死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

やっぱりこの世はおカネで回る

「――なるほどね。うん、まあわかった」


 元海賊団リーダー改め『ヴル』の話を聞き終え、自分の考えと照らし合わせてうなずいた。
 大体予想通りといったところか。だとすればこの後、かなりの面倒事が舞い込む事になるよなあ……
 うーん、どうすっかね?


「……そう簡単に信じていいのか? 俺が嘘をついている可能性だってあるだろう」
「賊の頭張ってたくせに、律儀なヤロウだなあんたも」


 本当に嘘ついてんなら、いちいちそんな事聞くかい。
 最もそんな精神論ではなく、れっきとした根拠もある。
 ――ヴルから悪意の類を感じない。
 あれほど痛烈に叩きつけてきた殺気さえ今は押し込め、俺の問いに詰まる事無くしっかりと答えている。問答に対してきちんと頭を働かし、誠実に神経を注いでいる証拠だ。
 そもそも、その類の感情があればスマホが反応している。
 俺の悪意に関する鼻に加え、神の製造したアイテムすら反応しないのだ。疑う余地はない。 


「何はともあれお疲れさん。鍵は開けておくから、日が暮れない内に逃げると良いよ」


 俺が牢から出ようと立ち上がると、ヴルが眉をひそめてこちらを見上げていた。


「このまま俺を解放するつもりか? 今の俺でも、船に火を付ける事くらいはできるぞ」


 日の光が極めて当たりにくい、日中ですら薄暗い牢屋を灯している明かりを睨んで言う。
 鼻で笑ってやった。


「その体で? 燃えた船から? 警備の兵から? 俺達から? 逃げ切れるって? その時点でお前の復讐は終了するな」
「……」
「自分で出来ないって分かってる事をいちいち口に出すなよ、時間の無駄だ」
「……逃げたフリをして、待ち伏せをしているかもしれない」
「二度は言わねえ」


 そのまま扉を開けっ放しに牢を出て行く。
 それ以上の声は、掛からなかった。




 船から降りると、ミルヴァがちょうど戻ってきたところだった。


「ふぁ! おっふぉいれふよれふらはん! (あ! おっそいですよセツナさん!)」
「人間語を喋れ」


 軽く回っててといっただけなのに、既に口をパンパンに膨らまし、両手には食いもんの山。
 港付近を見回ってきただけで、既にクライマックスじゃねえか。


「お前……よくそんな金持ってたなあ」
「――んぐっ、ああそれは、王族御用達の装飾品をしかるべき場所へうっぱらいましたから。よゆーですよよゆー!」
「いきなり正体バレそうな事やってんじゃねえよ!?」


 変装の意味!


「ふっふっふっ、だぁいじょうぶですって! 村娘に見えて仕方ないかもしれませんが、残念ながら私王族ですよ? おおよその国の裏ルートに関しては調べがついていますし、ましてここまでの大国ならば闇の深さを選んで交渉役と接触し、足が付かない様に取引する事も可能です」
「やめろおおおおお!?  せっかく気兼ねなく観光を楽しめると思ったのに、そんな暗部の情報を耳に入れるじゃねえええっ」


 密売に行ってきました♪ とか気軽に言ってんじゃねえ!
 せっかく楽しそうな国だと思ったのに、まったく別の雰囲気に見えてくるだろうが!


「まあまあ、そんな些事は置いておいて、早速歩きましょうよ! この辺りだけでも新しい店をいくつか見つけましたし、きっと期待通りに楽しめますって!」
「些事じゃねえと思うが……はあ、まあいいや。確かに気にしすぎても仕方ねえし」
「そうですよ! さあ、こっちですよ!」
「わ、分かったっての。腕引っ張んな」


 この国に着いてからというもの、こいつはずっと満面の笑みだ。テンションも表情相応に高い。それだけ第二の故郷に帰ってきたことが嬉しいのだろう。
 まずは巨大な門の前に並び、入国許可を――っていうのが普通の流れだと思うんだが。何やらミルヴァが門番にコソコソと耳打ちすると、


「かっ、かしこまりました。許可証は必要ありません! どうぞ、お通りください!」


 明らかになんかしてんぞこの女。


「おまえ……」
「村娘神様のご加護です」
「いや、おまえ……」
「ご加護です」
「……」


 便利だな村娘神。何かやらかしたら俺も使おっかな。
 門を潜り、いよいよ国内へと足を踏み入れる。そこに広がっていた光景は、想像よりもずっと壮観なものだった。


「は、あ…………」


 圧倒的、と表現するしかない。
 港とは比べ物にもならない人ごみ。十メートルを超える道幅の精密に整備された通路が遥か先まで続き、その両横にありとあらゆる店がいくつも競い合う様に並んでは、客を呼び込む声が合唱しているかの如く一帯に響いていた。
 もしも地球でこのクラスの都市に金を落とすとしたら、一体何桁必要だろうか。きっといくらあっても、遊び尽くす事は不可能だろう。
 感嘆の息が漏れるのも、仕方ないというものだった。


「ふふ、どうです? 凄いでしょう」
「ああ、本当にすげえな……」


 ドヤ顔しているミルヴァに言われても腹も立たない。それくらい本気で感動している。
 ただ、それだけに悔やまれるのが、


「手持ちがこれじゃあなあ……」


 海賊達が使っていた、しょっぱい短刀が数本程度。最初は食費程度になれば良いと思っていたが、この街並みを見た後では、腹を満たせるかどうかさえ怪しいと感じてしまう。
 そんな事を悩んでいると、肩を叩かれた。
 見ると、ミルヴァがやたらと胸を張って、何か言いたげこちらを見ていた。親指を立てて己を指し示し、かも~んって感じで。
 それに反応してやるのがなんかヤだったので、張られた胸を凝視してやった。
 大きさは、まあまあ。多分形も良い。後は色や手触りだが、それはさすがにこの場で判定を下せな――
 その辺りでミルヴァから殺気が飛んできたので止めておいた。はい、すんません。
 ……まあ、言いたい事は分かっている。だがそれは最後の手段だ、選ぶにはまだ早い。


「と、とりあえずこのナイフを換金したいんだが、どっかいい場所知らないか?」
「武器屋は結構ありますけど、単純に一番高く売りたいならそういう専門店ではなく、もっと素人向けのフリーマーケットの方が良いと思いますよ? 金額が気に入らなければ物々交換にもできますし」
「んじゃ、とりあえずそれで」
「ではこちらです」


 意気揚々と歩き出すミルヴァの背中を追う。フリーマーケットまであるとは、本当に毎日お祭りなんだな。
 歩きながら訊ねる。


「ちなみに、お前の見立てだとこのナイフ全部でいくらくらい?」
「んん~、二食分になればいいほうじゃないですかね」
「うぇ……そんなもんかよ」
「ま! いざとなったら私が貸してあげますよ。気楽に行きましょうっ」
「そう、だな。きっとなんとかなるぜ!」


 ミルヴァの陽気に当てられたか、何の根拠もない自信を抱いて歩を進める。
 だいじょぶだいじょぶ。カネなんかなくったって死なないし。っていうか別に死んだっていいしな!
 そう考えると気が楽になってきたあ!
 こうして俺達は、街の賑わいの一部として、見事に溶け込んでいった。




 ――その夜。


「ミルヴァさあああああん! カネ貸してつかあああさいおねぁしゃああああああっっっす!!」


 宿屋を前に、自分と同年代の少女の足元に全力で跪く、哀れな男の姿があったのだった。




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 今回のヘイトポイント加減値
セクハラに対するミルヴァからの殺気=+800p
美少女と二人で街を練り歩く姿を見た独り身男性からの嫉妬合計=+1000p
宿屋の前で少女に土下座している姿を見た観衆からの嫌悪や哀れみ合計=+1500p
現在のヘイトポイント=100億1万122p

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