不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

大聖堂の見取り図

「ミゲル、例えばだが」

 ルッカは、ミゲルを自分の家に呼んだ。

「なんだ折り入って」

 ルッカの表情は、やけに真剣だった。

 二階の、ルッカの部屋だった。

 叔父のカイゼルは、出かけて留守だった。

「これを見てほしい」

 ルッカは机の上に、大きめの紙を広げる。

「これは……」

 ミゲルは、しばらく眺めて、それが何か理解した。

「大聖堂の見取り図だな。カイゼルさんは大工もするから、大聖堂の補修の手伝いをしたこともあるだろう。それで、こんなものを持っているのか」

「そうだ。おじさんは、大聖堂の見取り図の写しを持ってた。こっそり借りた」

「それで?」

「まず、聞きたいのは、蒼の神玉は、大聖堂のどこにあると思う?」

 ミゲルは、すぐに答えずにルッカの顔を見た。

「そうだな。おそらくこの辺りだろうな」

 しばらく考えてから、五階の一室を指差す。

「普段は、人目に触れる必要はないから、厳重に保管できる場所だ。しかし祝事のときは、もっと都合が良い場所に移動されるかもな」

「もうすぐ、満月の祝祭がある」

「それなら、今はこの辺りかな」

 ミゲルは、今度は三階の一室を指差した。

「警備のし易さ、祝祭のときの移動を考えたらな」

「そうか」

 ルッカは、三階のその部屋の位置を凝視した。

「怖い目をしているぞ」

 ミゲルは、ルッカの異様な真剣さに、眉をしかめた。

 ルッカは、かまわずに続けた。

「これは、あくまで、例えばの話なんだが……」

 ルッカの視線は、見取り図に落とされたままで、ミゲルを見ようとしなかった。

「ミゲルなら、大聖堂からどうやって蒼の神玉を盗む?」

 質問しながらも、ルッカは、自分でもそのことをじっと考え込んでいた。

 ミゲルは、そんなルッカをマジマジと見た。

「本気か」

「例えばなら話だよ。遊びだと思って考えてくれないか」

 ルッカは笑っていたが、瞳の奥から、ただならぬ緊張感が伝わってくる。

「本気なら、真剣に考えてくる。持ち帰らせてくれないか」

 ミゲルはそう言った。

 ルッカが何か問題を抱えているのは確かだ。

 おそらくあの娘、アナと関係があるのだろう。

 問い詰めても、きっと答えまい。

 ここで結論を出すわけにはいかなかった。

「どのくらいかかる?」

「そうだな。満月の祝祭の前の日には、間に合うだろうさ」

「わかった。おじさんに見つかるとやばい。できれば、それより早く頼む」

「努力するよ」

 ミゲルは、見取り図を持ち帰った。

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