不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

悪夢

 ルッカは、幼い頃の夢を見ていた。

 なぜ自分には、両親がいないのだろう?

 ユウやミゲル、アンドレにはいるのに。

 グレンの両親に不幸があったときは、優しくしなきゃと思って、笑って声をかけた。

 少し大きくなってから、カイゼルおじさんが言った。

「ルッカ、お前の父さんと母さんは、あの丘で、呪雨によって死んでしまったんだ。避けられない災害だよ。だから、あの場所に、二人の墓を作ったんだ」

 そういうものか、と思った。
 呪雨なんて、作り話ではないかと思っていた。

 実際、この身に降りかかるその時まで。

 しかし。

 ルッカは、ぼんやりと記憶していた。

 まだ一歳か、二歳かそのくらいまで、カイゼルの道具屋に、高貴な出自と思われる男女が訪れていた。

 二人は、ルッカのことをたいそうかわいがった。

 やさしいおじさんとおばさん。

 その頃のルッカは、そんな認識をしていたと思う。

 今思えば、父の形見のリュートも、その二人が持ってきた。

「カイゼル、この子を頼む」

「……お任せください」

「教会は、王族の血を絶やそうと目論んでいる。たとえ、わたしの代で王家が滅びようとも、この子だけは救いたいのだ」

 これは、夢だ。

 本当ではない。

 自分の記憶に、何か他のものが混ざり合ったにちがいない。

 夢の中とはいえ、非現実的な風景を、ルッカは必死で否定した。

 その風景を見ていると、ものすごく胸が苦しくなった。

 やがて、黒い雲が一面を覆った。

 風景をかき消すように、呪雨が、カイゼルとその男女の体に降り注ぐ。

「ルッカ、なぜ助けてくれなかったの?」

 振り向くと、体中に黒い点のついた、アナ=クレイブソルトがいた。

「アナ!」

 彼女のうしろに、巨大な二つの影が立っていた。

 大猿ハールメンと、タコの化け物クローチェ。

 彼らが背後からアナを襲った。

 必死であがらうが、ルッカには救うことができない。

 アナは、ハーメルンに服をはがされ、犯された。

 クローチェの触手が手足にからまり、ルッカは身動きが取れない。

 アナの名前を必死で叫ぶ。

 いつのまにか、彼女の髪の色は、蒼から紅へ変わっていた。

 この世界のアナ=オレオソルトとなっている。

 しかし、襲われ、汚されていることに変わりがなかった。

 これは、夢だ。

 これは、夢。

 ルッカは、必死に目覚めることを望んだ。

 暗闇に光がさした。

 本当に、ルッカは目を覚ました。

 森の木漏れ日が、ルッカの顔に当たっていた。

 目の前には、黒髪の華奢な少女、エイミーの寝顔があった。

 アナの親友。

 スヤスヤと、安心しきった顔で眠っている。

 体を起こす。

 全身に痛みがあった。

 ここは、森の中のようだった。

 岩陰で、焚き火をしたあとがある。

 傍らには、一匹の虎がいた。

 彼の命は、すでに絶えていた。

 そこでようやく、ルッカは昨夜の六鬼との激闘を思い出した。
 

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