死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

死ん……でないだと!?

 そいつは現れるなり、いきなり最大限の絶望を叩きつけてくれた。


「いや……悪いがお主、生きとるよ?」
「…………はあ!?」
「いやだから、生きとるって」
「ふざけんなてめえ!! 俺の純情をどうしてくれやがる! こんな……こんな気持ちは初めてだったのに!」
「誤解される表現はやめんかこのたわけが! 大体、生きてると言われて喜ぶならともかく、なぜそうまで怒るのか理解に苦しむわ!」


 なぜ? なぜだと? そんなもん決まってんだろうが!


「だって俺死ねねえんだもん!」


 俺は心の底からの叫びを叩きつけた。






 綺羅乃刹那。
 それが俺の名前だ。
 読みづらい名前だろ? 読み方はそのまんま『きらの・せつな』でいいんだが、初めて俺の名前を読もうとした連中はほぼ確実に詰まりやがる。学校や病院で名前を読み上げられる時には毎回と言って過言でないくらいにぐっ、と数秒詰まるのだ。
 面倒なんでもうカタカナでいいや。
 キラノ・セツナ。
 いいな? キラノ・セツナだ!


「そんな何度も叫ばんでも十分伝わっとるよ。……お主、苦労しとるんじゃな」
「心読むなよ!」


 そんでしみじみと同情するんじゃねえ! こっちまで悲しくなってくるだろうが!
 人の心を読んで涙ぐんでいる失礼なヤツ。
 俺の目線より遥かに低い位置にあるそいつの顔を睨みつけた。


「ぐす……ああ、すまんな。年を取ると涙脆くなっていかん」
「どう見てもお前、俺より年下にしか見えないんだが」


 そう、目の前のそいつ――――十歳前後にしかみえない少女が、老人口調で話し掛けてくるのだ。
 漫画だのラノベだので見た事はあるシチュエーションだが、実体験するとかなりシュールだぞこれ。
 まあいいか。


「おいロリババア」
「ド直球に失礼じゃなお主!? 初対面でももう少し相手に敬意を払おうとは思わんのか!?」
「思わん。それよりこっちの質問に答えろ」
「う、うむ……あれ? この状況って普通妾がリードできる場面のはずじゃ……?」


 なにやら悩み始めたが、俺は気にせず続ける。


「まずお前は誰だ?」
「ぬ? ふ、ふふふふ……ようやくその質問がきよったか!」


 ようやくもなにもまだ一つ目だろが。
 むしろこんくらい、聞かれなくても答えて欲しかったぞ。
 ロリっ子は、ばっ! と纏っていたマントを翻し、胸を張って答えた。


「遠き者は音に聞け! 近き者は目にも見よ! 我こそは『神魔王』の称号を受け継ぎし創造神! アルティリア・リュカリオンである!!」


 ばばばん! と。
 本来なら後ろに雷の演出でもつけたかったであろう勢いだ。
 見た目じゃ分からないほどにうっすい胸を精一杯張って、頑張ったのは認めよう。
 でもなあ……


「流石に観客一人にその台詞は悲しくない?」
「や、やかましいわ! せっかく気分良く名乗りを上げているのに水を差すな!」


 素直な感想なのに……
 外見相応の童顔をがあ! と真っ赤に染めて怒っている姿は、むしろ和みの対象だ。
 俺は生温かい視線でアルティリアと名乗った少女を見つめた。


「うう……なんだか不快な視線を感じるのじゃ……」
「気のせい気のせい」
「向けている本人が抜け抜けと……!」
「そんな事よりアルティさんよ」
「いきなり省略されたのじゃ!?」
「だって呼びにくいんだもん。嫌なら他にはアーティ。ルティ。アル。ア。があるけどどれがいい?」
「途中から考えるのも面倒になった事だけはよく伝わってくるぞぉ!」
「リュカリオンなんてゴツい名前に手を付ける気にはなれなかったんでな」
「ゴツく……ないわ! 由緒正しき名前になんて事言うんじゃ!」
「今一瞬詰まらなかったか?」
「気のせい」


 気のせいならしょうがないな。



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