十番目の黄金胎児

タントンテン

渇いて、飢えて

電柱吊り下げ殺人が発生しなくなってから1週間がたった。平和になった町の青空に花火があげられる。
 それを、皮切りに老若男女の人々が高校の敷地や校内を行きかい始めた。学生が運営している屋台や出しものには客があつまり、学校全体が活気に満ちあふれている。
 だが、いつもはいない筈の人たちが今年は居た。

「なんか……背筋がピンとするよね……」
「我慢しようぜ。居ないと文化祭開催できなかったらしいし」
「あの怪奇事件ってやつのせいでしょ?」

 静かにかいわする高校生たちの話題は巡回中の警察官だ。そうやって話していた時に男性警官と目が合い、その瞬間に生徒らは話をやめて。
 そんな雰囲気の中で一生懸命に仕事しているウェイトレス姿の女学生がいた。

「由季~交代だよ」
「え? もうそんな時間?」
「そうそう。早く着替えて遊びに行こ?」

 給仕をこなしていた稗田由季ひえだゆきに声がかけられた。彼女はあわてて更衣室に行く。
 到着した彼女は室内に誰もいないのを確認し、スマホのカメラを起動してレンズを自身へ。顔、上半身、下半身、全身と給仕服の自分を撮影する。
 撮り終えた写真を彼女はホクホク顔で確認してから衣装を脱いだ。

「えっと……あ! 江角さん」
「衣替え終わった? どこ行く由季?」
「江角さん近い……」

 制服姿になって部屋から出た由季にだれかが近づく。正体は同級生で女子の江角宮えすみ みやで人懐っこい笑みをうかべながら彼女の腕を組んできた
 友人のこうどうに彼女は恥ずかしそうにするが抵抗はしていない。そのまま2人はしおりを閲覧しながら廊下を進んだ。

「私は江角さんの行きたいところでいいよ」
「またそういう……由季はもう少し主張する」
「う……そ、それじゃ……」
「え……マジで言ってる?」

 由季が指さしたのはお化け屋敷。江角は思わず頬を引きつらせて血の気が引いてしまう。

「行く! 行くから!」
「ありがとう……ごめんなさい」
「そう思うなら……急ぐ!」

 だが、かなしげな由季を視認してしまえば、震える拳を握りしめて江角はやけくそに答えた。そのことばに彼女は一瞬だけ花が開いたような笑顔するもすぐに申し訳なさそうに。
 そんな、彼女を引きずるように友人は引っ張っていく。だが、連れて行こうとしている友人は眼を見開き、それでいて一歩、一歩と踏みしめて歩いていた。

「うぅ……なんで由季はこういうの好きなの……」
「本当にありがとう江角さ――」

 黒い垂れ幕で内部をかくされた教室から現れた由季は、泣きべそかいている江角に抱きしめられていた。そんな、友達に彼女が感謝をしめそうとしたときだ。
 廊下をパトロールしている男性の警察官が彼女らのまえを通り過ぎて行き、彼女は眼で追いかけた。

「……由季?」
「……え? あっ次は江角さんの行きたいところに」
「あっうん。じゃあ外の屋台を」

 じっと見つめている由季に江角は言いようがない不安を感じてまゆ尻を下げてしまう。そして、おそるおそる名前を呼ぶ。
 ゆっくりと友達の方を彼女は振り向いた。それから、取り繕うようにプログラムを取り出し出店舗を確認する。
 友人は問い詰めることもせずにただ、次の行き先だけを考えるようにした。

「うーん~」
「江角さん。一緒に撮ろう」

 屋台の店主から焼き鳥を貰う2人。江角は3本、由季は1本を買った。串の肉をほうばって食べる友達に彼女から問いかけがなされ、口がいっぱいなので頷いて答える。
 彼女はすぐに横に並び自分たちを撮った。そのあとに、画面を友人に見せてうまく取れたことに2人は喜んだ。楽しい時間が過ぎていく。

 *

「ただいま」

 帰宅した由季は部屋の明かりをつけた。人の気配はなくメモ書きを発見した彼女は手に取って確認する。読み進めていくごとに彼女の表情は死んでいき氷のような冷たさが目に現れて。
 それから、冷蔵庫から食材を取り出して手慣れた様子で調理を開始した。

「……」

 完成した料理を食べ終わった由季は自室に入る。そして、椅子に座り携帯を起動させてSNSに撮影した写真を投稿していく。
 顔を隠すなどの加工をしたウェイトレス姿の自分を。

「ふふ」

 すぐに通知が知らされ、1回だけではとどまらずに何度も。由季はにんまりとした笑みでそれを眺めていた。
 そんな、彼女の足元で絨毯から青緑色の液体が湧けば形を変え始める。
 成形が終わった容姿は30cmぐらいの大きさの卵に木の棒で作ったような腕と足がつき、顔も同じ素材の存在が立っていた。

「稗田 由季。満たされることはないチ」
「ローケーシャさんには関係ないから」

 ローケーシャと呼ばれたその卵に由季は目もくれないでいた。
 
「何度でも言おうツ。満たされ――」
「いいの! だから静かにしてて」
「稗田 由季。先駆者は発見したかタ?」
「……」

 由季は眉間に深い溝ができるほどに眉間を寄せて卵をにらみつけて怒声をあげた。ローケーシャは彼女に対してお手上げのポーズをして。
 彼女はそんな卵は無視し、再びSNSに集中しようとしたが卵の一言で止められた。彼女は少しばかり思案してから首を横に振る。

「必ず……見つける」

 由季の携帯のもつ手に力がこもり更には歯を強く噛みしめる。それは、彼女たちも前に活動している探し人に対してだ。
 そんな、彼女を眺めるローケーシャは悲しげだった。

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