死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

人と神様繋がりは現実で出来ている

 俺が承諾してすぐに、アルティは喜々として何やら陣を描き始めた。
 おそらくあれが、俺を異世界へと飛ばす為の魔法陣なのだろう。


「なんつーかこう、指先パチンでヒュッ! て感じかと思ってたんだが、意外とアナログなのな」
「それもできなくはないが、自分自身ならともかく、他人を飛ばすのは初めてじゃからな。間違っても失敗しないよう、念入れじゃ」
「ぼっちは大変だな」
「ぼ、ぼっちちゃう!」


 しかしなんというか、見た目十歳程度の少女が地面に落書きしている図にしか見えんなこれ。
 …………ゴシゴシ。


「消すなああああああ!」


 怒られた。激怒された。


「これは百パーお主の為にやっとる事じゃからなっ、この陣に何かあればその分苦労するのはお主自身じゃぞ!」
「……ちっ」


 仕方ない、大人しく待つか。


「はぁるぅよぉ~とぉおぉきぃはぁるぅよぉ~!」
「やっかましいいいいいいい!! もうすぐ終わるから静かに待っとれ!」


 頭をはたかれてしまった。
 軽トラに刎ね飛ばされた時と同じくらいの衝撃を感じたが、残念ながら死ねなかった。くっそう不死め。神の攻撃をも跳ね返すとは……!
 それから数分後。陣が完成したと、アルティが顔を上げた。


「おっせえ」
「開口一番最低じゃなお主! ねぎらいの言葉一つくらい掛けたらどうじゃっ」
「まあ、そうだな…………わざわざ俺の為に尽力御苦労だったなあ!」
「え、偉っそうなのじゃ!?」


 軽くバトった後で説明を受ける。


「これから飛ばすのは、以前に妾が創世した異世界『ファンタジア』じゃ」
「……お前さ……センス……」
「べ、別にいいじゃろっ、妾の感覚にピッタリきたんじゃ!」
「まあいいんだけどさあ……」


 俺は極力その名前を口に出さないよう、心に誓った。
 アルティが咳払いをして、話しを戻してくる。


「その世界ではお主の知っておる科学の力は存在しない。代わりにあるのは魔や聖の力。すなわち魔法じゃ」
「聖の力もひっくるめて魔法でいいのか?」
「力の解釈や向ける方向が逆なだけで、本質が同じ物じゃからな。お主にわかり易く例えるなら、電力と一言で言っても、映像を映したり電気ショックを治療に活用したりスタンガンの様な武器を造ったり、利用する形は様々じゃろ」
「毒と薬だな」


 言い方一つで、全く逆の物に姿を変える。


「とりあえずお主の基本方針としては、不死やヘイトの扱いに慣れつつも、まずは魔法について調べるのが良いと思うぞ」
「俺が魔法を勉強してなんの意味があんのさ?」


 既にヘイトという、強力無比な能力があるというのに。


「そのヘイトの使い方が、魔法の使い方と良く似ておるからじゃよ。魔法は呪文を唱えつつ具体的なイメージを膨らませ、魔力を練って撃つものじゃが、イメージ主体という点はヘイトと全く変わらん」
「イメージが貧弱だとうまく力が使えないと」
「まあお主は人生経験が豊富じゃから、ある程度はなんとかなるかもしれんがな。それでもその世界での基本的な能力というものを学んでおいて損はないじゃろ」
「確かに、当てもなくブラブラするよりは建設的だわ」
「うむ! 理解を得た様で何よりじゃ。……それではこれよりファンタジアへと飛ばすが、何か聞き残した事はないかの?」


 俺は少し考え、そういえばそれなりに重要な事を聞き忘れていた事を思い出した。


「金はどうする? 無一文のままいけってか?」
「むぅ……すまぬが異能を渡した者には、それ以外の支援をしてはならないという神々の決まりがあるのじゃよ。際限なく力を貸せば、極論として『人工神』を生み出す事も可能になってしまうからの。お主は二つも異能を有しておるゆえ、既に限界ギリギリ一杯。これ以上の助力は、妾とて無事では済まぬのじゃ」


 そうなれば先の約束も果たせなくなると、申し訳なさそうに頭を下げる。
 俺としてはそこまで深刻な問題だと思っているわけではないので、そんなに頭を下げられると逆に反応に困る。
 最悪どっかの店でも襲撃すれば、金もヘイトポイントもお得で良い感じだし。
 我ながら最低な思考だなー。


「代わりと言ってはなんじゃが、降り立ってすぐに金を入手しやすい所に転送するようにしておいたからの! なあに、これくらいならグレーゾーンで言い逃れが聞くわい!」


 ぐっへっへと黒い笑いをしている創造神さま。


「……」
「ん? どうかしたか?」
「神様も人間とあんまり思考回路に差がないなあと感心していたところだ」


 例えば法の抜け穴を使って贈賄を画策する神様とか。
 今のでヘイトポイント溜まったんじゃねえの?


「それから、これを渡しておくぞ。ファンタジアに飛んだ後でも、妾と会話が可能となるマジックアイテムじゃ」
「マジか! どんなん?」


 マジックアイテムと聞いて、少し心がわくわくする。
 会話可能か……魔力の籠もった貴重な宝石とか? それとも念じただけで相手の声が聞こえる様なアクセサリか?


「ほれ、これじゃ」


 握らされた物を、開いてよくよく見つめてみる。
 どっからどーみてもそれは……
 スマホだった。


「ん? そんなに震えて、喜んでおるのか? それとも神々のルールを気にしておるのか? なあにこれくらい気にする事はないぞ。それを渡すのは、きちんと相手の事を監督しておるという証、つまり義務じゃからな。支援の内には含まれんよ。遠慮なく感涙に震えて受け取るがよ――――」
「俺の轟速球を受けてみやがれええええええええええ!!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」


 不意打ちの俺の一投を、アルティはかろうじて受けとめてみせた。
 ……ちぃ!


「んなにすんじゃあ!? 今時速三百キロ超えとったぞ!?」
「うっせえ! マジックアイテムだとか思わしげな事をほざいておいて、んだよその現実感溢れる科学道具はあ! この駄神めがあっ」
「だ、駄神じゃとおおおおおお!? ひ、人の気遣いを悉く踏みにじりおってえええええ……!」


 怒髪天という言葉通り、神が逆返る。
 しかしそれはこっちだって同じだ!


「おう怒ったかよ。いいぜ、異世界行く前に決着つけてやらあああああ!」
「上っっっ等じゃこの大たわけがあ!! いい加減、立場というものを教えてくれるあああああああああ!!」


















 その後何時間殴り合っていたのか、正確なところは俺も解らない。
 ただ、体感では一ヶ月以上だったとだけ伝えておく。



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