死神共同生活

祈 未乃流

第4話 やるせない気持ち

シャングリオン王国。
国は三分され、そのそれぞれが都市として機能している。
国内の左翼側に位置し、隣国のグリタリス法国と最も交流のある、左翼交易都市アイリスフォード。グリタリス法国と交流の深かったこの都市には、貿易によって手に入ったあらゆる食料類、宝石類、武具などが揃っているのだとか。今は戦中でそれどころじゃないらしいが。
次に、国内の右翼側に位置する、独立魔術都市ロザリリウス。この都市には魔術学校というものがあり、小中高大一貫全寮制の超大規模教育施設なんだと。シャングリオン王国内の都市でありながら、他都市との交流は殆どないため、独立魔術都市なんて名前がつけられたらしい。
そして、今俺達がいるのが、3つの都市の中で最大領域をほこる、中央都市カリバスである。
ここには、アイリスフォードで売られていた輸入品が流されてきたり、行商人宿に泊まり込みながら小売店を開いたりなど、商売に富んだ都市だ。
また、王城があるということもあり、騎士の養成所や冒険者ギルドなんかもある。

「ほんと、すげぇ人の数だな……」

「その通りですね。戦時中ということを忘れてしまうほどでございます」

そうだ。この国は隣国であるグリタリス法国と戦時中なのだ。だというのに、この活気溢れる空気は何だ?皆戦争なんて気にしてなさそうな顔だ。

ふと前を見やると、先頭とだいぶ離れていることに気づき、少し駆け足で先を急いだ。

そして数分歩いて。
俺達は今巨大な城の前にいる。
おそらく、これがシャングリオン城なのだろう。
見た目は城というより、砦だな。
標高の高い外壁が幾つも重なり合って、中央にある一際大きな砦の核を囲んでいる。
城砦、だな。
こんな頑丈そうな城、どうやって落とすんだ?
いや、今は謁見が先だ。

俺とグリムは列の最後尾のまま、先頭についていく。
すると正門にいる門番が、それまで怠そうに番をしていたのに、急に見事な敬礼をした。

「おかえりなさいませっ!アキレス様!」

「ああ、今帰ったぞ。姉様に会いたいのだが、良いか?」

「はっ、もちろんです!」

そう言って門番は即座に正門を開け、凱旋の笛のようなものを鳴らした。
王が帰ってきたぞ、みたいなしらせか。
アキレスたちはするすると城内に入っていく。
俺たちも入るかと思ったら……。

「おい貴様、何をしている?」

「え?」

門番に止められました。

「だから、何をしていると聞いているのだ」

「いや、門をくぐろうとしたんですけど」

「誰が許可した?」

「え?」

アキレスたちは通したのに俺はダメなのかよ?
見た目だって怪しいような格好は………。
あ、この服か。

「そのような装備は見たことがないな。貴様、もしやグリタリス法国の手先か!」

「いやいや、俺はアキレスの付き添いで……」

「お前たち、この男を捕らえろ!」

その瞬間、門の裏から5、6人の騎士が出てきて、俺を掴んだ。え、俺捕まるの?
せっかく転移までしてここに来たのに?
あ、別に捕まっても転移すれば関係ないか。いや、脱走者として指名手配でもされたら余計面倒なことになる。だからといっておとなしく捕まるわけには……

「お前たち、何をしている!!」

聞き覚えのある声。

というか、アキレスだ。

「ア、アキレス様!怪しい男を捕らえました。グリタリス法国からの手先の可能性が高いのでひとまず地下牢に……」

「馬鹿者!その方は我々の切り札になりうる方だぞ!今すぐその手を放せ!」

凄い怒号で騎士たちを威圧したアキレス。
なんだか、王っぽくなってきたな。いや元々王だけどさ。
アキレスがそう言うと、騎士たちは俺から手を離し、正面に向き直り謝罪した。

「そのような方とはつゆ知らず、無礼な行為をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

「いや、別に大丈夫ですから」

俺は両手を振って平気なアピールをした。
すると騎士たちは、安心したように顔を緩ませた。

「本当に済まないユウ。私たちの臣下が無礼を……」

「別にいいって。そんなことより、謁見するんじゃなかったのか?」

そうだ。今は謁見が最優先なのだ。
グリタリス法国との関係はどうなったのか、戦況は優勢なのか劣勢なのか、これからどうするか。
聞かなければいけないことは山ほどある。
一先ず城内に入れてもらおう。
グリムは皆からは消えているらしく、騎士たちには見えていないらしい。
俺とグリムが先に進んでいると、

「お前たち、後に紹介するが彼はヤジマ ユウ。異世界から助太刀をしてもらいに来たのだ。言っておくが、私などでは手も足も出ないほど強いぞ?丁重にもてなすように」

「まさか。アキレス様より強いものなど……」

「……」

「本当なのですか?」

「手合わせしてみるか?」

アキレスがそう言うと、門番は首をふるふると横に勢い良く振った。それはもう、首が吹っ飛ぶのではないかというほどに。

アキレスは前に向き直り、そのまま城内に入っていった。アリシアやスワッドたちもそれに続く。
さ、俺たちも行きますかね。

「行くぞ、グリム」

「はい」

「うわあっ!急に現れたぞ?!」

「グリム、慣れてない人は驚くからこっそりな」

急に姿を現すとびっくりされるからな。





アキレス一行についていって着いた場所は、俺たちの神殿と瓜二つの玉座の間だった。
壁に掛かる絵画や、部屋の角に置かれている鎧の像まで、全てが一致した。

てことは、アキレスたちはこの神殿ごと転移しちまったってことか。だがそうなると、ここに神殿があるのはおかしい。う〜ん、謎は深まるばかりだな。
とりあえず、俺は玉座に座している存在に目を向けた。

女だ。アキレスにそっくりの。違う部分を挙げるとすると、髪が短いところぐらいか。
アキレスは長い金髪を一つにまとめているが、玉座の女は肩にかからないぐらいの長さの金髪だった。
その女に対して、アキレス一行は一斉に片膝をつき、跪く態勢をとった。
俺は急な皆の行動について行けず、ただ突っ立っている。

「おい貴様、頭を下げないか」

はい、即効で注意されました。慌ててアキレスたちの真似をする。
俺を注意した玉座の女は、アキレスに視線を向けることなく問う。

「アキレス、貴様の連れは礼儀も知らんのか。よくもそんないけしゃあしゃあとこの国に帰ってこられたものだ」

「申し訳ありません、王」

「貴様には期待していたというのに。結局無駄骨ではないか」

淡々と言葉が述べられていく。まるで感情がこもっていないかのような声音だ。
女は、まだ止まらない。

「パラディンス家の長女として生まれ、恵まれた剣技や頭脳をあれだけ囃し立てられていたというのに…。まったく、何をしに行ったというのだ」

「実は……」

「よい。言い訳など聞きとうない。お前たちが逃げ出してから我々がこの国を、なんとか今の状態に維持している。その事情すら知らぬお前たちが、よくのこのことこの国に足を踏み入れられたな」

静かなる叱咤の嵐。それは明らかに一点視野の言葉で、ここにいる誰もが、その言い分に納得しないだろう。

この女が王でなければ。

「王よ、どうか我々の転移の経緯いきさつを聞いてはいただけないでしょうか。何分我々も事情があった故、過去に戻るはずが転移をしてしまい……」

アキレスが失敗の経緯を説明し始めると、


「アキレス、私に長い言い訳を聞かせる気なのか?」

また、話の腰を折った。

「私は言い訳は聞きたくないと言ったであろう。私が聞きたいのは、この羞恥の落とし前をどうつけるつもりなのかなのだよ」

「そ、それは……」

言葉に詰まるアキレス。答えは見つかっているのに、それを口に出せないというような。
そして、また女はアキレスを問い詰める。

「まさか、もう一度シャングリオンの民として戦うなどと減らず口をたたくつもりなら、そのふざけた口から切り裂くことになるが、構わんか?」

そのとき、アキレスの部下のスワッドがびくついた。拳を強く握っているせいか、腕が震えている。
誰が見ても分かる。憤慨しているのだ。
己の王がここまで貶され、コケにされたのだ。
自分たちの事情を知ろうともせず、ただ自分の言いたいことを言うだけの自我一方通行人間だ。

「お、お言葉ですが、王よ」

「ん?」

一人の女性が立ち上がった。
そして、声を上げた。

アリシアさんだ。

「誰だ、貴様」

「シャングリオン騎士団アキレスの陣が一人、『絶壁』のアリシアと申します」

胸に手を当て、貴族式の礼をする。その所作は、一つ一つの動きが流動的で、完璧だった。

王は、それをつまらなそうに見ていた。礼が終わると、アリシアさんの顔を睨みつけた。

「それで、何のつもりだ?」

「先程アキレス様に述べられたお言葉、全て撤回していただきたく存じます」

「何?」

「復唱がご必要ですか?」

「貴様、王の御前で」

「私の王は、アリシア様ですので」

ほお、なんとも強気な煽りだ。アリシアさん、大丈夫か、あんなこと言っちゃって。
王を見ると。


王は、笑っていた。

満面の笑みで。

「そうか、そうかそうか!」

王は不気味にそう言った。何かを全力で楽しむかのように。
俺は嫌な予感がし、グリムを呼んだ。

「ふはははははははは!」

「グリム」

「はっ」

「アキレスたちにバリアみたいなの張っといてくれ」

「承知しました」

俺はとりあえず様子を見ておく。
王は顔に手を当て、宙を向いて笑っている。何がそんなにおかしいのだろうか。
やがて、笑いは止んで。

「そうか、貴様は叛逆を宣言したということで良いのだな?」

王はそう言って、左腰に備えてある剣を抜き、アリシアさんに斬りかかった。
俺は足にエネルギーを集中させ、50mほどの距離を0.2秒ほどのスピードで移動し、女とアリシアの間に割って入った。
左手の指で剣をつまみ、右手でアリシアを後ろに押す。
女は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに余裕綽々な表情を取り戻し、間合いを取った。

「アリシアさん、大丈夫か」

「は、はい。ありがとうございます」

「お前ら、そこから動くなよ」

俺はアリシアを見ながらそう言った。

「気をつけろ、ユウ。王は強い」

「それは、俺よりもか?」

「何を言うか」

そう言ってアリシアは笑った。答えは一つだ。


俺の方が強い。


俺は全身に満遍なくエネルギーを循環させ、体内のエネルギーの三割程度を使用した。

「貴様、速いな。何者だ」

「これで速いようじゃ、話にならないぜ?」

俺はニヒルに笑ってみせ、王はそれを眉を顰めて伺う。

「私も舐められたものだな。良いだろう、少し本気を出そうではないか」

そう言って、剣先を地面に突き刺し、そのまま雄叫びを上げ始めた。

「はぁあああああああ!!」

流れは見えないが、この感じ。アキレスを初めて認識したときと同じ感覚。これは……


「魔力か……」

「ほお、感知できるのか」

感情エネルギーのように、流れを見るまでには至らないが、そこに力が存在することだけは分かる。
俺は適当に質問をしてみた。

「アキレス、あいつはお前よりも強いのか?」

アキレスは一瞬戸惑ったが、質問に答えてくれた。

「単純な剣術では少し私に歩があるが……」

「が?」

アキレスは、悔しそうに言葉を溢した。

「魔力を交えての戦闘では、圧倒的に私が不利だ」

「なるほどな」

つまり、あいつは剣術よりも魔法の方に自身があるわけだ。剣に触れて感じたが、明らかにアキレスの剣よりも覇気がなかった。

でも悪いな。

「お前が何で来ようが、関係ないんだけどな」

「あとで泣いても止めてやらんぞ?」

「はっ、そうかよ」

俺は体内から溢れ出るエネルギーを全て収めて、目を瞑った。
なら、"アレ"を試してみるか。
俺がグリムから習ったスキルの中で唯一特殊なもの。これを使用できる人間はごく僅かで、使えない人間が無理に発動させようとすると、体が蝕まれ、感情を失った骸になる。
俺は深呼吸をし、目を見開いた。
集中だ。集中しろ。狙いはあいつ。
自分に何度も言い聞かせ、俺は意を決した。

「喰い尽くせ……"黒水"」

その技は、端から見れば無でしかない。ただ俺が何か技名のような言葉を叫び、右手を女に向けてかざした。ただそれだけのことに見える。

だが、発動者本人と受動者には違う景色が見えるのだ。俺が右手をかざした瞬間、右手から黒い液体がどろどろと流れ出、その液体はゆっくりと、それでいて着実に受動者に向けて進んでいく。

「何だ、そのおぞましい何かは」

王がそう問うが、俺は答えない。そうだ、これが正解だ。
黒い液体は王の足元にまで接近し、体に上り始めた。それを棒立ちしながら眺めていられるほど王も鈍感ではない。すぐさま両手にこしらえた剣で叩き斬る。だが、"斬れない"。それは当たり前のこと。
剣というものは、そもそも固体を斬る前提に作られた武器であり、水や空気を斬ることはできない。今さっき、街を歩いているときに、アキレスが水を斬ったことがあるという逸話を堂々と語るお年寄りがいて、もしかしたらと思った。アキレスに対してあそこまで執拗に責める態度、アキレスに似た顔立ち、そしてアキレスの次の王という事実。
この3つが重なる座標にあるのは。
俺の予想ではあるが、きっとあの女は、アキレスと何らかの繋がり、血縁や王族の縁などがあり、アキレスをライバル視している。しかし、アキレスの剣術になす術もなく敗れた女は、魔術に頼った。
なら、あいつに水を切ることはできない。俺はそう予想した。
少々無理強いな理論ではあるが、まあそこはいいとして。とりあえず、作戦は成功した。
あの女は、水を斬れない。色は黒いし、どろどろとしていて水とは名状し難いが、俺の頭脳勝ちってところだな。

「くっ、離れろ!何なんだこの黒い液体は!!!」

黒い液体は女の全身に満遍なく覆い被さり、今にも飲み込みそうな勢いだ。俺が発動させたこの技、これは闇スキルだ。グリム曰く、俺と"最悪"グランしか使えないと言われているスキル。俺が発動させた"黒水"は、俺が指定した存在にのみ狙いを定め、接触し体内にある力、感情エネルギーや魔力、筋力など何から何まで全てを吸い尽くす水。そして、それは発動者と受動者にしか視認できない。これはネタバレされないためになんとかグリムと修行してなんとか工夫した成果だ。

「な、何が起こっているんだ……」

驚嘆の表情で傍観しているアキレスが口から言葉を漏らした。それにグリムがさらっと説明をする。

「恐らく、悠様は"黒水"を発動なさったらしい」

「く、"黒水"?」

「対象者の力を隅々まで吸い尽くし、無様な髑髏しゃれこうべにしてしまう恐ろしいスキルだ」

「そんな技を隠し持っていたなんて……」

スワッドが畏怖の感情をそのまま口にした。

「何を言う、あれは悠様のお力のたった一部に過ぎん。その程度で満足してしまうお前らとは生きる世界が違う」

グリムが少し怒ったような声音でアキレスとスワッドに言った。
俺はそんな会話を背中で聞きながら、黒水に飲み込まれる王を見ていた。

「もう……やめて……」

「なあ、さっきの威勢はどこ行ったんだよ」

「お願いだ……止めてくれ…」

「何故?」

「貴様を……計っていた……」

「というと?」

俺は黒水を止めた。黒水は俺の足元に近寄り、そのまま俺の右手に入っていく。解放された王は、そのまま床にばたんと倒れ込み、黒水を吐き出した。

「ゴボォッ、オェェッ」

「ユウ!油断するな!」

「分かってる。心配するな」

俺は後ろを振り向かずに手だけでアキレスに応え、王に続きを促した。

「貴様の実力を……見たかったのだ……。私には分かった。なにせ玉座に入ってきた途端、不気味な"覇気"を漂わせていたのだからな…」

王はそう言ってゆっくり、よれよれと立ち上がり、剣をしまった。戦う意思は、もうないみたいだな。
それにしても、気になる単語があったぞ。

「覇気?何だそれ」

「覇気というのは、その者のオーラのような物だ。凡人であろうと、覇気は存在する。ただ矮小すぎる故、感じられんだけだ」

なるほど。元の世界で言う、感情エネルギーと同じ扱いができるな。

「底知れぬ化け物を見るのは、これで二度目になるな」

「二度目か」

最初が誰なのか気にはなったが、そこまで興味もないので聞かなかった。王はアキレスの前まで歩み寄り、膝をついた。側で警戒していたアリシアやスワッドたちは拍子ぬけた顔をした。

「済まないな、アキレス。貴様に無礼な口や態度をとって」

「やはり何かかんがえていたのだな、姉さん」

「「「姉さん?!」」」

そう咄嗟に聞き返してしまったのは、俺含むアリシア騎士団全員だった。お前らも知らなかったのかよ。どうりで顔立ちが似てると思ったよ。
アキレスは固まっている俺たちに向き直り、紹介してくれた。

「紹介しよう、姉のミレアだ」

「ミレア•パラディンスだ。どうぞよろしく」

俺たちは依然として、固まっているままだった。





賑わい返っている街の中。商人は大きな荷車を馬で引っ張りながら宝石やら骨董品やらを売り歩き、屋台主のおやじは活気ある声でおすすめの品を宣伝している。街を行き交う人々は皆表情豊かで、やはりとてもだが戦時中とは思えない。
何故俺が街にいるかと言うと、それはそれは話せば長くなるのだが……


数十分前。

王がアキレスの姉だと知らされた俺は心底驚いたが、同時にその方が都合がいいと思った。

「それで、これからどうするんだ?」

俺はここにいる者全員に呼びかけるように言う。全員一度俺を見て、下を向く。考えている様子だ。

「そうですね…、まずはミレアさんから状況説明をしていただいてから……」

アリシアさんが脳と口を同時に動かすように話しているなか、ミレアは凄く顔を顰めていた。

「てことだから、まずは状況説明を頼む」

俺はミレアに向き直り、状況説明をしてもらおうと話を聞く体勢をとった。
ミレアは、眉をひそめ、目を意図のように細め、鬼の形相で口を開いた。

「貴様に話す義理はない」


「は?」

「言葉通りの意味だ。貴様は、グリタリス法国の手先に決まっている。何故我を殺さなかったかは疑問だが…。その覇気、グリタリス法国の"五本指"のリーダーに酷似している。アキレスの目は誤魔化せても、私の目は誤魔化せんぞ」

おい、何言ってるんだ!俺はお前らの敵じゃないし、寧ろお前らを助けるためにわざわざ転移してきてんだっつーの!それを敵扱いされてはい終わりは納得いかねぇぞ。

「ちょっと待て!」

「待たん。貴様は敵だ。大体、思い返さば不可解な行動が数多い。礼儀も知らぬしこの国では見ない服装だ。その装束、グリタリス法国のものか?」

「違うって言ってるだろ!もし俺が敵なら、何でさっきアリシアさんを助けたんだ?敵だったら有力な人材は始末しておいたほうが楽だろ?」

簡単な話だ。あいつよりも俺の方が話に筋が通っている。幾ら何でもガバガバ理論だ。
だけど。

「それが貴様の作戦であろう?こやつらを信用させて隙をついて殺す。暗殺者の常套手段ではないか!」

「その理屈が通るなら、俺は向こうの世界でとっくにこいつらを殺してるんだよ!ていうか、俺がグリタリス法国の人間なら、何であっちの世界にいるんだ?」

「それが表に出ぬよう貴様が工夫したのだろ!今は理屈や動機などどうでもよい!貴様が敵であるという事実があればそれでよいのだ!!」

こ、この野郎。さっきからぺらぺらと嘘八百言いやがって。舐めたことぬかしてんじゃねぇぞ。そろそろこっちも我慢の限界だぞ。

「てめぇいい加減に……」

「アキレス、奴から離れろ!危険だ!!」

「姉さん!あの人は……」

「言わなくてよい!惨い辱めを受けたのだろう。安心しろ、私が傍にいるからな」

そう言ってアキレスを抱き締め、無理やり自分の方に連れ込んだ。こいつ、卑怯にもほどがある。

「お前たちはどうだ!こいつを信用できるのか?得体の知れない別世界の人間を?」
 
「「「………………………」」」

まじ、かよ。

「ユウ、私は……!」

アキレスが何かを言いかけたとき、ミレアが額に手を当てた。アキレスは、生気を失ったかのようにぼうっとした顔になり、ただ正面を見ているだけ。だが、俺には見えた。微小ながらの魔力の流れが。今、ミレアはアキレスに魔術を使った。間違いない。

「アキレス、お前はあの男に酷い辱めを受けた、違うか?」

「はい。そうです」

ミレアの問いに機械的に答えるアキレス。誰がどう見てもわかる、あれはアキレスじゃない。だというのに、騎士の奴らは、俺に敵意を向け始めた。

「てめぇ、今魔術を!」

「はて、何のことだろう?」

「い、いい加減に……」

「また傷つけるのか?アキレスを甚振ったかのように!!」

ミレアは元気に厭味ったらしく言った。周りを見れば、アリシアとスワッド、ナトマリア以外の騎士は皆アキレスのようにぼうっとしている。くそ、みんな魔術にやられたか。
これは、無理そうだな。

「貴様は侵入者だ!!即刻独房行きだ!」

ミレアが告げた瞬間、操られた騎士たちが俺を取り囲んで取り押さえようとした。捕まるわけには行かないが、かといってこいつらを痛めつけたりしたらさらに不利な状況になるのは確実。なら、最適解は……

「アリシアさん!スワッド!」

俺は"信じられる"存在の名前を呼び、こう告げた。

「グリムを傍に置いておく!何かあったらグリムに知らせろ!!」

「分かりました!」「今回だけだぞ!」

「ふっ…頼んだ!」

俺は最後にそう言い残し、城外に転移した。

「くそ、逃げられたか。奴を国内指名手配、危険レベルをレッドに設定して号外に出せ!!」

「「「はっ」」」

「貴様らも協力しろ、アリシアと……」

「……スワッドです」

「アリシア、スワッド。頼んだぞ」

「ち……」「ごめんなさい……」





そして、今に至る。
裏路地に隠れて歩いていたら、騎士たちが「号外だぁ!」と言って俺の似顔絵付き国内指名手配書をばら撒いているのを見かけ、急いでコートを黒から白に着替え、他の装飾品も変えておいた。バッチリ顔バレもしているから、マスクを装着。全体が黒基調のもので、目の部分に穴があり、白でピエロのようなデザインのされたもの。これもなんとも言えないセンスだが、グリムが俺の為を思って用意してくれたものと考えたら、凄くオシャレなものに見えてきた。ウン、オシャレ。

と、そんなことより。
今、俺は迷っている。路頭に迷うとはこのことか。
行く宛もなく、仲間もいない。独りぼっち。もしかして詰みじゃね?
いや待て。ファンタジーゲームで言うならこれはまだチュートリアルが終わったばかりのスタートライン。そうだ、そう考えたら少しは楽になった。
ファンタジーゲームで初期のとき、何もわからない場合は……

「すみません」

「お、何だい?」

屋台主に聞く!!これが常套手段!これしかない。
屋台主は濃い緑のタンクトップのようなものを着たムキムキスキンヘッドのおっちゃんだ。うん、テンプレだわ。
とりあえずは泊まれる宿の場所を……。あ、金持ってない。

「えーっと……」

「何か買うんだろ?どれだ?」

「いや、このあたりで冒険者ギルドってありませんか?」

「ギルド?ああ、あるぜ」

あるのか!人まずは助かった。

「この道をまっすぐ西に進んで右に見える四つ目の曲がり角を曲がればあるぜ」

「あ、ありがとうございます」

よし、これで利益源は見つかった。あとは働くだけたけど……

「で、何買うんだ?」

「え?」

「え?じゃねーよ。店に来たんだったら何か買うだろ?ウチも商売やってっからよ、流石に情報聞いてサヨナラされるっつーのは納得行かないわけよ」

「あの、でも金なくて……」

「金がねぇだぁあ?」

おっちゃんが声を少し荒げて言うと、周りの人の視線が集まるのを感じた。幾ら変装しているとはいえ、視線が集まるのは避けたいってのに。

「今度必ず買いに来るんので、今日だけは…」

「まあ、そう言う事ならいいけどよ。あんた、声聞く限り男だよな?あんまり見ねぇ身なりだが、冒険者か?」

「まあ、そんなところです」

「いいセンスしたマスクじゃねぇか。服も見せてクれ。何だこれ!!こんなの見たことねぇぞ!極上素材だ!」

え、そんなに凄いものなのか。やっぱり、グリムは凄いんだな、ありがとうグリム。
そうだ!これを……

「あ、それなら……」

俺はポーチから10セットほど余っているブーツの一つをおっちゃんに渡した。

「これ、あげます」

「え、いいのかよ?!」

「はい、情報をくれたので」

「いや、こんな高そうな靴貰えねぇって!」

いや、もう素直に貰ってくれ!ただでさえ視線を集めてるんだから。もし王国騎士にでも見られたらピンチになりかねない。

あ、そういえば。色々変装したはいいが、髪の色はそのままだったな。脱色剤みたいなの売ってないかな。

「じゃあ、なんか脱色剤みたいなのありませんか」

「脱色剤?なんだい兄ちゃん脱色してぇのか?」

「まあ、髪を少しね」

「あーそれなら、そこにあるウシバナって言う花の花びらを潰して髪に塗り込むと、綺麗に脱色できるぜ。少し匂いがキツイけどな」

「これですか?」

俺は10束ほどある中から1束手に取り、見てみる。これか。特に特殊な部分は見つからない。ただの白い花だが。

「まあだいたい1束使えば少し茶色くなるくらいだ」

「えっと、じゃあ4束ください」

「何言ってんだ兄ちゃん!全部持ってってくれよ!」

「え?」

「こんないい靴貰っちまってそんなケチ商売じゃ、バチが当たっちまうってもんよ!」

おっちゃんは胸に手をドンと当て、意気揚々と言った。商売魂ってやつか。

「それじゃあ、お言葉に甘えて…」

「おう!毎度あり!」

俺は買った(貰ったの方が正しい)大量のウシバナをポーチにしまい、言われた通りの道を進む。えーっと、たしか四つ目の角を右に………あった!デカイ建物だとは思っていたが、少し予想外だった。

「おぉ、なんかいかにもギルドって感じだな」

そう呟いてしまうぐらい、ゲームとリンクした世界に生きているのだ。
よし、行くか!
俺は重いギルドの扉を、ゆっくりと開けた。

















































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