不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

一対一

「ピグー……!」

 クローチェの気が削がれた。

 しかし、ルッカも動けなかった。

 自由軍のリーダーであるイシドラも倒れた。

 グレンも巨大ワニも、戦線から離脱した。

 共に仲間を失った。

 これからは、一対一の戦いだ。

「油断をするからだ……」

 自らにも言い聞かせるようにそうつぶやくと、クローチェの触手が、ルッカに向けてしなやかに伸びた。

 ルッカは、素早く動いて、それを避けた。
 
 かろうじて、スピードだけはルッカの方が上だった。

 クローチェの後ろに回り込み、背後から攻撃しようと詰め寄る。

 しかし、クローチェに回し蹴りを見まわれた。

 クローチェの奇怪な動きは予測不可能だった。

 これには逃げきれず、横っ腹を撃たれて、ルッカは壁際まで吹っ飛んだ。

 目の前の化け物には、背中にも目があるようだった。

 立ち上がり、反撃を試みたが、ルッカの攻撃は簡単に避けられて、触手の鞭を胸にみまわされた。

 まるで歯がたたない。

 力の差は圧倒的だ。

 ルッカは、距離を置いた。

 簡単に攻撃をしても、返り討ちを浴びるだけだ。

 だが、どうすればいいかわからなかった。

 まだ疲労はそれほどではないが、そのうち体力も尽きるだろう。


「やばいね……」

 空洞から見ていたユウがつぶやいた。

「ルッカ……」

 エイミーは、祈るように胸の前で指を組んだ。

 アンドレとミゲルが、気を失ったグレンを回収して、空洞の奥にあるイシドラの部屋まで運んだ。

 イシドラは元々医師だ。

 彼の部屋には、薬品もある。

 二人で、グレンの治療を行ってくれているはずだ。

「あのときは、うまく逃げきれたのに……」

 エイミーは、思わずそうこぼした。

「あのとき?……あんたたち、あの化け物と以前も出会ったことがあるのかい?」

 エイミーはうなずいて、アナの屋敷でクローチェとハーメルンに襲われたときのことを、改めて話した。

 ユウは、興味深げにその話を聞いた。

「そうか……それなら、あるいは手があるかもしれない」

「手?」

「ええ、あの化け物をなんとか出来るかも……」

「本当、ユウ?」

「……ただし、それにはあなたの身を危険にさらす必要があるよ。それをルッカが見過ごせるかどうか……」

 そこへ、アンドレが帰ってきた。

 グレンのことは、ミゲル一人で見ているそうだ。

「アンドレ……」

「なんだよ」

 ユウの視線に、アンドレは嫌そうな顔をした。

 ユウは、たった今考えてい作戦をアンドレに伝えた。

 彼に選択肢はなかった。

 六鬼は、自由軍を皆殺しにする気だ。

 このまま、ルッカがやられれば、三人だって助かる見込みはない。

「わかったよ……。エイミー、オレから離れるんじゃないぜ」

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