十番目の黄金胎児

タントンテン

神と人と狭間の戦士

人間繭。その事件が世間では話題だ。

「今日も成果はなしか……」
「見つけたナ」

 人の声がしない昼間の公園。警察官の平沢洋一ひらさわ よういちはそこでうつむき気味に空き缶を握りしめていた。
 甲高い声が自動販売機の上からする。ふりむく。30センチ定規と同じくらいの黒い木彫り人形が立っていた。飛び降りて見上げてくれば、彼はモアイのように固まる。

「……なんだあんた」
「あんたとは無礼だナ! オイラはジャガンナータ! 神だナ」

 血が通う動物に洋一はもどり、ジャガンナータを受けいれようとする。叶うことはなかった。新たな事実が脳をゆらす。

「見られるのは嬉しい二。だが、見るのはまた今度ノ。話があるヌ」
「……話?」

 アイドルのように嬉し、恥ずかし、照れながらポーズを決めはじめた。冷え切った目を洋一にさせる。

「お前には何かを感じたナ。だから、オイラと一緒に戦う資格があるか確認するヌ」
「戦うし――」
「さらばだナ」

 最初は小さい粒。次第に蛇口を一気に開いたかのようにジャガンナータは液体へ変わっていく。あっという間に青緑色の水たまりになり地面に染みて消えた。
 彼はジャガンナータが消え去った地点をしばらく眺めていた。それから深くゆっくりと呼吸をし、公園の外に出た。

「オイラの期待、裏切るなナ」

 少しだけ濡れている自動販売機は見送った。

 *

 洋一は人々が行きかう夜の繁華街で警察官として仕事をこなしていた。ふと、彼は見た。人気を、陽気さを、明るさを感じさせない路地裏を。
 いる。目を凝らさずとも周囲の色に紛れる黒い人形、ジャガンナータが彼には見えた。

「……行くか」

 ジャガンナータは洋一を誘うように奥へ、奥へ。彼は人形を追い越さんとするほどに走るが、蜃気楼のように近づくことも、離れることもない。
 

「どこに行った……くそ……」

 肩で息をしながら洋一は見回す。整頓されて止まっているフォークリフトといった乗り物やコンテナ。大型の倉庫があった。作業員は見えない。
 それが居た。

「……!」

 目が8つあった。毛むくじゃらだった。口が裂けていた。二本足だった。民族のような装飾品をしていた。両手があった。
 洋一は歯を噛みしめながらコンテナのかげに隠れて息を整えようとする。こきざみに震え続ける手を掴む。

「来るな…来るな!」
「カル―」

 洋一は状況をうかがう。男が両足を縛るように糸が絡みついて逃げ出せなくされていた。男は何度も、何度も足とそれを交互にみて、繊維をひっぱっている。
 火薬の爆発する音が言葉はさえぎった。それは体を掻きながら確認すれば、拳銃を構えた洋一がいた。

「こっちだ!」

 揺れる腕で引き金を引くが、にぶることはなくそれは近づく。彼は一歩、一歩とさがる。
 四回目の発砲し、背をむけて全力疾走をしようとした。五体はゆっくりとしか言うことを聞かない。

「カルキか?」
「ぐ……うぁ……」

 握りつぶされる。突き付けた武器を。彼は太く根を張った木のように立ちすくみ、首をつかまれた。持ち上げられ、それの口の中で糸が銃弾のように溜まっているのを見る。
 
「そこまでだヌ!」

 それの腕が逆くの字に曲がり、種別のつかない声をあげさせた。その一撃は手を離させるほどに強力だ。地面に落下した洋一は何度も息を吸って吐く。
 拳と蹴りが生み出す打撃音は彼から少しずつ離れていった。

「うう……相変わらずやるヌ……」
「なんで……居るんだ?」
「言ったはずヌ。確認するとノ」

 ジャガンナータが洋一の近くに吹き飛んでくる。よろよろとしながら立ち上がる。
 彼は目を大きく見開き、口を半開きにする。人形が路地裏で姿を見せた理由。それを理解したからだ。

「戦う資格……!」
「そして、お前は合格したナ!」
 
 ジャガンナータが洋一の胴体に体当たりで抱き着いた。その衝撃で押し出されれば元の居た場所には糸が吹きかかる。

「オイラと一緒に勝つかナ? 死ぬかナ?」
「……一緒に戦えば勝てるのか?」
「当然だナ」

 再び銃撃のように襲い掛かってくる白い繊維が1人と1柱に粘着した。抵抗する時間もなく覆っていく。人間繭が完成した。それは接近し触れようとした。
 それの腕を繭から出てきた手が掴めば、上半身を引き寄せる。もう一本突き出してきた拳が顔面を正面から殴りぬく。宙をまい仰向けに叩き付けられるそれ。

「……」

 両手は胸のあたりを開くように引き裂けば、中から何かが起き上がってくる。
 獅子を模した全体を覆う兜。胴体、すね、上腕部から手の甲に鎧。全てが古代じみた装飾をされている。腰はしぼり、ゆったりしたズボンをまとっている。
 肌の色は星がない夜空の黒。両腕両足は2本。

「人か? 神か? お前は――」

 立ち上がるそれ。対峙する獅子頭は地面を蹴ればコンクリートがくぼみ、ロケットのように飛んでく。勢いをのせてそれの腹に正拳突きを打ち込む。
 
「あ……ぐぅ……」

 逆くの字におれまがり、腹をおさえて後ろによろめく。獅子頭の足元にॐのマークが足元に浮かび、吸い込まれる。1回転し脚を鞭のようにしならせ、それの頭に直撃させた
 大地をくだき、ささる。赤黒いえきたいにそれが変化しさくれつすれば獅子頭に吸い込まれた。

「腹の足しにはなったナ」
「……!」

 磁石がはんぱつするかのように1人1柱は分裂した。人形は自身のお腹をさすっており何回か叩いている。洋一は自分を見てから、捕まっていた男の元に行った。いない。

「オイラが助けておいたナ」
「……ありがとう。ジャガンナータ」
「使命を果たしただけだナ。ではまたナ」


 辺りを見回している洋一にジャガンナータは声をかけ、感謝しろと言わんばかりの雰囲気を出す。
 人形は青緑の水たまりなって消えていき、彼も去った。

 *

「……なんでいるんだ?」
「殺風景な部屋だナ! 」

 警察寮に帰宅した洋一は自室の扉を開けた。室内に入り電気をつければ、家のような安心感でジャガンナータが。
 うつむき気味に扉を閉めた。

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