不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
悪夢
ルッカは、幼い頃の夢を見ていた。
なぜ自分には、両親がいないのだろう?
ユウやミゲル、アンドレにはいるのに。
グレンの両親に不幸があったときは、優しくしなきゃと思って、笑って声をかけた。
少し大きくなってから、カイゼルおじさんが言った。
「ルッカ、お前の父さんと母さんは、あの丘で、呪雨によって死んでしまったんだ。避けられない災害だよ。だから、あの場所に、二人の墓を作ったんだ」
そういうものか、と思った。
呪雨なんて、作り話ではないかと思っていた。
実際、この身に降りかかるその時まで。
しかし。
ルッカは、ぼんやりと記憶していた。
まだ一歳か、二歳かそのくらいまで、カイゼルの道具屋に、高貴な出自と思われる男女が訪れていた。
二人は、ルッカのことをたいそうかわいがった。
やさしいおじさんとおばさん。
その頃のルッカは、そんな認識をしていたと思う。
今思えば、父の形見のリュートも、その二人が持ってきた。
「カイゼル、この子を頼む」
「……お任せください」
「教会は、王族の血を絶やそうと目論んでいる。たとえ、わたしの代で王家が滅びようとも、この子だけは救いたいのだ」
これは、夢だ。
本当ではない。
自分の記憶に、何か他のものが混ざり合ったにちがいない。
夢の中とはいえ、非現実的な風景を、ルッカは必死で否定した。
その風景を見ていると、ものすごく胸が苦しくなった。
やがて、黒い雲が一面を覆った。
風景をかき消すように、呪雨が、カイゼルとその男女の体に降り注ぐ。
「ルッカ、なぜ助けてくれなかったの?」
振り向くと、体中に黒い点のついた、アナ=クレイブソルトがいた。
「アナ!」
彼女のうしろに、巨大な二つの影が立っていた。
大猿ハールメンと、タコの化け物クローチェ。
彼らが背後からアナを襲った。
必死であがらうが、ルッカには救うことができない。
アナは、ハーメルンに服をはがされ、犯された。
クローチェの触手が手足にからまり、ルッカは身動きが取れない。
アナの名前を必死で叫ぶ。
いつのまにか、彼女の髪の色は、蒼から紅へ変わっていた。
この世界のアナ=オレオソルトとなっている。
しかし、襲われ、汚されていることに変わりがなかった。
これは、夢だ。
これは、夢。
ルッカは、必死に目覚めることを望んだ。
暗闇に光がさした。
本当に、ルッカは目を覚ました。
森の木漏れ日が、ルッカの顔に当たっていた。
目の前には、黒髪の華奢な少女、エイミーの寝顔があった。
アナの親友。
スヤスヤと、安心しきった顔で眠っている。
体を起こす。
全身に痛みがあった。
ここは、森の中のようだった。
岩陰で、焚き火をしたあとがある。
傍らには、一匹の虎がいた。
彼の命は、すでに絶えていた。
そこでようやく、ルッカは昨夜の六鬼との激闘を思い出した。
なぜ自分には、両親がいないのだろう?
ユウやミゲル、アンドレにはいるのに。
グレンの両親に不幸があったときは、優しくしなきゃと思って、笑って声をかけた。
少し大きくなってから、カイゼルおじさんが言った。
「ルッカ、お前の父さんと母さんは、あの丘で、呪雨によって死んでしまったんだ。避けられない災害だよ。だから、あの場所に、二人の墓を作ったんだ」
そういうものか、と思った。
呪雨なんて、作り話ではないかと思っていた。
実際、この身に降りかかるその時まで。
しかし。
ルッカは、ぼんやりと記憶していた。
まだ一歳か、二歳かそのくらいまで、カイゼルの道具屋に、高貴な出自と思われる男女が訪れていた。
二人は、ルッカのことをたいそうかわいがった。
やさしいおじさんとおばさん。
その頃のルッカは、そんな認識をしていたと思う。
今思えば、父の形見のリュートも、その二人が持ってきた。
「カイゼル、この子を頼む」
「……お任せください」
「教会は、王族の血を絶やそうと目論んでいる。たとえ、わたしの代で王家が滅びようとも、この子だけは救いたいのだ」
これは、夢だ。
本当ではない。
自分の記憶に、何か他のものが混ざり合ったにちがいない。
夢の中とはいえ、非現実的な風景を、ルッカは必死で否定した。
その風景を見ていると、ものすごく胸が苦しくなった。
やがて、黒い雲が一面を覆った。
風景をかき消すように、呪雨が、カイゼルとその男女の体に降り注ぐ。
「ルッカ、なぜ助けてくれなかったの?」
振り向くと、体中に黒い点のついた、アナ=クレイブソルトがいた。
「アナ!」
彼女のうしろに、巨大な二つの影が立っていた。
大猿ハールメンと、タコの化け物クローチェ。
彼らが背後からアナを襲った。
必死であがらうが、ルッカには救うことができない。
アナは、ハーメルンに服をはがされ、犯された。
クローチェの触手が手足にからまり、ルッカは身動きが取れない。
アナの名前を必死で叫ぶ。
いつのまにか、彼女の髪の色は、蒼から紅へ変わっていた。
この世界のアナ=オレオソルトとなっている。
しかし、襲われ、汚されていることに変わりがなかった。
これは、夢だ。
これは、夢。
ルッカは、必死に目覚めることを望んだ。
暗闇に光がさした。
本当に、ルッカは目を覚ました。
森の木漏れ日が、ルッカの顔に当たっていた。
目の前には、黒髪の華奢な少女、エイミーの寝顔があった。
アナの親友。
スヤスヤと、安心しきった顔で眠っている。
体を起こす。
全身に痛みがあった。
ここは、森の中のようだった。
岩陰で、焚き火をしたあとがある。
傍らには、一匹の虎がいた。
彼の命は、すでに絶えていた。
そこでようやく、ルッカは昨夜の六鬼との激闘を思い出した。
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