不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

紅獅子城

 紅獅子王の城は、背後を険しい千剣山に囲まれ、そこから流れるエレファント河の上流に建っていた。

 高台にある巨大な建造物の最上階には、天守閣があり、展望台となっていた。

 エレファント河は、その名の通り象の鼻のように太い大河で、支流は無数に分かれている。

 支流の要所には水門があり、国中へ運ばれる水が調節されていた。

 紅の月の世界に四季はなく、ほとんどが夏で、雨季は短かい。

 エレファント河は貴重な水脈で、王がそれを牛耳っているといってよかった。

 唯一、ウル湖に面した集落のみが、そこから独立していた。

 しかし、六鬼の襲撃によって、そのウル湖沿岸部も、いまや壊滅的な状態だという。

「壊滅的?」

 報告を受けて、紅獅子王は、首を傾げた。

 王の広間は、千人の兵士が参列できるほど大きく、天井も高かった。

 玉座に座る王は、身の丈三メートルは優に超える巨漢で、血のような真紅の鎧に身を包んでいる。

 獅子を模して作られた兜によって、顔は隠されていた。

 気の弱いものなら、それだけで気を失ってしまうような鋭い眼光が、広間にそろった幹部たちに注がれている。

 報告をした六鬼の一人、ガーランドは、身を縮めた。

「自由軍とやらが、神出鬼没に現れ、制覇の邪魔をしていると聞くが?」

 王の疑念を、将軍が引き継いだ。

 紅獅子王の側には、二人の人物がいた。

 右側に、青い鎧の壮年の男。

 体躯は普通だが、いかつい顔をしている。

 将軍のカイゼルだ。

 左側には、黒いローブの女。

 見た目は若いが、表情は超然としていて、その場の誰よりも年長に感じられた。

 宮廷魔道士マディン。

「神出鬼没ゆえ、手を焼いておりましたが、ついにアジトを見つけました。いま、我ら六鬼のピグーとクローチェが向かっています」

 ガーランドは、力強く言った。

 青い鎧の将軍が前に出た。

「なるほど、では、ハーメルンを殺したのは、何者だ?」

 六鬼のうち三人が、王の前に並んでいる。

 ガーランド、ユーダロス、アイデン。

 ピグーとクローチェは、自由軍討伐に出陣している。

 王国最高の戦士を集めた六鬼の一人、ハーメルンが欠けていた。

 アナをさらいに行ったときに、何者かに殺されたのだ。

「わかりません……」

 ガーランドの表情は曇った。

「そいつの抹殺も、六鬼の仕事ではないのか?」

 将軍は、言った。

「その通りです。しかし、正体も足取りも、全くつかめておりません……」

 ガーランドは、天井を見上げた。

 大きな鳥かごのようにものが、天井からぶら下がっている。

 中には、紅い髪の女がいた。

 アナ=オレオソルトだ。

 将軍も上を向いた。
 
 声を張り上げて、アナに向かって、たずねた。

「その異国の男は、何者なのだ?」

「さあ、わたしは知らない」

 アナは、まさに籠の中の鳥のような状態だった。

 籠には、小部屋のようになっていて、ベッドや家具が置かれている。

 高価な服を与えられ、まるで貴族の娘のような出で立ちだった。

「でも、彼は……」

 アナは、その続き口には出さなかった。

 ルッカは、必ずわたしを救いにここに、現れる。

 なぜかそんな予感がしていた。

 

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