死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。
実は初体験ではありません。
俺は今、見た目に反して超肉体派である事を知った少女に説教されていた。
ほんの数分前まで、機関銃の掃射もかくやの勢いで拳を交換していたはずの少女は、何事もなかったかの如く俺を正座させ、熱弁を振るっている。
「――であるからして、そもそもそれがそんな形状であるのは、お主ら人間に配慮しての事なのじゃぞ? 神々は「何かあったら念話して」で済むが、人間はそうはいくまい。そこで神と人とが通信する際に、人が使い慣れた物と同じ造りの物を神具として造り出そうとして、生まれたのがこの『ゴッドフォン』。略して『ゴマホ』じゃ」
俺は思った事をそのまま言った。
「略になってねえ上に、名前がゴツくて使いたくねえ」
「それくらい目え瞑らんか! まったくお主と言うヤツは、一々手間を掛けさせてくれるのっ」
「そう言われてもなあ……」
本心は誤魔化せんよ。
「お主がどう思おうと勝手じゃが、それは紛れもなく貴重なマジックアイテム。他に持ち合わせはないからの、絶対に失くすでないぞ」
「ふうん……こんなんでも一応貴重なアイテムなのか」
「うむ、高いからの!」
「金額的な意味かよ」
誇らしく言う様な台詞か。
どうやら人と神様の絆はお金で買えるらしい。
「さて……いい加減、異世界に飛ばして良いかの? っていうか、さすがにお主の相手に疲れてきたんじゃが……」
「正直にどうもありがとうよ。ちょうど俺もそろそろ、お前で遊ぶのに飽きてきたところだ」
「お主は正直にどうも最悪じゃなあ!?」
改めて魔法陣の中央に立つ。
アルティが静かに魔法陣に力を込めていく。
その最中。
「お主にはこれから様々な試練が襲い掛かるであろう。しかし案ずる事はない。お主にはそれを乗り越えるだけの力と、後ろには常に――――」
「そんなんどうでもいいからはよ」
「お主ぃぃぃぃ! 数少ない、神としての見せ場ああああああ!!?」
「いやいらんから」
神としての見せ場? まったくもって必要ない。
神威を体験した俺に、こいつを神かどうか疑う余地などありはしないのだから。
間違っても口には出さないし、心を読まれないよう、平常心を心掛ける。
どうやら気付かれなかったらしく、アルティは不満げな表情のまま、話を進め出した。
「それでは今度こそ飛ばすからの、もう言い残した事があっても知らん事にする」
「ふっ、ようやく俺の扱いが分かってきたようだな」
「上から目線で言う台詞か!?」
「間違っても地中とかに埋めるなよ?」
「せんわっ、何の為の魔法陣じゃと思っておる!」
「間違っても空中に飛ばすなよ?」
「……」
おいこら創造神、なんとかいえ。
「ま、まあちょっとした不幸があっても気にするな。お主には不死もヘイトもあるのじゃし」
「おま、ひょっとして魔法陣に何か仕掛け」
「ではいざ送還!」
「あっ、待てこの――」
思わず伸ばした腕は、少女の体をすり抜ける。
既に陣が発動しているのだ。
ちっくしょう!
「てんめえ覚えてろよぉ! あんまり気に障ることやりやがったらヘイトを使って嫌がらせしてやるからなあ! 具体的には全身が痒くなって夜に眠れなくなる呪いを掛けてやらあ!!」
「ほっほ! 生憎能力の扱いは妾のが数十段は上手じゃよ。お主のなまっちょろい呪いなんぞ、寝てても跳ね返せるわい!」
「なら肉体強化に全ポイントつっこんで突撃かましてやる! 百億もあれば地球の一つや二つは消し飛ばせるんだったなあ!?」
「あ、それは困る。謝るからマジ勘弁」
劣勢になった途端に平謝りしてくる神魔王。お前はメンタルが強いのか弱いのかどっちだ。
――ああ、なんか意識が真っ白になってきた。いよいよ送還の瞬間らしい。
「キラノ・セツナ」
「――」
神威を込めた言葉は、もはや言霊に近い。否応なしに耳を傾けられる。
「お主の悲願の成就、願っておるよ」
意識が消える瞬間に見たアルティの表情が、あまりにも慈愛と輝きに満ち過ぎていたから。
――まるで女神に見えたなどと、絶対に墓まで持っていく秘密だった。
――そして意識が覚醒する。
視界がリズミカルに揺れ、どうやら何かに揺られているのだと理解する。
身体を動かして状態を確認したところ、とりあえず異常はないと判断。
視界一杯に青空が広がっているのは、仰向けに倒れているからだ。
上体を起こして、辺りを見回してみる。
……なるほど。
うん、たしかに。確かに地中には埋まっていないし、空中に放り出されてもいないよ?
だがな……
「前方水平線、後方水平線、左方水平線、右方もすいへいせ、んんん……っ」
おっといかんいかん、怒りで俺のダンディな声帯が震えてしまった。
まあなんだ、つまり俺は今現在、大海の広さをこの上なく勉強できている蛙の心境なのであって。
すなわち――
「あんの駄神があああああああああああああああああああああああああ!!」
海上を漂う、文句のつけようもない、立派な遭難者なのでした。
ほんの数分前まで、機関銃の掃射もかくやの勢いで拳を交換していたはずの少女は、何事もなかったかの如く俺を正座させ、熱弁を振るっている。
「――であるからして、そもそもそれがそんな形状であるのは、お主ら人間に配慮しての事なのじゃぞ? 神々は「何かあったら念話して」で済むが、人間はそうはいくまい。そこで神と人とが通信する際に、人が使い慣れた物と同じ造りの物を神具として造り出そうとして、生まれたのがこの『ゴッドフォン』。略して『ゴマホ』じゃ」
俺は思った事をそのまま言った。
「略になってねえ上に、名前がゴツくて使いたくねえ」
「それくらい目え瞑らんか! まったくお主と言うヤツは、一々手間を掛けさせてくれるのっ」
「そう言われてもなあ……」
本心は誤魔化せんよ。
「お主がどう思おうと勝手じゃが、それは紛れもなく貴重なマジックアイテム。他に持ち合わせはないからの、絶対に失くすでないぞ」
「ふうん……こんなんでも一応貴重なアイテムなのか」
「うむ、高いからの!」
「金額的な意味かよ」
誇らしく言う様な台詞か。
どうやら人と神様の絆はお金で買えるらしい。
「さて……いい加減、異世界に飛ばして良いかの? っていうか、さすがにお主の相手に疲れてきたんじゃが……」
「正直にどうもありがとうよ。ちょうど俺もそろそろ、お前で遊ぶのに飽きてきたところだ」
「お主は正直にどうも最悪じゃなあ!?」
改めて魔法陣の中央に立つ。
アルティが静かに魔法陣に力を込めていく。
その最中。
「お主にはこれから様々な試練が襲い掛かるであろう。しかし案ずる事はない。お主にはそれを乗り越えるだけの力と、後ろには常に――――」
「そんなんどうでもいいからはよ」
「お主ぃぃぃぃ! 数少ない、神としての見せ場ああああああ!!?」
「いやいらんから」
神としての見せ場? まったくもって必要ない。
神威を体験した俺に、こいつを神かどうか疑う余地などありはしないのだから。
間違っても口には出さないし、心を読まれないよう、平常心を心掛ける。
どうやら気付かれなかったらしく、アルティは不満げな表情のまま、話を進め出した。
「それでは今度こそ飛ばすからの、もう言い残した事があっても知らん事にする」
「ふっ、ようやく俺の扱いが分かってきたようだな」
「上から目線で言う台詞か!?」
「間違っても地中とかに埋めるなよ?」
「せんわっ、何の為の魔法陣じゃと思っておる!」
「間違っても空中に飛ばすなよ?」
「……」
おいこら創造神、なんとかいえ。
「ま、まあちょっとした不幸があっても気にするな。お主には不死もヘイトもあるのじゃし」
「おま、ひょっとして魔法陣に何か仕掛け」
「ではいざ送還!」
「あっ、待てこの――」
思わず伸ばした腕は、少女の体をすり抜ける。
既に陣が発動しているのだ。
ちっくしょう!
「てんめえ覚えてろよぉ! あんまり気に障ることやりやがったらヘイトを使って嫌がらせしてやるからなあ! 具体的には全身が痒くなって夜に眠れなくなる呪いを掛けてやらあ!!」
「ほっほ! 生憎能力の扱いは妾のが数十段は上手じゃよ。お主のなまっちょろい呪いなんぞ、寝てても跳ね返せるわい!」
「なら肉体強化に全ポイントつっこんで突撃かましてやる! 百億もあれば地球の一つや二つは消し飛ばせるんだったなあ!?」
「あ、それは困る。謝るからマジ勘弁」
劣勢になった途端に平謝りしてくる神魔王。お前はメンタルが強いのか弱いのかどっちだ。
――ああ、なんか意識が真っ白になってきた。いよいよ送還の瞬間らしい。
「キラノ・セツナ」
「――」
神威を込めた言葉は、もはや言霊に近い。否応なしに耳を傾けられる。
「お主の悲願の成就、願っておるよ」
意識が消える瞬間に見たアルティの表情が、あまりにも慈愛と輝きに満ち過ぎていたから。
――まるで女神に見えたなどと、絶対に墓まで持っていく秘密だった。
――そして意識が覚醒する。
視界がリズミカルに揺れ、どうやら何かに揺られているのだと理解する。
身体を動かして状態を確認したところ、とりあえず異常はないと判断。
視界一杯に青空が広がっているのは、仰向けに倒れているからだ。
上体を起こして、辺りを見回してみる。
……なるほど。
うん、たしかに。確かに地中には埋まっていないし、空中に放り出されてもいないよ?
だがな……
「前方水平線、後方水平線、左方水平線、右方もすいへいせ、んんん……っ」
おっといかんいかん、怒りで俺のダンディな声帯が震えてしまった。
まあなんだ、つまり俺は今現在、大海の広さをこの上なく勉強できている蛙の心境なのであって。
すなわち――
「あんの駄神があああああああああああああああああああああああああ!!」
海上を漂う、文句のつけようもない、立派な遭難者なのでした。
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