死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

仕事にありつくのは大変です。

 鳥の鳴き声が聞こえる。
 起き上がり、カーテンを一息に開けると、まだ淡さを残した光が部屋の中に充満してきた。
 うむ、いい朝だ! 気分が良い!
 俺が一人伸びをしている横に、にゅっと顔を突き出してくる一人の人物。


「あれあれ小鳥さん。ゆーべ宿屋の前で醜態を晒していたヒモが何かかっこつけていますよ。滑稽ですねぇ♪」
「……」


 ここ、このヤロウ……朝っぱらから言ってくれるじゃねえか。
 窓辺に寄り添い、小鳥を指に乗せて語り掛けている姿は、まさに深窓の令嬢と呼ぶに相応しいそれだ。
 そして無駄に良い絵面しているだけに、その台詞に余計腹が立つ!


「喧嘩売ってるなら受けて立つぜこんにゃろ……!」
「おお怖い怖い、では今すぐ貸したお金を返して頂けると考えてよろしいですね? いやあ良かった良かった。確か昨晩の宿泊料は――」
「すんませんでしたあああああ!!」


 醜態の再現。
 ちくしょうなんたることか、まさかこの俺が。この、俺があああ。


「まあ別にいんだけどな。頭下げるくらい」


 俺が地球で何回人様に「俺をぶっ殺して下さいお願いしゃっす!」と土下座してきたと思っている。今更一回二回増えた程度で動揺などしない。


「うわぁ……あっさり人にかしずくとかドン引きですね」


 ど、動揺などしないが。
 とりあえずこの話題は早々に打ち切るべきだと俺の勘が告げている。


「と、ところで今日は何処を見て回るかね?」
「求人広告?」
「テメエぇぇぇぇ!」


 キレました。しばらく暴れていたら、宿屋の店主に怒られました。反省。
 閑話休題。


「真面目なお話ですが、実際貴方の金欠具合は無視できませんよ。街を見て回る前に、金策を考えるのが先決ではないですか? 私の懐だって限られていますし、本当にヒモになってしまいますよ?」
「ぬぅ……」


 この上なく事実なんだろう。
 実際わざわざ節約の為に、俺という男と一緒の部屋で寝泊りしているくらいだ。こいつはその辺、傍目には緩そうに見えて実は意外とガードが堅い。その事は昨日街中を巡った時に理解している。それでもそんな判断を下さざるを得なかったという事実、確かに無視はできない。
 ヒモかあ……男のプライドだの今更気になる性格ではないが、やはり気分はよろしくない。
 ここはミルヴァの言う通り、ひとまず何らか仕事を探すのが先決か。
 つってもなあ。


「自慢じゃないが俺は結構な気分屋で自己中だ。まともな仕事が勤まるとは到底考えられない!」
「本当に自慢できませんね……」
「で、何か良い仕事ない?」
「清清しいほど丸投げしてきますね……」


 呆れた様子を隠そうともしないミルヴァだが、一応考えてくれているようで、答えるまでに数秒の沈黙を必要とした。


「やっぱり腕っ節に自信があるのでしたら『傭兵』や『冒険者』ではないですか? 『兵士』という選択肢もないではないですが、規律を重んじれないのであれば不向きを否めないでしょう」
「ああ~やっぱそうなるかね」


 まあ、地球においても同じ様な事をしていたし、別に文句はない。ただ異世界に来ても、結局変わり映えしない日常になってしまうのかと思うと、少しだけ嫌だったが。


「あのー……何か気を悪くされましたか?」
「ああ悪い、そういうわけじゃないんだ」
「んん……何でしたら、もっと別の職を紹介出来るかもしれません」


 お? 何やら風向きが……


「どんなん?」
「村娘教のふきょ――」
「さようなら、短い付き合いだったがたのし――」
「あああああ!? 冗談です冗談ですホントはかなり本気でしたけど許してください!」


 本音を隠せ。俺が言えた事でもないが。


「はあはあ……前にも言いましたが、この国には以前、学園に通っていた事がありまして」
「ああ聞いた。その繋がりから察するに、教職とか?」
「そうです! と言いたいところなんですが、セツナさんは魔法はお使いになられますか?」


 なんだか微妙な質問が来たな。どう答えるべきか。
 イエスと言ってもノーと言っても嘘ではない。なら現状だけを考えれば、ここでイエスと答えるべきなんだろう。おそらくそれが仕事を紹介される分岐点だろうし。
 良し、ならここは。


「使えないよ」


 ――何故そう答えてしまったのか、自分でもはっきりとは説明できない。ただなんとなく、ここではそう答えた方が良い様な、そんな気がしたのだ。
 ここでの返答が誰かの生死を左右しそうな『死』が絡んだ予感。
 地球でも滅多に感じたことのない懐かしい感覚を、俺は咄嗟に大事にしてしまったのだ。言ってしまえば前世に残してきたはずの、ただの未練。
 そしてその、少なくとも現状を見誤った返答に対する報いは当然訪れる。


「そうですか。ではきっと適任ですね!」


 ほら訪れて――――はあ?


「いやぁ良かったです! 大抵の人は嫌がって受けてくれないものなんですが、セツナさんでしたらきっと大丈夫ですよ!」
「待て、ちょっと待て。お前俺に何をさせるつもりだ?」
「不適合クラス」


 呟かれた一言は、俺の不幸メーターをビンビン反応させるのに十分なものだった。


「要するに『学園に通っていながら魔法の扱いが下手な子供達を集めたクラス』での授業をお願いしたいのです。なまじ魔法を使える人物より、あえて使えない人物の方が彼らの感覚の助けになるのでは? と、ミハイル――恩師である先生に紹介をお願いされていたのですが、いやあ! ようやく応える事ができそうで何よりです!」
「待てぇ!? 勝手に決めんな! 引き受けるなんて言ってな――」
「あ、店主! 昨晩の宿泊料の事で、ちょっとお話が――」
「謹んで拝命致します!」


 このアマ……カネができたら覚えてろよ!?
 きっちり利子付けて返してやっからなちくしょう!




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 今回のヘイトポイント加減値
ミルヴァのからかい=+10p
宿屋店主の怒り=+20p
現在のヘイトポイント=100億1万152p

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