十番目の黄金胎児

タントンテン

飲むのは一つじゃない

 丸く囲うような形をした集団が道端で騒いでいた。登校中の稗田 由季と江角 宮は発見する。彼女はさほど気にしなかったが友人は興味津々だった。

「ちょっと見てこ!」
「遅刻……」
「ちょっとぐらいなら間に合うって!」

 江角は由季の腕を組んで強引に引っ張り、彼女は抵抗することなく連れられていった。そして、彼女を先導しながら人混みをかき分けて友人は進んでいく。
 中心をうかがえる場所に到着した友人は何があるのか確認しようとした。

「……」
「江角さん!?」

 江角は血の気を引かせて後ろにたおれていく。とっさに由季は地面にぶつからないように背中を抑えた。身動き一つせず、彼女に全体重がのしかかる。
 必死に支えながら彼女は友人をこんな状態にした原因を肩越しに見ようとする。

「あれって……?」

 倒れた女学生に人々は彼女達から少し距離をとって騒ぎだす。そんな中で由季はそれを直視し、分析していた。
 人間が倒れている。干からびている。肌も目も。生気すらもない。すべてを抜かれてしまったかのように。

「君!? その子、平気なのか!?」
「……あ!……江角さん!江角さん!」
「……! すみませんでした!」

 男性が集中している由季に声をかけた。それをきっかけ我に帰った由季は多くの視線を自分らが集めているのに気づき、すぐさまに江角をゆさぶり始める。
 目覚めた友人はトマトを思わせるほどに真っ赤な顔で勢いよく立ち上がった。
 そして、頭を下げてすぐさまに垂直に戻した友人は彼女の手をつかんで早歩きで人だかりからそそくさと去っていく。

「江角さん大丈夫?」
「うー……」

 先ほどの場所から離れた道を2人は並んで歩いていた。江角は顔を両手で覆い隠し、由季は心配そうにのぞきこむ。友人は首を横に振った。

「誰も江角さんて分からないよ……だから前を見よ?」
「アタシが納得できないの……」

 お手上げになった由季は江角のことは一旦、放置し先ほどの死体について考える。あの死にかたは近ごろ発生している怪奇事件を彼女に思わせた。
 人間業ではない殺人が分類されるこの犯罪は彼女にとっては他人ごとではなかった。

「あが!?」
「……あ!江角さん大丈夫!?」
「……心も体もだいじょばない……だがら!」

 思考の海に浸っていた由季は悲鳴とぶつかった鈍い音で引き上げられる。そして、彼女が目にしたのは江角が電柱の前でひたいを抑え、うずくまっている姿だった。
 ちかよる彼女へ獣の眼光をした友人はだきつく。彼女はいきなりの事になすすべなく捕まってしまう。

「あ~由季が居て本当に良かった~」
「は、離して……」
「アタシ1人だったらまだ倒れていたかもしれなかったし」

 痛さと羞恥心にまみれていた表情は一転し、だらけきった安心感に満ち溢れたものになっていた。一方で彼女はひねり出すような声をあげていた。
 そんな彼女達とは関係なく時間は無常にもすぎていった。

 *

「ねえねえ、由季と宮が見ちゃったのってあれでしょ?」
「え? あれって何?」
「干からび人間! 本当に噂通りの見た目だった?」
「あー……ごめんアタシ思い出したくない……」

 バスケットボールなどの片付けや帰り支度を済ませ、体育館から出ようとする由季と江角を部活仲間の女子生徒が呼び止めた。
 話の内容に友人は視線を彼女の方にそらして。彼女はこちらを見てきた理由を察して。

「本当に乾いて――あ、ごめんなさい。」

 会話をさえぎるように由季の携帯から着信音が。彼女は電話に出て少しの間だけ会話をした。

「急ぎの用事ができたから、先に帰るね。」

 スマホをしまうと申し訳なさそうに由季は学校の外に出て行った。

「ローケーシャさん! 本当に!?」
「さあ、急ぐぞ。稗田 由季」

 校門から出てきた由季の元に現れるローケーシャ。由季は卵と共に現場に向かった。到着した1人と1柱はそれを視認する。
 黒色の人じみた体格。膨らんだ輸血袋を思わせる尻尾。薄い楕円形で羽毛が森の樹木のように生えている2枚の羽。古代人めいた装飾品。貌には巨大な複眼が2つ。
 そして、口にあたる部位から生えている細く長い針の器官。

「やりましょう。ローケーシャさん」
「分かっているツ。」

 やり取りを合図に由季が卵の見た目をしたローケーシャをにぎった。すると彼女に吸い込まれ風貌を粘土のように変身していく。
 古代アジアを思わせる布と金属の鎧。白鳥を象った顔全体を覆う兜。しなやかで柔らかな曲線の肉体に這うように生えた白い羽毛。
 
「ここで倒します!」

 一連の流れに怪人は棒立ちであった。鳥の戦士はそんなことお構いなしに剣を空間から引き抜くと斜め下に刃先を下ろしながら突撃する。

「えっ!」

 鳥の戦士の動きに迷いなく正面から突っ込んでいく。刃の間合いに怪人をとらえると、すぐさまに斜め一文字に切り上げようと。
 しかし、それは叶わない。戦士のざんげきは振り上げる前に怪人の右足で武器を持っている手首をふまれ、止められてしまう。
 刹那、怪人の鋭い突きさすようなつまさきの蹴りが戦士のみぞおちをうちぬいた。

「が……あ……」

 急所への一撃は鳥の戦士に致命までいかなくとも小さくはないダメージを。だがその程度でしかない。
 戦士は剣をもう一本、出現させて怪人の片足を横一閃。戦士の腕にかかっていた重みがなくなり赤い液体が降りそそいだ。怪人は静かに倒れていく。
 その時、怪人の針のような口が伸びて戦士の鎖骨の位置めがけて伸びる。

「!……これ……」

 その光景は鳥の戦士をほんのひと時のみ制止させた。戦士の体にやって来た衝撃は両手の剣を落としてしまう。貫通はしないが奥深くまで刺さったそれを戦士は引き抜こうとするが、取り出せない。
 込めている力が次第に入らなくなり症状は全身に広がっていく。比例して怪人の尻尾が膨らむ。
 
「あっ」

 ついには戦士の足元がふらつく。そして態勢を崩しかけたとき、背中から生えてきた一対の羽が大地に刺さった。
 自立稼働する翼の片割れは怪人の針を真っ二つにしようとする。だか、その前に怪人の方から抜かれる。

「ま……まだ」

 青緑色の液体が流れ出ている丸い傷口を手で押さえながら戦士は怪人と向き直すが足元は安定していない。怪人はそんな戦士に追撃をせずに別の行動を始める。
 紫の風船じみた状態になっている怪人の尻尾。それがしぼんでいくと怪人の体色が黒からブドウ色を思わせるものに染め上がっていき、切られた足がはえた

「変わ――」

 鳥の戦士が語り終わるよりも早く怪人は消えてしまう。残像を残して。戦士は辺りを探るが気配はあれど認識はできない。目にできるのは怪人と同じサイズの紫の線だけだ。
 戦士は動きを捉えようとするが完全にとらえ切れることができない。

「どこに……う!?」

 戦士の横を線が通り抜け、戦士は反対側にのけぞった。その後も何度も、何度も、何度もコマのように戦士は回転させられる。散らばっていく青緑の液体に周囲が染まっていく。

「空なら!」

 戦士は翼で空高く飛び上がった。そのまま、空中から観察しようとしたが地上に残っていたのは上空に伸びる紫の残像。戦士は後ろを振りむいた。

「いつの間に!」

 居たのは元に戻り、戦士の頭上目がけてかかと落としをしようとしている怪人だった。
 間一髪のとこで背中の一対の羽が攻撃を防ぐも衝撃までは抑えきれずに戦士は落下していく。
 かろうじて着地を成功した戦士。少し離れたとこに怪人はゆっくりと降りてくる。

「……」

 怪人はさっきまでと同じように棒立ち。しかし、違う点がありどこか嘲笑っているようであった。そんな相手を戦士はにらみつけながら尻餅をついた。
 戦士本人も座った自身に困惑している時だ。戦士の感覚が周囲の情報を集めるのを放棄しはじめる。
 戦士の視界が失われる直前に見たのは、怪人はすでに戦士の方を向いていないものだった。

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