不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

ルッカ二人

「何で、月が赤いんだ……」

「あれが、この世界の月だ」

「みんなは無事なのか?」

「君の世界、つまり蒼い月の世界のみんなのことだろうけど、さっき言ったように、呪雨に打たれたものは、魔を取り込んでいたものを除いて消滅した。不完全なままで、終わってしまった」

「お前のいうことは、難しいよ。オレのくせに」

 紅の月明かりに照らされて、一つの体で、二人のルッカが会話をしていた。

「たしかに難しかったね……まあ、いいさ。いずれ、君にも理解できるだろう」

 ルッカは周りを見回した。 

 見慣れた丘のようで、ところどころ違っていた。

 草や木々の生え方、石や土の質。

 蒼の世界より、草木は茂り方が雑多で、石ころのも大きく、ゴツゴツしている。

 何より、紅い月に照らされて、全体が赤みがかっていた。

「お前は、この世界を知っているのか?」

 ルッカは、魔のルッカに尋ねた。

「いいや。ぼくもこの世界に来るのは初めてだ。君と一緒で何も知らない。ただ、月の色が違う世界があることは、知っていた」

「それなら、オレも……」

 ルッカは、神話を思い出そうとした。

 しかし、ユウと違って、教会でちゃんと話しを聞いていなかった。

 だから、うろ覚えだ。

 たしか、神話では、女神ノーラは三匹の聖獣に分かれた。

 そして、そのあと、世界も三つに分かれた。

 ここは、そのうちの一つということか。

 紅の月は、紅の獅子バルティアンの世界だという。

 ルッカは、頭の中で考えていただけだったが、魔のルッカには伝わっていた。

「ぼくの世界にも、同じ神話が伝わっているよ。ぼくは、蒼の世界に来てから、しばらくは魔となって放浪していた。それで、君の世界のことも少しは知っているんだ」

「お前は、どこから来たんだ?」

「ぼくの世界の月は、白銀だった」

「白銀の鷹、リーグシャーの世界……」

 それも、三つに分かれた世界の一つ。

「そうだよ。ぼくの世界でも呪雨が降った。それに打たれたぼくは、蒼の月の世界に転移した」

 魔のルッカの声はうなだれていた。

 ぼくは、元の世界に戻りたかった。

 言葉には出していなかったが、魔の気持ちも、ルッカには理解できた。

「ぼくの世界にも、アナはいたよ。君たちほど親しくはなかったけど。宮殿の歌姫として有名だった。だから、この世界にもいるはずだよ」

「アナがいる……」

 そう思うと、不思議と力が湧いてきた。

 ふたたびアナと出会えるなら、それで充分な気がしてきた。

「ただし、この世界のアナは、君の知ってる彼女ではない。そのことは覚悟しておいた方がいい」

 やがて紅の月が湖に沈み、陽が昇った。

 どうやら、太陽の姿形は同じようだ。

 空も青く、雲も白かった。

 しかし、空気の匂いや温度は、ルッカの住んでいた世界と違っていた。

 どこがどうかとは、うまくは説明できない。

 しかし、あきらかにここは別世界だ。

 自分が育ったカイゼルの家が近くにあるはずだった。

 菜の花茶店や、ユウやグレンの家もここからだと近い。

 のぞいてみたい気もしたが、ルッカは、アナに会うことを優先した。

 朝日を浴びて、丘を駆け下りた。

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