死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

村娘は偉大なり! あ、そろそろ陸地が――

「セッツナさ~ん! 見えてきましたよぉ~!」


 気の抜けてきそうな叫び声が、船上に響いてきた。


「へーい」


 返事をして、甲板に出る。
 直前まで昼寝をしていたものだから、まだ少しだけ眠い。
 あくびしながら、船の先頭へと辿り着く。


「おお……」


 そこから見えたのは、まだだいぶ距離があるが、確かに陸地だった。
 やぺー、感動する。
 遭難していた時を含めても、時間にして、たった十日程度の航海だったというのに、俺はもう何年もこの世を支える大地の存在を忘れていた気がする。
 まあ、それもこれも、いきなり大海原へ遭難させてくれたアルティのせいだと思うが。
 …………
 とりあえずアルティには、この間とっ捕まえたフナムシの特大画像を送ってやろう。んん~、もうちょっとこう、脚の関節具合が良く見えるやつがいいなあ。
 ベストショットを送ったところで、ミルヴァが監視台から降りてきた。


「やっとこさの陸地ですねぇ」
「全くだ。出来ればもっと早い段階で見たかったよ」
「そんな我が侭言わないでくださいよぅ。これでもかなり全力で飛ばしてきたんですからね?」
「ああいや、お前に言ったんじゃないから」
「?」


 首を傾げているが、実際ミルヴァの航海術には助けられた。こいつがいなければ、あと何十日と海の上だったとしてもおかしくなかった。
 ちなみに、当然ながらとっくに海賊船のマークは消してある。
 一応、港に停泊させるつもりだし、厄介事を自ら引き寄せる事はしたくない。
 ヘイトポイント? のんびりいこうぜ!


「それにしてもこの辺りは、なんか平穏そうだな」


 とある領域を超えてから、明らかに波が一段と穏やかになってきた。この辺りの海域の特徴なのだろう。
 世界最大の魔法国家『ゲイン』。
 ミルヴァに魔法について知るために最もいい場所を訊ねたところ、その答えが返ってきた。
 世界各地から才能溢れる若手の魔法士達が集う、最高の学び場だと。


「いやあ~懐かしいですねぇ。私も昔、あの国で勉学に励んだんですよ」
「ん? お前王族だろ。勉強なんてお国で家庭教師にでも見てもらえばいいじゃねえか」
「ウチの教育方針でしてね。『一度は外の国を見てくるべし』っていう。私にとっては、魔法の修行も人生経験も積める、一石二鳥な場所でした」


 少女は風に靡く髪を押さえ、その視線は過去を眺めている。
 本当に、第二の故郷とでも呼ぶべき場所なんだと、雰囲気から分かった。
 邪魔するつもりはなかったが、しかし何か引っかかる。
 んー…………んん? いや……待てよ?


「お前そんな場所じゃ、知り合いとかも多いんじゃないのか?」
「ええ! 学園でお世話になったミハイル先生とか、元気にしているでしょうか!」
「アホかお前はっ、国から逃げてるクセして、あっさり顔バレするところに来てどうする!」
「えええええ!? セツナさんが来たいっていったくせにぃっ」


 そりゃそうだが、そこまで馴染みがあるなら、もっと早く言っておいて欲しかったぞ。


「英才教育とやらで、変装術は学んだのか?」
「んん……? ふ、ふふふふふふ……」


 何か気味の悪い含み笑いをし始めたアホ娘。


「アホ娘じゃありません! 村娘です!」
「姫だろうがあ!」
「どっちだって似たようなもんですっ」
「全ッ然ちげーから! つか何でお前まで俺の心が読めんだよ! それも魔法の一種か!?」
「姫ぱ……村娘パワーの恩恵です!」
「何の説明にもなってねえ!?」
「全ては村娘神様の御心のままに」
「誰だよ村娘神!?」
「ぷぷ! 知らないんですかあ? でしたら教えてあげます! 今から時を遡る事四百年。ここから遥か東方の島にある小さな村で生まれた――――」
「興味ないから。さっさと答えを言え」


 大半の人が思うだろう事をビシッと言ってやったら、なんだかものすんごい顔された。なんなのか。


「……カトリーヌ様です」
「へえ。で、そのカトリーヌ様は何やったんだ?」
「毎日一生懸命畑を耕して、結婚して子供を育て、村の生活に貢献し、百年以上を生きて大往生なされました」
「うん……で?」
「以上です」
「ただの長生きしたばーさんじゃねえか!?」
「もっぺん言ったらぶっ殺しますよ! ファンタジア生誕以来、この上なく平々凡々な村娘として生涯を全うされたとされる村娘神様になんて不遜な!」
「お前実は村娘神様馬鹿にしてんだろ?」


 閑話休題――でもないな。


「なあ、何でそんなに村娘にこだわってんだよ」
「何で? ふっ、愚問極キワきわまりありませんね!」
「良く噛まずに言えたなあ、その台詞……」
「村娘こそ、この世において最も素朴で純情な存在! たとえ天変地異が起ころうと、その存在が穢れる事はありえないでしょう!」
「いや、天変地異が来たとしたら、さすがにどんな村娘も裸足で逃げ出すと思うが」
「そんな村娘はパチモンです!」
「マジかよ……お前判定厳し過ぎね?」
「まあつまるところ! この世で私以上に村娘を極めた存在はカトリーヌ様を置いて、他にいないということです!」
「村娘を極めるって言い方がすげーな……」


 まあ、遊び人を極めればパル○ンテ使えるゲームもあったし、意外と特殊な技を習得できるのかもしれないが。


「というわけで、ジャン!」


 しゅぱっ! と、凄まじい身のこなしで、一瞬にして変装してみせた。
 ――む、認めるのがなんとなく悔しいが、確かにこれは。


「どうです? 恐ろしいまでの村娘具合でしょう!」
「ああ、本当に驚いた」
「でしょう! でしょう!」
「頭の回転も平凡そうで、運動も平凡そうで、顔も美人でもブサイクでもない、何の特徴もないこの上なくどうでもいい人間になりきってやがる。いや、ほんと驚いた」
「んんん……? なんかあなたの言い方に悪意を感じるような……」
「気のせい」
「気のせいなら仕方ありませんね!」


 こうして、ついに俺達は念願の陸地へと辿り着いたのだった。




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 今回のヘイトポイント加減値
村娘神信者の怒り=+1500p
現在のヘイトポイント=100億6千422p

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