死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

死神は、再度その鎌を磨く

 まず、最も近くにいた船員四人が斬りかかってきた。内、致命傷となりえる斬道は二線。
 その一方に自分から歩み出て、不死の発動を誘発。剣戟を跳ね返された瞬間、呆然としているそいつの胴を蹴り飛ばして剣を奪う。
 ついでに初太刀をかわされて、追撃に移ろうとしていた横一人の首を斬り飛ばした。
 その感触の悪さに、顔を顰める。


「お世辞にも良い剣じゃねえな……」


 海の上にあったくせにロクに手入れされていなかったのか、少し錆付いている。あまり実戦経験はなさそうだな。
 強奪した剣を品定めしている俺を、賊共は呆然と眺めていた。
 瞬く間に二人が死亡。一人が武器を奪われ、腹を強打されて未だ蹲った状態、既に戦闘不能と言っていい。
 たった一人の相手に数十人もの人数で威圧しながらあっというまに三人がやられた状況に、人数ゆえかどこか緩みのあった連中の、目の色が変わる。
 俺に言わせりゃ、あまりにも遅い変化だが。


「気ぃ抜くんじゃねえ! こいつは魔法士なうえに、体術までやりやがるぞ!! 間違っても一人で掛かるなっ! 数の利を生かして押し切れえ!!」


 その変化が動揺、恐怖とマイナスへ傾く前に、リーダーからの檄が飛ぶ。
 いいタイミング、伊達に隊長格を張ってはいないか。
 さすがに次の攻撃、連中は無策でバラバラに向かって来る事はせず、ある程度連携を見せる様になった。
 最低でも二方面からの攻撃は当然。それを捌かれた後の追撃にも角度、タイミングに工夫が窺えた。
 しっかし、変な連中だなぁ。
 装備の手入れを怠り、実戦経験は少なそうで、そもそもの錬度が足りていない。
 だというのに、こうして連携だけはそこそこに取って見せる。どこぞの田舎の不良共が、何か大事でも起こそうと海に飛び出したのかね。
 さて、そんな事を考えている間に、ちょうど二十人目だ。 


「食らえっ」
「おっと」


 ぶん投げられた曲刀を、一歩下がって見送る。
 そこに、後ろに回り込んでいた賊が怒気を発して突っ込んで来た。


「てんめえええええ!! よくもおおおおおおおッ!」
「おいおい……」


 仲間を殺された恨みからなんだろうが、不意打ちのつもりなら剣の間合いに入るより早く声を届かせてどうする。
 せっかくかろうじて取れていた連携まで崩しての、完全な独断専行。例え背中を取ろうと、たった一方向の攻撃で仕留められる実力差じゃない。
 余裕を持って振り向き、剣は適当に捌いて、心臓を一突きでしまいだ。
 元々の実力差に加え、迂闊に過ぎる攻撃。これは当然の結末だ。
 だが、予想外はその後に待っていた。


「ぐっ、ふ……! く、くくく……」


 どう見ても即死級の一撃のはずだが、そいつはなぜか最期に笑っていた。


「お、おかしら、あと……たのんます」
「――――任せろ」 


 鬼の声が耳に届いたのは、その直後。
 視線を向ける必要もない。今この瞬間、完全に俺の死角から、リーダー格の男が大剣を振りかぶっている。
 さっきのあからさまな怒声、確かに本心からのものだったはずだ。でなけりゃ、さすがに俺は騙されない。
 しかしそれは、本命を隠す為のものでもあったと。
 命を賭した、この一瞬をつくりだす為の時間稼ぎ。


「へえ……」


 心底、感心する。大した仲間意識と、リーダーに寄せる信頼感。
 錬度の低さにただの木っ端な賊かと思っていたが、案外そうではないのかもしれない。
 さて、どうするかな。
 リーダーの振るう一撃は、既に眼前にまで迫っている。力・技・速度・気力、どれもが十分以上に乗った、驚異的な一閃。
 この一撃になら、急所の有無に関係なく、間違いなく不死が発動するだろう。
 ヘイトを使用する事で、防御も回避も可能だろう。
 対処の手段はいくらでも思い付く。いや、そもそも、対処する必要すらない。
 でもはっきり言って――やりたくねえなそれ。
 こいつらの根性賭けた一撃を、そんな反則まみれで受けるのは、どうにも気が進まない。


「――仕方ねえか」


 『死神の鎌』って二つ名、あんまり好きじゃねえんだけども。
 冥土の土産だ。今一度、その由来に立ち返ってやる。
 狙いを過たず、見事なまでに一直線に首筋へと吸い込まれていく斬撃を、


 首と肩で握り潰した。


「――――――――」


 今までどんな事態になっても唯一冷静だったリーダーの男。
 手下とは格が違った男も、しかしこの時ばかりは、そんな馬鹿なと両の眼を一杯に見開いている。
 見慣れた反応だ。なので、次の動作にも躊躇いはなかった。
 芯から砕け散った大剣を名残惜しむ様に、未だに柄を握り締めたままの両手首に肘を引っ掛け、関節を破壊する。


「っぐおおおおおおォォォッ!?」


 絶叫は、次の破壊には追いつかない。
 今度は右の膝を脚で潰す。重心を失ったリーダーは、抵抗する術もなくあっけなく倒れ伏す。あまりの激痛に、もはや悲鳴すら上げられずに悶絶している。
 どう見ても戦闘不能。勝負ありだ。
 ――死神の鎌。俺の関節による、尋常ならざる圧迫力こそが、その正体。
 首、肘、膝、指。全身に至るあらゆる関節によって敵を破壊する、立派な殺人術である。
 脆い関節部などの急所破壊が基本的な攻撃手段だが、最初に見せた様に、極めれば鉄の塊でも破壊する事が可能になる。
 通常の関節技と違うのは、何よりも効率の良さ。
 柔術などのそれは、相手の関節一つ潰すのにほぼ全身の動きを必要とするが、これに必要なのは逆に、こちらの関節一つだけ。実に実践的と言える。
 実際、過去に関節使いとやり合った事もあるが、相手にどう組み付かれても反撃が可能なこの技にとってむしろ通常の関節は、相性が良すぎた。
 断じて、俺は一切の能力を使用していない。地球にいた頃、無手だった俺の編み出した戦い方だ。
 はっきり言って、ヘイトや不死より遥かに使いこなせる。最もあの水龍みたいな、体格差とか考えるのも馬鹿らしい相手には、大した使い道はないだろうが。


「う、そ……だろ……?」
「おかしらが……負け……」


 本来烏合の集とでも呼ぶべき連中を、かろうじて『集団』として成立させていた唯一の存在が倒れた事で、残りの手下達の心はへし折られた。
 そんなやつらを仕留めるのに、反則的な異能も、極めきった技も、必要ない。
 ここに、俺が異世界で経験する初めての集団戦は幕を下ろす。
 ――事後。死体と返り血に染まった船を見て、ため息が出た。
 やれやれ……後始末の方が面倒そうだよ、くそったれ。




―――――――――――――――――――――




 今回のヘイトポイント加減値
海賊との殺し合い(手下30人)合計=+2550p
海賊の渾身の一撃(お頭)=+700p
海賊からの恐怖(9人)合計=+27p
現在のヘイトポイント=100億4千887p 

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