。神々しいとも、あるいは禍々しいとすら呼べる、一種の突き抜けた威圧感を感じた。
「ここが、俺の職場……?」
なーんか、現実感がないなぁ。
ある意味、この世界に来てから一番ファンタジー感じてるかもしれん。
馬車から降りる。ここまでくると、流石に過剰な人気はなくなっていた。
生徒やら教師らしき人物がちらほらと見えるものの、港付近の観光エリアに比べれば雲泥の差である。
あちこちに警備員っぽい連中が突っ立っており、ギラリと目を光らせていた。
顔に×印の傷跡つけてる超こええのもいるんだけど。大丈夫なんあれ? ちゃんと職歴とか調べたんだろうか?
そんなくだらない事を考えている俺の事など忘れた様に、ミルヴァが目を細めていた。
「記憶のままですね……ほんとうに……」
急ぎでもないし、思い出に浸る時間くらい待っててやろう。
改めて学園を見上げてみる。……うん、やはりでかい。
馬車で通ってきた石壁はもはや城壁とでも呼ぶべき堅固さだったし。ここも学園と呼ぶより城塞とでも呼んだ方がしっくりくるんだが。
今ミルヴァの気分損ねたらまずいんで言わないけど。
無一文は辛いぜ!
暇だから写メでも撮ってアルティに送ってやろうか考えていると、校舎の方から誰かやってくるのが見えた。
三十代前半くらいの、スラッとした長身の男。しかも――イケメンだあいつ!
威嚇して追い払ってやるべく力を貯めていると、俺ではなくミルヴァが行動を起こした。イケメンにダッシュで距離を詰めていく――やべぇ!?
「待てぇミルヴァ!? いきなりぶっ飛ばすのはさすがにまずい――」
「お久しぶりです! ミハイル先生ッ!」
制止しようと駆け出していた脚に急ブレーキが掛かる。
ミルヴァはイケメンの前で見事に停止し、頭をひょこっと下げていた。
勢いのやり場をなくした俺は、変な体制で止まったまま思考する。
んんん? ミハイル……先生? 何度か聞いた名前だな。
「ええ、本当に。昨日、急にこちらへ来ていると手紙を貰った時は驚きましたよ。しかもその翌日には学園に来るなんて、突然すぎて何も歓迎の準備ができませんでした」
むむ、なんとも。誠実そうなイケメンだなこいつ。できるヤツか!
「いいえぇ。今の私はただの村娘ですから! なんにも気兼ねなさる事はないですよ? お気持ちだけで十分ですっ」
「そう言ってもらえると助かります。それでは――」
「ええ、それでは――」
今までは普通に、学校の卒業生とその恩師という雰囲気だったのが、何故か二人とも表情を一変させる。
え、何? 何が始まんの? この学園の習わしでもあんの?
混乱している俺とは対照的に、二人は神妙な面持ちで瞼を閉じ、顔の前で両手を合わせ、同時にその言葉を口にした。
「「村娘神様のご加護に感謝致します」」
……
訂正。
この男はもうダメだ!
--------------------------
今回のヘイトポイント加減値
美少女をつれ(以下略)独り身男の(以下略)合計=+300p
学園生達からの不審感合計=+100p
現在のヘイトポイント=100億1万552p
才能と入学金さえあれば平民でも入れるらしいが、基本的にその場所は王族貴族等のエリート集団の巣窟だ。つまりはVIP。それだけ厳重な造りが必要だというわけだ。
何かの間違いで襲撃でも受ければ、世界大戦、勃・発!
そしてそんな核弾頭じみた危険施設が国の最奥の最奥。最も立ち入りが厳しい場所に位置しているのも無理はないというか、当然なわけで、何が言いたいかってーとすなわち――
「遠いんですけど……」
この国ひろおおおい!
国全部徒歩で見て回ろうとしたら何ヶ月掛かるのか?
馬車を四つ乗り継いだところで、ついにぼやいてしまう。ケツの痛みが、なかなか無視できないレベルになってきた。
だってそろそろ宿を出て五時間くらいになんよ? お昼もとっくに回って馬車に乗りながら軽食で済ましたし。まだぁ? って言いたくもなるわ!
すると隣に座っているミルヴァが唇を尖らせる。
「『ワープ』の魔法使えば一瞬でいけますけど? 私使えますけど? 「味気ないからヤダ」って駄々こねたのセツナさんじゃないですか」
「だってさぁ……」
『ワープ』とやらにも興味はあったが、それは別に後でも見れると思ったんだ。
ここは魔法都市だろ? もっとここでしか見られないもんがあると期待してもしょうがないだろ。
今のところ、そういったもんは見つけられていないが。
悔しがって歯軋りしている俺を見かねたか、ミルヴァが溜息を吐いた。そして何を思ったか。次の瞬間には、馬車の外に出るギリギリにまで寄って、手招きしてくる。
「?」
そんな誘いにものこのこと釣られてしまう、傷心中の俺。
ミルヴァは傍に寄って来た俺には何も言わず、黙って上空を指差す。そこには――
「おおっ」
「この光景は、おそらく『ゲイン』でしか見られないでしょう。この国の誇る名物の一つと言っても過言ではないと思います」
驚いた。確かにこれは地球では絶対に見られない光景だわ。
――上空を生身の人間が飛び交っている光景。
『ゲイン』には陸・海問わず大勢の人間が訪れる。場合によっては空からも何かやってくる。
例えば、空飛ぶ不思議人間・空飛ぶ魔法の絨毯・飼い慣らされた小型ドラゴンなどなど。さすがは世界に誇る魔法大国である。
うわ、なんだか翼の生えた馬車まである。ファ○シオンか。
残念ながらただの人間であるところの俺には、そんな芸当なければ道具もない。ただただ遥か上空を羨ましげに見上げる、ちっぽけな存在。それが今の俺。
どんな理不尽に巻き込まれても死なないだけです。あとちょっとした神様級の反則技を少々使えるのとあとちょっとした戦闘技を(以下略)。
なんで、ああいうものを見ると、素直に思う。
「なにあれ便利、超欲しいんだけど」
「カネを手に入れてから言ってください」
「…………」
「…………」
「お前さ……俺がカネ借りてからやたら手厳しくなってない?」
「気のせいじゃありません」
「気のせいならしかたな――くねぇじゃねえか!?」
フェイント仕掛けんなよ!?
はぁ……
ため息を吐いている俺とは対照的に、なぜだか機嫌が良さそうなミルヴァが言う。
「大丈夫ですよ。その為にこれから仕事して、おカネを稼ぐんじゃないですか!」
「そうだけどな。それはあの魔法の絨毯だの、飛竜だのを買えるほど稼げる仕事なのか?」
「ええそれはもう確実に!」
「またきっぱりと言い切るね。根拠は?」
「命懸けですから! 当然報酬もそれ相応ですよ!」
「――待て。お前本っ当に俺に何させたいの?」
ただの教職で死ぬはずがない。絶対に何がしか理由があるはずであり。
「まあまあ、その辺りの説明は学園に着いてから本職の先生がきちんと教えてくれますから♪」
「……人が命懸けの職場に行こうとしてるっていうのに、ずいぶん嬉しそうだな。実は俺の事嫌いなの?」
「え? いえいえいえそんなワケないじゃないですかぁ。誤解させてしまったのならすみません」
素直に頭を下げるミルヴァ。
――うん、嘘ではないな。本当でもなさそうだけど。
「久しぶりに古巣に戻れる事が楽しみで、少し高揚しているだけですよ」
「ふーん……」
ちょっと母校に帰れるってだけで、そこまで嬉しいもんかね? 俺にはわからん。
「あ! あれですっ。あの大きい建物!」
馬車から身を乗り出し、大声を挙げて指差す少女。
この国には当然、ビルだの高層マンションだのは存在しない。家だろうと店だろうと、高くて二階建てくらいのものがほとんどだ。
なので学園くらいに大きな建物ともなれば、言われずとも一際目を引く。その存在には、言われるまでもなく気付いていた。
――とはいえ。
「いやこれ……流石に大きすぎねぇ?」
スカ○ツリーを真下から見上げた時ですら、ここまでの高さは感じなかった。
それが、まるで国会議事堂の様に横幅を広げ、そびえ立っている。
明らかに他の建物とは雰囲気が違う。神々しいとも、あるいは禍々しいとすら呼べる、一種の突き抜けた威圧感を感じた。
「ここが、俺の職場……?」
なーんか、現実感がないなぁ。
ある意味、この世界に来てから一番ファンタジー感じてるかもしれん。
馬車から降りる。ここまでくると、流石に過剰な人気はなくなっていた。
生徒やら教師らしき人物がちらほらと見えるものの、港付近の観光エリアに比べれば雲泥の差である。
あちこちに警備員っぽい連中が突っ立っており、ギラリと目を光らせていた。
顔に×印の傷跡つけてる超こええのもいるんだけど。大丈夫なんあれ? ちゃんと職歴とか調べたんだろうか?
そんなくだらない事を考えている俺の事など忘れた様に、ミルヴァが目を細めていた。
「記憶のままですね……ほんとうに……」
急ぎでもないし、思い出に浸る時間くらい待っててやろう。
改めて学園を見上げてみる。……うん、やはりでかい。
馬車で通ってきた石壁はもはや城壁とでも呼ぶべき堅固さだったし。ここも学園と呼ぶより城塞とでも呼んだ方がしっくりくるんだが。
今ミルヴァの気分損ねたらまずいんで言わないけど。
無一文は辛いぜ!
暇だから写メでも撮ってアルティに送ってやろうか考えていると、校舎の方から誰かやってくるのが見えた。
三十代前半くらいの、スラッとした長身の男。しかも――イケメンだあいつ!
威嚇して追い払ってやるべく力を貯めていると、俺ではなくミルヴァが行動を起こした。イケメンにダッシュで距離を詰めていく――やべぇ!?
「待てぇミルヴァ!? いきなりぶっ飛ばすのはさすがにまずい――」
「お久しぶりです! ミハイル先生ッ!」
制止しようと駆け出していた脚に急ブレーキが掛かる。
ミルヴァはイケメンの前で見事に停止し、頭をひょこっと下げていた。
勢いのやり場をなくした俺は、変な体制で止まったまま思考する。
んんん? ミハイル……先生? 何度か聞いた名前だな。
「ええ、本当に。昨日、急にこちらへ来ていると手紙を貰った時は驚きましたよ。しかもその翌日には学園に来るなんて、突然すぎて何も歓迎の準備ができませんでした」
むむ、なんとも。誠実そうなイケメンだなこいつ。できるヤツか!
「いいえぇ。今の私はただの村娘ですから! なんにも気兼ねなさる事はないですよ? お気持ちだけで十分ですっ」
「そう言ってもらえると助かります。それでは――」
「ええ、それでは――」
今までは普通に、学校の卒業生とその恩師という雰囲気だったのが、何故か二人とも表情を一変させる。
え、何? 何が始まんの? この学園の習わしでもあんの?
混乱している俺とは対照的に、二人は神妙な面持ちで瞼を閉じ、顔の前で両手を合わせ、同時にその言葉を口にした。
「「村娘神様のご加護に感謝致します」」
……
訂正。
この男はもうダメだ!
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今回のヘイトポイント加減値
美少女をつれ(以下略)独り身男の(以下略)合計=+300p
学園生達からの不審感合計=+100p
現在のヘイトポイント=100億1万552p
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