不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

六鬼との激突②

 ルッカは、完全に人に戻る前に、先制攻撃を仕掛けることにした。

 クローチェが獣に完全に変わる前までに。

 触手となったクローチェの手が、波打って襲いかかってくる。

 それは肘の部分から複数に枝分かれし、奇怪な姿だった。

 ルッカは、それをギリギリのところでかわし、クローチェの股の間をすり抜けた。

 そのとき、爪を内股に突き刺した。

「ウギャァァァァア〜」

 クローチェは、猛獣の鳴き声のような叫びをあげた。

 この爪も、この攻撃で折れてしまった。

 そのままルッカは、エイミーを抱えた。

 しかし、エイミーは嫌がった。

 彼女にしてみれば、六鬼と今のルッカは同じに見えるのだろう。

 エイミーは、恐怖で半狂乱になる。

 クローチェの触手が鞭となって、ルッカとエイミーに放たれた。

 最初の一撃は、かろうじてアナのウェッブによって防がれた。

 しかし、そのウェッブはそのままクローチェによって巻き上げられ、残りの触手が束になって二人を襲った。

 ルッカは、身を呈してエイミーを守った。

 まるでハンマーのような衝撃に、ルッカは気を失いそうになった。

 獣人から人に完全に戻りつつあった。

 体が縮み、筋肉も硬さを失っていく。

「大丈夫、ぼくが守るから」

 怯えるエイミーに、ルッカは優しく声をかける。

 ふたたび触手が叩きつけられた。

 ルッカは、エイミーの前に立ち、それを背中で受ける。

 激痛。

 なんとかその瞬間は倒れずに済んだ。

 が、肩の骨がいかれたかもしれない。

 変な形で陥没していた。

 もう一撃。

 ルッカの意識は完全にとんだ。

 今度は床に崩れ落ちた。

 化け物となったクローチェがエイミーに近づく。

 エイミーは、青白い顔をして、絶叫をあげた。

 そこで不思議なことが起こった。

「きゃああああああ〜!」

 その声は、空気を揺らした。

 クローチェは、顔をしかめた。

 エイミーに向かって触手を振り上げた。

 エイミーはさらに声を張り上げた。

 金切り声は、空気を捻じ曲げ、振動を作り上げた。

 建物が震え、壁に亀裂が走る。

 それは、クローチェの全身を硬直させる。

「う……グググッ……」

「シーザー!」

 アナの声に、力尽きていたかに見えた虎の一匹が身を起こした。

 シーザーはアナに走り寄り、彼女はその背に体をあずけた。

 シーザーは、さらにルッカとエイミーも、その背に乗せた。

 虎の毛皮には、べったりと血がついている。

 負傷をしているのは明らかだった。

 しかしそれでも、シーザーは三人を背に乗せて、窓を飛び越え、外へ駆け出した。

「ユーダロス!」

 回復したクローチェが叫んだ。

 彼の触手は、窓の周囲を破壊したが、シーザーには届かない。

「逃すものか」

 不意に、上空から翼が舞い降りた。

 空飛ぶ猫のような生き物だった。

 コウモリの翼の獣人。

 大きくはないが、その分身軽で敏捷な怪物だった。

「きゃ!?」

 紅い髪がつかまれ、そのままアナは引っ張り上げられた。

 裸のまま、空中でじたばたするが、長い爪がしっかりと食い込んではなさない。

「アナ!」

 エイミーが叫ぶ。

 ユーダロスと呼ばれた怪物は、アナを連れたまま夜空に消えた。

 クローチェが外に出てきた。

 立ち止まるわけにはいかなかった。

 紅の月の下、ルッカとエイミーを背に乗せて、虎は走った。






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