不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

出口

 封印の部屋に入ると、扉に耳を当てて、外の様子を伺う。

 まだこちらの通路には来ていないようだ。

「なんだお前ら」

 すると、部屋の中から人の声がした。

 二人は驚いて振り向いた。

 ルッカは、アナを自分の後ろへ隠す。

 背は低いが、筋肉質な男がいた。

 垂れ目で髭面で、どこか朝頼りなさげな面立ちだが、聖印の入った甲冑をまとっていた。

 ただの兵士ではなさそうだ。

「魔封のイシドラ様……」

 アナが、小声でつぶやいた。

「聖戦士の一人よ。魔について詳しいお方」

 耳元で、アナが簡単に説明してくれた。

 相手は、聖戦士の一人。

 どうやって、この場を乗り切るべきか。

「許可なく入れる場所ではないぞ」

「あなたこそ、こ、ここは教皇しか入れない部屋のはず」

「なに、わしは勝手に、魔封の品を物色に来ただけさ。お前ら、どうせ誰も来ないから、ここでイチャつこうとしてただけだろ? 見逃してやるから、わしのことも黙ってろ」

「わ、わかったよ」

「わかったら、さっさと出て行け」

 といっても、他に逃げ場はない。

 今は、簡単に出ていけなかった。

 話を引き延ばす必要がある。

「その前に教えてよ」

「なんだ?」

「魔ってホントにいるのかい? 魔封って、どうするんだ?」

 敬語を忘れてしまっていたが、イシドラは気にしてなかった。

「魔はいる。そして、魔封もあるさ」

 イシドラは、骨董品の中から、ガラス玉を一つとった。

「この中に封じ込める」

「封じ込める……」

「魔は、別世界の生き物だ。それを捕まえて研究することで、世界の謎も解ける」

「世界の謎?」

「そうだ。この世界は、何かが欠けている。それが何なのか、魔は知ってる。わしの家には、たくさんの魔が入った水晶があるぞ」

「魔が、口から入ったりするとどうなる?」

「なに?」

 イシドラは、床の上に、粉々に割れたガラスの破片を見つけた。

 先ほど、ルッカが割った水晶の破片だ。

「お前、食ったのか」

 ルッカは答えなかったが、イシドラはその表情から理解した。

「なにもないこともあれば、憑依されることもあるぞ」

「憑依? 頭の中で声が聞こえたり?」

「そうだ。しかし案ずるな。普通はすぐに出ていくはずだ」

 ルッカに入ってきた魔は、出て行かなかった。

 しばらく休むと言って、それきり黙り込んだ。

 お、戻ってきたのか。

 このおっさんの相手はするな。

 急に、心の声がした。

「起きたのか?」

 アナとイシドラは、不思議そうな顔をした。

 奥に秘密の出口がある。

 調べてみろ。

 ルッカは声に従って、部屋の奥を調べた。

 イシドラは、黙ってルッカの行動を見守っていた。

 ブロックの一つを外すと、階段が下っていた。

「アナ! ここ!」

 アナは呼ばれて、小走りで寄ってきた。

「これは……秘密の階段?」

「そうみたいだ。ここから、出てみよう」

「うん」

 イシドラには、ルッカの行動はどのように見えただろう。

 しかし、気にする時間はなかった。

「ぼくらはここから出て行くよ」

「そうか」

 イシドラは、封印の部屋の品々を物色し始めた。

「くれぐれも、わしがここにいたことは内緒だぞ」

 ルッカは笑顔で答えて、階段を降りていった。

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