不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

絶命の一撃

 グレンは、ハーメルンに全神経を集中していた。

 ここまで、互角以上に渡り会えていた。

 しかし、こんな実力であるはずがない。

 ほんの一年前はら手も足も出なかったのだ。

 技のキレ、体の動き、力強さ、全てにおいて圧倒された。

 きっと、まだ終わりではない。

 グレンは、ハーメルンから目をそらさなかった。

 ハーメルンは、立ち上がると、左右に揺さぶりをかけてきた。

 回り込み、背後を取ろうとする動きだったが、グレンに抜かりはなかった。

 一度も打ち込ませる隙を与えない。

 しばらくお互い様子を伺っているうちに、ハーメルンが森を背にする形となった。

「背中を見せたら、容赦なく斬る」

 森に走って、先に行かれないように、グレンは間合いを詰め、牽制する。

「オレは聖戦士だ。賊相手に逃げるか!」

 ハーメルンの声は、金切り声になっていた。

 屈辱と泥で、顔が赤黒く染まっている。

  グレンは呼吸を整えた。

 相手は取り乱している。

 真剣だが、殺すつもりはない。

 だが、失神させるくらいの強い一撃が必要だった。

 剣を逆刃にして、胴を打ち、回り込んだのち、後頭部へ峰打ちを与える。

 グレンは、イメージした。

 相手の動きは見えている。

 集中を怠らなければ、やれる。

 生死を賭けた緊張感が、夜の空気を支配していた。

 我慢出来なかったのは、ハーメルンだった。

 先に打ち込んできた。

 グレンは、その剣を弾いて受け流す。

 すれ違いざま、相手の胴体に剣を叩きつける。

「うごっ!」

 ハーメルンは、前のめりになって、汚物を吐いた。

 グレンは、背後に回った。

 ハーメルンは無防備だった。

 あとは、首筋に次の一撃を加えるだけだ。

 不意に、視界の端に何かが見えた。

 夜であることと、ハーメルンに集中していたため、それが何か、はっきりと認識できなかった。

 新たな追っ手……?

 一瞬迷ったが、グレンは、ハーメルンを優先した。

 太陽の貴公子は厄介な相手だ。

 本領が出ていない今のうちに、ケリをつける必要がある。

 グレンは、剣を振り上げた。

 しかし、結局、それが振り下ろされることはなった。

 一本の矢が、グレンの肩を貫いた。

 痛みよりも驚きが勝った。

 グレンは矢を見た。

 赤い鳥の羽根が飾られている。

 前方に目を移す。

 十騎ほどの馬に乗って、戦士たちが駆けてきた。

 ハーメルンと同じように、聖印が記された甲冑に身を包んでいる。

 教会の誇る聖戦士たちだ。

 気づいた瞬間、複数の閃光を放たれた。

 一歩も動くことはできなかった。

 聖戦士たちの放った矢は、グレンの腕に、胸に、腹に突き刺さった。

 グレンは、その場に崩れ落ちた。

 ハーメルンは、苦々しい顔をして立ち上がると、グレンの顔に唾を吐いた。

「思い知れ!」

 そして、無抵抗になったグレンの心臓に剣を突き立てた。

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