君の心臓に花束を

桜柊うと

君の心臓に花束を

   
  清々しいほどの青さがのぞく窓を、僕はベットに寝そべって見上げていた。
  君が死んだ日も、こんな晴れた気持ちのいい春の日だった。あの日から1ヶ月もたった。1ヶ月前のあの光景は今でもはっきり覚えている。
   
雲ひとつない青い空がのぞく病室の窓から、気持ちいい春の風と桜の花びらが数枚吹き込んでくる。彼女の髪が揺れ、頬に涙がつたう。僕は彼女の胸と自分の胸にあてていた両手をそっと離した。
彼女の心臓は止まっていた。
  
  君と僕は、あまのじゃくで、いつも意見が合わないで、鼻くっつけ合わして言い合いをしていた。
君との約束は守れないことばかりだった。だからせめて君との最後の約束は守りたいからと、ベットからゆっくり重い体を持ち上げ机の上に置いてある本をとった。
ベットに戻って、今度は寝そべらずに座って、いつものようにその本のタイトルを見た。なぜ彼女が死ぬ間際にも、この本を読むことを約束したのか、残り数十ページしかない今になっても、まだ答えはわからない。

アルジャーノンに花束を

何度見ても変わらないタイトルから目をそらし、ぱらっと本を開いた。
  

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