不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

蒼い月の下、聖戦士に囲まれて③

「アナ……」

「ルッカ……」

 私は、まだ意識を保っていた。

 不思議と痛みはなかった。

 というより、首より下の感覚はなかった。

 矢に貫かれたときは、熱く痛んだが、今はむしろ、寒気すら覚える。

 視界は、はっきりとしていた。

「すまない……君を守れそうにない」

 ルッカは泣いていた。

 私の背中から流れる血は止まらないようだ。

 彼の手は、真っ赤に染まっている。

「泣いてるの? 私のために……」

「アナ……これからなのに……やっと、欠けてた何かを手に入れたのに」

「私も……いえ、私は、最後に満たされた。あなたの愛情で」

 それを聞いたルッカの涙腺は、さらに緩んだようだ。

 ぼろぼろと、大粒の涙が頬を伝う。

「ああ……可笑しいわ」

「なんだよ、何も可笑しいことなんてないよ」

 ルッカは手の甲で涙を拭った。

 私の血が、彼の頬に線を引いた。

「だって、私のために月が泣いてくれているのよ。月の涙って、黒いのね……」

 うふふ。

 私は微笑んだ。

 ルッカは、不思議に思ったのだろう。

 空を見上げた。

 蒼い月から、一筋の雲が発生していた。

 黒い雲は、次第に丘に近づき、面積を増やしていた。

 それは、ただの雲ではなかった。

 たちまち暗雲となって立ち込めた。

 私は、本当に可笑しかった。

 月が、私のために泣いているように見えた。

 しかし、ルッカは顔を強張らせた。

 そして、低い声で呟いた。

「あれは……呪雨」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品