死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

初めての仲間が出来ました。

「え? あなた海賊さんじゃないんですか?」
「そうだよ……」


 たったそれだけのことを理解させるのに何十分掛けさせられたか。
 ようやく妙な熱気を発していた空気も冷え、落ち着いて話を再開させられる。


「じゃあ、あなた誰なんです?」


 当然の疑問だが、こいつの正体も不明だし、名前を告げるのは気が進まない。
 考えて、適当に誤魔化すことにした。


「神様のお使い」
「えええー……」


 あ、信じてねえなこれ。別にいいけどさ。
 むしろ今の発言に反応を示したのは、いまだスマホの向こうで話を聞いているアルティだった。


『……いやお主、そこは御使いと言ってくれんか。なんかその、威厳が……』
「手遅れな事を気にしてもしょうがないだろ」
『わらわの威厳既に終わっとる!?』
「着信音にアイドル曲とか選んでる時点でな」
『だ、だって聖歌なんか聴いてても、長い上に何言ってんだか分からんし、正直つまら――』
「わかったからそれ以上はやめてやれよ……」


 お前の為に歌ってくれてる人達が気の毒過ぎんだろ。
 そこで村娘(自称)が口を挟んできた。


「すごいですねえ」
「あ? 何がよ?」


 村娘の指が、俺の手にしているスマホを指す。


「それ、離れた相手と会話できるマジックアイテムなんですよね? そんな便利なアイテム初めて見ました。ウチの国宝の中にだって、そんなのありませんよ」
「国宝て……お前こそ、どこの誰なんだよ?」
「私ですか? ふっふっふっそんなに知りたいんですかぁ? 仕方ないですねえ」
「やっぱいいや」
「聞ぃいてくださいよおおおおおおおおおおぉぉぉ!!?」
「ほんッッとおおに面倒なヤツだなお前!?」


 飛びついて懇願してくる少女を力尽くでひっぺがす。
 しかしこいつ、やはりかなりの力で、突き放されてもこちらに腕を伸ばしてくる。
 しつこいわ!


「わあったよ! ちゃんと聞いてやるから離れやがれ!」
「そうですか? やったあ! ……へっ、ちょろいですね」
「何か言ったか?」
「いえなにもぉ?」


 そして村娘は、船長が使うはずの机に飛び乗った。長いスカートのくせに、腕力だけでなく身軽だな。
 勢いをつけてこちらへ向き直り、手のひらを突き出す。


「さあ愚民ども! 耳の穴をかっぽじってよぉく聞いてくださいお願いします!」


 上からなのか下からなのか、良く分からん口上すんな。 


「私こそ! 中央大陸最大都市『ヴァンストル王国』の王位継承権第三位。ミルヴァーナ・レウ・ヴァンストル姫――あ、やべ、本名…………に良く似た村娘です!!」
「誤魔化し方が強引過ぎるわあああ!」
「ミルヴァと呼んでくださいね!」
「ほんとは誤魔化すつもりないだろてめえええええ!?」


 くっそう! 予想はしてたが、やっぱり王族かよ!
 あの、直接殺意はぶつけてこないくせして、やたらねっとりどっぷりと不快な感覚をぶっかけて来るのだけは得意な王族かよ!


『いやあの、ファンタジアにはまともな王族もちゃんとおるからの……? むしろヴァンストル王国は、他国に比べても質実剛健な事で有名な――』
「親馬鹿の意見なんざどうだっていいんだよっ」
『えええええっ!?』


 とかく、地球でもそうだったが、王族貴族と関わると特にロクなことがない。
 絶対何がしかの術数権謀に巻き込まれる事は確実で、いかに不幸な人生を送っている俺とてお近づきにはなりたくない人種NO1だったりする。
 くっ! まさか、意図せずに関わる羽目になってしまうとはっ。


『その娘、ミルヴァーナ姫と申したか? じゃとすれば良かった良かった。ひとまず安心したの』
「んん? 何でだよ?」
『いやさ、そもそもお主に用意した金稼ぎとは、龍に襲われとる姫君を颯爽と助ける事で王国から謝礼金を貰えるというものじゃったからな。一足先に海賊に攫われとったのは予想外じゃが、まあ結果オーライじゃろ! 後は姫君をヴァンストル王国へ送り届ければ、予定の修正は可能じゃ』
「ヤダよ」
「ヤです」
『まさかの二重否定!?』


 あったりまえだろ。


「何で王族と関わるのが嫌なのに、自分から進んで縁をつくる様な真似をしなきゃならんのだ。そんな役は別の奴にやらせりゃいいだろ。俺はゴメンだ」
「せっかく退屈なお城生活から抜け出せたのに、ろくに満喫しないまま国に帰るなんてありえません! 影武者だっていますし、国はお姉さまがいれば上手く回ってくれますよ。私はしばらく旅をしたいですね!」
『お、お主ら……』


 アルティはなにやら呆れているようだが、知ったこっちゃない。
 金が手に入らないのは確かに惜しいが、優先順位は自分の気持ちの方が上なんだよ。
 それよか、気になる事がある。


「お前……旅に出たいっていうが、まさか俺についてくるつもりじゃないだろうな?」
「へ? 駄目ですか?」
「駄目に決まってんだろ!」


 むしろ何を根拠に良いと思っていた!?


「ふーん……そうですかぁ」
「んだよ、含みありそうな声出しやがって」
「そうですねぇ……時に、海賊さん達はどうしました? 一人も姿が見えない様ですけど」


 今更そこに疑問がいくかよ。


「それが何か関係あんのか?」
「ありますね。結構」
「……全員殺して、海に捨てたよ。それがどうした? 殺しはいけません! なんて、性善説でも説く気か?」
「いいえ。そんなんはどうでもいいです」


 どうでもいいかい。こいつも結構言うね。


「つまり今、この船の乗員はあなたと私の二人という事で間違いありませんか?」
「そうだよ」
「でしたら、私を放り出すのはよろしくない選択だと思いますよぉ?」
「何でだよ? 回りくどいのは好きじゃない。さっさと結論言いやがれ」
「でしたら直球で。あなた、航海術は持ってますか?」
「……ねえよ」
「私はこれでもえーさいきょーいく、というものを受けてきた身の上なので、航海術も一通りの知識は持っています。一人だけではどうしようもありませんが、あなたも一人で海賊数十人を壊滅できる実力をお持ちのようですし、私とあなたの二人でならなんとかなるでしょう」
「船旅の間航海術を提供する代わり、俺の旅への同行を認めろって事かよ」
「もちろん断って頂いても構いませんが、あなたも何がしか目的があって旅をしていらっしゃるのでしょう? 船を操って何処かへ行こうにも、そもそも目的の場所へ辿り着けなければ、だいぶ遠回りになってしまうのではないでしょうか?」
「……ちっ」


 ちょっと見直さねばならない。
 こいつちゃらんぽらんなフリをして、実はかなり状況が読めている。
 俺が困る事を適切に指摘し、それをしっかりと自分の利益へと繋げている。なるほど、ただのアホ娘ではないらしい。
 とはいえ俺も、やられっぱなしでいられるほど大人じゃないんでね。


「お前、戦闘は出来るのか? あんまり弱いようなら、いない方がマシなんだが」
「ん? 出来ますよ」
「何が得意だ?」
「魔法です」


 実質、その時点で俺の心は決まったようなものだったが、はっきりと確かめるまでは口にはできない。


「どれくらい使える?」
「そうですねえ、実際見てもらった方が早いと思うので、ちょっと外へ行きませんか?」


 そうして俺達は外へ出る。外の空気はすっかりと闇色に染まり、百メートル先すら定かではない。都会の明かりに慣れた俺には、やや厳しい環境だな。
 しかし少女――ミルヴァはあっけらかんと言う。


「好都合ですね。この闇の中なら、一層見せ付けられそうです」
「明かりになるような魔法か?」
「火炎魔法」


 この上なく分かりやすい一言が返ってきた。


「私が最も好きな系統な魔法ですよ」


 とても無邪気に、見方によっては大胆なまでに不敵に、笑う。


「良く、見ていてくださいね」


 その言葉の直後、集中。
 正直、アルティが魔方陣を描いていた時よりも、空気が重たく感じる。


『いやまて、それはそれだけそやつの集中が深いというだけの話であって、魔法の威力そのものはわらわの方が遥かに上なのじゃぞ? ちょっと雰囲気に流されたくらいで、本質を見失うでない――――』


 何か言っているが気にしない。
 そうしている間にも、ミルヴァの放つ気配が高まっているのを感じるからだ。その気配が、極限まで高まったと感じた瞬間――


「プロミネンス・ストーム」


 淡々と、その一文は紡がれた。
 瞬間――世界は一変する。
 まず視界に映ったものは紅。その次にも紅。三度、紅。
 海水を蒸発させ、鉄塊をも易々と溶かすだろう高熱の熱風が、周囲を蹂躙した。そう、蹂躙という表現が相応しい。
 暗闇という暗闇が、高熱に食い潰されていく。数十秒後には、闇よりも真紅が埋め尽くす度合いの方が大きくなっている。
 海面が燃え盛るという状況を、俺は初めて目の当たりにした。


「こりゃあ、すげぇわ……」


 海賊が使っていた様な、玩具みたいなそれではない。本物の魔法。その威力を肌で感じ、身震いする。
 水龍の息吹も凄かった。地球の戦場ででも、なかなかお目に掛かれない超威力の水弾。しかし期待感で言うのなら、これはあれを上回るだろう。
 これは――思わぬ拾い物かもしれない。
 この力を殺意に変えて、俺にぶつけてもらう事ができたとしたらひょっとして――


「如何でしたか?」
「――!」


 その、のん気な声に引き戻されなければ、少しやばかったかもしれない。
 見れば、あれほどの魔法を撃ったとは思えない、陽気な表情でこちらを見ている少女がいる。


「顔色が優れない様子ですが、お気に召しませんでしたか?」


 小首を傾げて聞いてくる。
 こっちの精神状態に気付いているのかいないのか。
 ともあれ、返事は一つでしかない。


「いや、十分過ぎる。これからよろしく頼むわ」


 右手を差し出す。
 ミルヴァは、それを少しの間見つめ、おずおずと手を伸ばしてくる。
 だが、その腕が直前で止まる。


「……名前」
「ん?」
「あなたのお名前、聞いていません」


 私は名乗ったのにと。
 対等な関係を望む、気の強い少女からの要望に、俺は応えるしかなかった。


「キラノ・セツナ」
「キラノさん、ですか?」
「セツナの方が良いな」
「分かりました、ではセツナさんと!」


 その腕は、ようやく繋がれた。


「これからよろしくお願いします! セツナさん!」
「こっちこそな、よろしく頼むわ、ミルヴァさんよ」


 はてさて、この破天荒なお姫さまと、どんな道中になっていくのやら。
 ちょっとだけ面倒そうで、でもちょっとだけ楽しそうな、不思議な予感が幕を開けた瞬間だった。






 追伸。


『いやうん、楽しそうでなによりじゃよ? なによりじゃが……』


 まだアルティと通話が繋がっていた事を思い出したのは、夜が明けてからの事だった。




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