十番目の黄金胎児

タントンテン

惑星の検査

 星空に青い星が浮かんでいた。ワ二の頭を人の胴体をつけたような存在が眺めている。
 生物は地表の七割が水で覆われた星へ黒い液体を投げつけた。反応するように第三惑星を包むように膜が一瞬だけ現れる。

「――」

 それは喋る。内容は何かに対する忌々しさや恨み節を思わせた。

 *

「終電……ないよなぁ……」

 スーツの男が落ち込みぎみに歩いていた。周囲の建物に明かりはなく街灯ぐらいしか光がない道を。暗く静かすぎる帰路は男に芯から震えを感じさせる。
 すこしでも早く帰宅しようとタクシー会社に電話しようとした。

「えーと番号は――」

 バシャ。すかさず男は足を引っ込め、スマホから音の方へ目線を移動させた。水たまりが鎮座している。やってしまった、男は靴を確認して違和感を覚える。
 濡れていない。踏んだ感触、それによる響きがあったはずなのに。

「な……なんなんだよ……」

 男は恐る恐るつま先で突っつくが結果は変わらない。しかし、最初は暗闇で分からなかった事実に気づく。水たまりが赤黒い。
 性質と色が物語る現実に男は心の奥底から寒さにみまわれる。3、4歩ほどあとずさりし青白い顔でタクシーへの連絡を再開した。

「もしも――」
「カルキか?」

 通話相手からではない問いかけが男を襲う。男は携帯を持つ手を震わせ、音源であろう赤黒い水たまりの方を見るが変化はない。胸をなで下ろして注意をそらす。
 その瞬間、赤黒い水たまりはうごめき変化していく。異変を察知した男は振り向いた。
 水たまりは消え代わりに2mほどの生き物が立っている。茶色い筋骨隆々の体。古代インドを思わせる装飾品。カブトムシの頭部をした怪人が。

「ひ!」

 男は持っていた端末を落とし逃げ出そうとする。しかし、怪人は離れられる前に首根っこを掴んで持ち上げた。暴れる男を怪人は意にも介さず電柱へ連れていく。
 ミシィ。空いている手の指を食い込ませて登り始める。頂上付近に着けば柱からのでている鉄の棒に男の頭を。

「カルキではない」

 怪人は男の首から放す。鉄が錆びた匂いのする液体が付着した手を。
 そして、かつて男だったものの胸に触れ、取り出す仕草をする。怪人は手にしたのを眺めて潰して飛び降りた。
 残されたのはもう喋らない男だけだ。

 *

「あれ、平沢まだ帰ってないんだ? 交代の時間だよ?」
「これ読んだら帰ります」

 交番のデスクで平沢洋一は今朝、発見された死体に関する被害届を読んでいた。午前の勤務も終わり、昼なのにいる彼を谷口守巡査部長が発見する。

「それって怪奇殺人扱いにしたやつ? 不思議だよねぇ。あんな風にするの」
「はい」

 奇怪な殺しを警察や世間では怪奇殺人と呼んでいた。今回、谷口部長と洋一が通報をうけて対応したのもその一つだ。
 電柱に細い物質を突き刺しながら登ったであろう痕跡。這うように垂れている血痕。頭がめり込んで埋まっている人の体。死因は電信柱に突き刺されたときの可能性がたかい。
 これらのことから二人は怪奇殺人に分類した。

「終わりました」
「じゃあ、引き揚げようか」

 やるべきことを終わらせた洋一は部長の言葉に頷いて職場を後にした。

「帰ったナ! 洋一」
「昼飯、買ってきたぞ」

 自室に帰宅した洋一に神であるジャガンナータが待っていたとばかりに声をかける。彼はそんな人形の横にレジ袋を置く。中には人形が望む物が入っていた。
 人形は意気揚々と袋からカレーパンと飲むヨーグルトを取り出し、食べ始めた。

「そんなにカレーパンが気にいったか?」
「大好きだナ! 味もだが名前も、だナ」
「……悪魔王に近いのが?」
「それを食べるのがいい二!」
「……そうか」

 一心不乱にカレーパンはむさぼられ、あっという間に人形に腹に収まった。そして、食後の飲むヨーグルトでひと息つく人形。名称も含めた好物に満足したのだろう。
 カレー。それはアスラ神族の首相である悪魔王カリの名に似ていた。

「いつかこの手でギタギタにしてやる二」
「そういえば、ナータを送り込んだデーヴァ神速の神々が何をしてるんだ?」
「知らない二」
「……は?」

 ジャガンナータは拳を作り何回も自身の手のひらに打ち付けていた。眺めていた洋一はふと人形には聞いていなかったことを質問する。
 答えはあまりにもあっけらかんとしていた。
 
「そこら辺の記憶も所持してないのか。結界のせいで」
「オイラの体も含めてネ」

 ジャガンナータは黒い30cmぐらいの木彫り人形の自身を見せる。この体は地球に来る際に結界を抜けるためにこうなった。
 デーヴァ神族とアスラ神族を拒み、破壊もできない結界が地球を覆っている。しかし、完全ではなく僅かに穴が開いていた。
 降臨にはそこを通りぬけれるほどに存在を制限するか、小さい分霊を派遣するしかない。

「だからオイラ達はカルキを隠すのを地球にしたナ」
「詳しい場所は分からないけどな」
「ヒントはあるヌ」
「一緒にやって来たデーヴァの同胞が知っているかもしれないだったか?」

 デーヴァの最終兵器にして悪魔王が手に入れようとしている武器カルキ。居場所が人間の中に隠されているとしか分かっていない。ジャガンナータにさえも。

「ただ、カルキを探すよりも楽に見つけられるヌ」
「なら、その仲間はどうする?」
「アスラ神族よりも探知するのはたやすい二」
「つまり見つけるのは難しいってわけか」

 自信満々に語るジャガンナータだが内容は無理があった。居場所が分かるわけでもどこら辺に居るのか絞り込めもしないのだ。
 洋一の言葉は衝撃を受けたようで人形は彼のベットに移動してふて寝をする。一方で彼はパソコンで未確認の生き物が近ごろ目撃されてないか調べた。
 出てきた情報は2体の化け物、カブトムシとトリだ。

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