不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

聖戦士対自由軍の少年たち②

 イフテリオスとクエイルは、前に動いた。

 グレンとミゲルがその前に立ちふさがる。

「どくんだ!」

 イフテリオスが怒鳴った。

「どくもんかよ!」

 ミゲルが言い返した。

 彼は、その場にいた男たちの中で一番背が低かったが、血気盛んだった。

 イフテリオスは、ミゲルの腹に拳の一撃を加えた。

「うげっ……」

 ミゲルは見事に沈没した。

 口から血の混じった泡を吐く。

 クエイルは横殴りに、グレンに右肘を見舞わせた。

 グレンは左手でそれを受け止めた。

 お返しとばかりに、クエイルの顔面に頭突きを喰らわした。

「うぐっ……!」

 反撃に動揺こそしたが、クエイルには余裕があった。

「少しはやるようだな」

 クエイルは、そういうとニヤリと笑った。

 同じように、グレンの顔に頭突きを返した。

 グレンは、のけぞった。

「腹に力が入っていないんだよ!」

 追撃で腹に蹴りを入れられた。

 ピグーとの戦いで傷を負った場所だった。

 グレンは、膝から崩れ落ちた。

 激痛に顔を歪めていた。

「逃げろ!」

 アンドレがエイミーに指示した。

 エイミーは、後ろに広がる中指の穴に逃げ出した。

「待て!」

 走り出すイフテリオスの足を、ミゲルが捕まえた。

 クエイルの前には、アンドレが立ちふさがる。

 とはいえ、彼らがエイミーに与えた時間はほんのわずかだ。

 ミゲルは、苛立たしげなイフテリオスに強烈に顔面を蹴られて、今度こそ失神した。

 アンドレは、あっけなくクエイルに馬乗りになられて、無防備な状態でボコボコにされた。

 彼の端正な顔立ちは、腫れ上がり、見るも無残な状態となった。

 イフテリオスとクエイルは、エイミーを追って、中指の穴に入った。

 グレンに、彼らを追うほどの力が残っていなかった。

 悔しそうに、拳を震わせる。

「白銀の魔女よ」

 ゼウシスは一人つぶやいた。

(なんだ……)

「どうやって、一つになる?」

 我に、まかせろ。

 委ねるのだ。

 すべて、我に……。

「主導権は、わたしだ」

 ゼウシスは言った。

「わたしが神になるのだ。魔女よ、お前ではない」

 もちろん……その通りだ。

 わたしは、お前を神にするために、黒い雨を通ってきたのだから……。

 しばらく、ゼウシスの中で対話があった。

「……そのあと、あの娘と一つになるには、どうすればいいのだ?」

 それは……。

 ドスンッ!

 不意に、中指の穴から、何か大きなものがとんできた。

 ゼノーの目の前に、ボロ雑巾のようになった肉体が落ちた。

 彼は、慄いて腰を抜かした。

「こ、これは……クエイル!?」

 先ほど中指に入っていったクエイルだった。

 腕と脚が、あらぬ方向に曲がっていた。

「し、死んでおります!」

 ゼノーは、声を裏返して教皇に報告した。

「なに?」

 ゼウシスもさすがに驚いていた。

 中指から、人影が出てきた。

 可憐な少女。

 怯えた目をしている。

 エイミーだった。

「……お、お前、クエイルに何をした?」

 ゼノーが問い詰めた。

「わ、わたしは……何も……」

「彼女は、オレを解き放っただけさ」

 中指の穴から、もう一人、男の影が姿を現した。

 男、というにはもはや、彼の姿は人間離れし過ぎていた。

 腕の代わりに、無数の長い触手が生えていた。

 ぬらぬらした海藻のような長い髪。

 触手の先には、イフテリオスが首から吊し上げられていた。

 聖戦士は、白眼で、舌を出したまま、ぴくりとも動かない。

 触手の化け物は、イフテリオスの体もゼノーの前に投げつけた。

 ゼノーは彼を知っていた。

「お前は、六鬼……」

「いかにも、オレは六鬼のクローチェだ。先程、この娘より獣化の薬を飲まされた。御礼がてらに、彼女を襲うこの二人を殺したというわけだ」

 クローチェの体は、さらに膨張していた。

 彼は、巨大なタコの化け物に変身していく過程にあった。

「あいつは、何者だ?」

「六鬼は、紅獅子王直属の戦闘集団です。あのクローチェは、中でも最強と謳われる戦士です!」

 ゼウシスの質問に、ゼノーが答えた。

「どうすればいい?」

「ど、どうすればと言われましても……」

 ゼノーは戸惑っていた。

 しかしそれは、彼への質問ではなかった。

(どうすれば……か。先程から言っている。我に身を委ねよ。あの程度の化け物なら、我が魔道の力でなんとでもなる)

「わかった……」

 ゼウシスは、瞳を閉じた。

 心を無に近づけて、白銀の魔女の侵入を許した。

 それほど時間はかからずに、白銀の魔女と、教皇ゼウシスの心は溶け合った。

 二つの世界の魂は、一つに融合した。

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