不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

三色月華③

「……この世界に、わしと同じ名のものはいるか?」

 イシドラはすがるような目で、ルッカと、その後ろに立つユウに尋ねた。

「……いる。いや、いたよ」

 ユウが答えた。

「わたしたちは、紅獅子王に抵抗する自由軍という組織を作っていた。そのリーダーが、イシドラという名前だったよ」

「……だった、ということは」

「つい数日前に、六鬼に殺されたばかりさ」

 ユウは淡々と答えた。

 イシドラは、ガックリと肩を落とした。

「これで、わしが三色月華の神となることはなくなってしまったようだ……」

「魔女もこの世界に来ているのか? その女教皇と一つになって?」

「……そうだ。だが、蒼の月の世界にいるときに、わしは気がつかなかった。もしかしたら、教皇の体内にはいるが、まだ一つになっていないのかもしれん」

 ルッカは考え込んだ。

「だけど、彼女がこの世界のもう一人の分身と会って、一つになれば……」

「……世界の融合が始まる」

 イシドラもルッカも表情が重苦しい。

「な、なにバカなこと言ってんのさ!」

 ユウは、話についてこれてなかった。

「まったく大ボラもいいとこだよ! そんなのあるわけないじゃん! それに、世界の融合も消滅も、今のわたしじゃなくなるなら、同じようなものじゃないか!」

「新たな神には、きっと新たな創造が許される。人を滅ぼすも、どう変容させるかも、新たな神次第……」

「あんたが、もう次の神になれないなら、あとは魔女しか神になれないってこと?」

 ルッカが聞いた。

「そういうわけではない。だれかが教皇より先に一つになれば、そいつが新たな神だ」

 ユウは、絶句した。

「オレは……?」

 ルッカはつぶやくように言った。

「は?」

 ユウは、なかば混乱していた。

「オレも、白銀の世界の自分と一つになって、黒い雨を通ってきた。だから、オレにも神になる権利があるのか?」

 イシドラはうなずいた。

「そうだ。お前が魔女より先にこの世界の自分と出会い、一つになれば、それは可能だ」

「なんで? あんたが神になるの? あーもー意味がわからない。どうかしてるよ」

 ユウは頭を抱えた。

 とはいえ、ユウはルッカの背中に生えた白銀の翼を見ていた。

 蒼い狼と白銀の翼。

 ライアロウとリーグシャーの融合だ。

 イシドラはルッカにたずねた。

「お前は、白銀の月の世界のことを覚えているか?」

「ああ……なんとなくだけど」

「何も知らないお前は巻き添えになった」

 イシドラは、ルッカに言った。

「白銀の月の世界のお前は、魔女の知り合いだった。それで、共に黒い雨に打たれた」

 ルッカは、魔のルッカの記憶を辿った。

 白銀の魔女によってエイミーがさらわれた。

 彼はエイミーを取り返すために、白銀の魔女のいる巨大樹に向かった。

 そこで、黒い雨に打たれた。

「そのときの黒い雨は、魔女が呼び込んだものだった。蒼の神玉のようなものが、白銀の世界にもあった。魔女はそれを利用したんだ」

 ルッカは断言した。

 その光景が、記憶の中にあった。

「エイミーは、魔女の娘だった……」

 魔のルッカは、彼女を助けようとしたとき、それを知って動揺した。

「今思えば、魔女は自分の娘のエイミーを、三色月華世界の女神にするつもりだったんだ。だけど、エイミーはそれを嫌がった……」

 魔のルッカの記憶が、自分のもののように脳裏によみがえる。

 それを知った魔のルッカは、エイミーを逃した。

 必死の行動だった。

 その後、白銀の月の世界のエイミーがどうにったのか、わからない。

 代わりに、自分が黒い雨に打たれたのだった。

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