死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

賑わいよりも、まず情報

 陸地が近づくにつれ、国の様子も体で感じられるようになっていく。
 ここから見える港付近だけでも、数え切れないほどの人間が行き交い、賑わっているのがわかる。
 お祭りでもやってるのかと思ったが、ミルヴァが言うには「いつもこんな感じですよ」らしい。
 泊まっている船の種類も様々で、一般客を乗せる交易船もあれば、大量の商品を積んだ大商船まである。
 第一印象としては、巨大な観光都市、といったところか。
 なるほど、こりゃ楽しそうだわ。
 船を港につける。
 二人だけだからそれだけの事でも結構手間が掛かったが、特にトラブルもなく、無事に上陸できそうだ。


「さあ! では早速行きましょうっ」


 さっさと船から降りて、今にも駆け出していきそうなミルヴァが手招きしている。
 散歩に連れて行ってもらうのを今か今かと尻尾をぶんぶん振って待ち焦がれている飼い犬のごとく、リードでもつけていないと、何処にいってしまうかわかったもんじゃない。
 ただ早く行きたい気持ちは俺とてやまやまなのだが、残念ながらその前にやっておかなきゃならない事がある。


「悪い、ちょっとその辺で時間潰しててくれ」
「えー? ひょっとして、まだ準備できてなかったんですかぁ? 遠足の準備は一日前までに終わらせておくのが基本ですよ?」
「ちょっと手間の掛かる荷物なんだよ。時間掛かるかもしんないから、先に軽く見回ってていいぞ」
「りょーかいです。いろいろ案内してあげますから、急いでくださいね!」
「うーい」


 片手で答え、俺は船の中に戻る。
 目指すは船底。この船の、最下層。そこにある一室だ。
 この船は操舵室が最上階。その下の階に甲板への出入り口や、船長室にブリーフィングルーム。その下には船員用の船室がズラリと並び、さらにその下、最下層には積載用のスペースや厨房、牢屋などがある、四層設計になっている。
 で、俺が用があるのは最下層。そんなところに何の用が? と人がいれば聞かれるかもしれない。
 積載スペースからお宝でも持っていく? 違う違う。そもそも最初にこの船の全域は見回って、そういった金銀財宝が無い事は分かっている。
 無一文はあれなんで、まだマシな状態だった短刀やらは何本か置いてあったのをかっぱらせてはもらったが。
 目的は、牢屋の方。
 そこに囚われている、一人の男。


「あいつにゃ嘘ついちまったな」


 まあ、あいつもまだ俺に隠し事をしている感じだし、おあいこだろう。
 鉄格子の鍵を外し、内側へと体を滑り込ませる。その先で寝転がっていた人物が、顔を顰めるのが分かった。


「よお、気分はいかが?」
「……すこぶる最悪だが、貴様のツラを見て、ますます不快になった」


 チンピラじみた海賊共をまとめていた男。リーダー格の大男だった。




 男が体を起こしたのを見て、向かい合う形で座る。
 先に口を開いたのは男の方。
 こちらを射殺さんばかりに睨め付けながら、いかにも重たそうに言葉を紡ぐ。


「……なぜ俺を生かした?」
「聞きたい事があったからだよ」


 単純明快に答えた。


「俺が素直に答えるとでも?」
「そんときゃしゃあない。お前もお仲間と同じように海に捨ててやる」
「ふん、情報が欲しいというわりに、あっさりと切り捨てるか」
「できれば欲しい情報ではあるが、どうしても絶対に聞きたいってほどでもない。要は労力に見合うかどうかって話」


 こんな大男を担いで階段下りて牢屋に放り込んだり、ミルヴァにばれない様にこっそりと食事を運んだり、下に行こうとするミルヴァを適当な言い訳で留めたりと、結構大変だった。


「仮に話したとして、その労力に見合うだけの情報を俺が持っていなかったら?」
「多分無いと思うけど、そん時は単に俺の考えが甘かったってだけだから、特にはどうも。適当に逃がしてやるから身の振り方はご自由に」
「屈辱だ」


 男は言い切った。
 決して大きな声ではなかったが、それだけに凝縮された感情が良く伝わってくる。そんな一言。


「俺は可能なら、いますぐにでもお前を殺してやりたい。仲間を皆殺し、俺の全てを奪い去ったお前をな」
「いつでもどうぞ?」


 両手を広げ、掛かって来いとアピール。別に拘束しているわけではないし、この距離だ。飛びかかってくる事くらい、今のこいつにだって出来るだろう。
 至って本気だったのだが、どうやら男にはふざけていると思われたらしい。
 ギリッと、奥歯をかみ締める音が聞こえた。


「俺では貴様には勝てん。ここまで叩きのめされて実力差が分からんほど馬鹿ではない。まして、こんな状態ではな」


 俺に圧し折られた腕と脚。その怪我は未だに完治していない。一応最低限の補強だけはしておいたから多少はマシになっているはずだが、まだ戦闘どころかまともに歩く事さえ覚束ないだろう。


「ならどうすんの?」
「選択肢などないだろう」
「自害でもしてみるか?」
「貴様を殺したい気持ちの方が強い」
「決まりだな。んじゃ手始めに、だ」


 最初に訊ねる事は決めていた。


「名前教えてくれ。いつまでもリーダーとか大男とか呼ぶの面倒なんだよ」




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 今回のヘイトポイント加減値
海賊リーダーからの殺気=+400p
現在のヘイトポイント=100億6千822p

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