不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

絶望の窓②

 私は呆れた。

 ルッカの言葉は、あまりに見当違いだ。

 なぜ今、結婚の話になるのか。

 腹が立ってきたので、勢いよくカーテンを閉めた。

「帰って」

「アナ!」

「もう、来ないで」

「アナ!」

 返事はしない。

 しつこい。

 私が考えるべきは、結婚とか甘い話ではない。

 私が考えるべきは。

 そう、復讐。

 忌まわしい記憶を消して前に進むには、復讐しかない。

 どうしたら、父の仇を取れるのか。

 どうしたら、あの男を懲らしめることが出来るのか。

 しかし、思ったように考えはまとまらなかった。

 窓を背にして、私は沈黙した。

 ルッカはまだいるだろうか?

 無視するつもりだったが、その存在が気になっていた。

 しばらく私は、何も結論を出せずに、そのまま立ち尽くしていた。

「今日のところはこれで帰る。けど、また来るから」

 突然、ルッカの声が聞こえた。

 だいぶ時間が経っていたから、まだいるとは思わなかった。

 私は驚いて、カーテンの隙間から外を覗く。

 いつのまにか朝日が昇っており、眩しさに目を細める。

 ルッカの姿は、すでになかった。

 私は、何だか寂しさを感じた。

 ルッカは優しい人だ。
 
 窓辺越しに話すわずかな間だけだったが、彼との時間は、私に嫌なことを忘れさせた。

 本当は、もっとルッカと話しをしたい。

 でも、それは不幸を生むことになるだろう。

 きっと、彼のためにも良くない。

 ルッカは、私のためなら何でもしてくれる。

 だったら……。

 私は、一つの考えにたどり着く。

 しかし……。

「アナ」

 言葉通り、次の夜もルッカは現れた。

 私は部屋にいたが、カーテンを開けなかった。

 私は、ルッカの呼びかけを無視し続けた。

 それからしばらくして、彼の声は聞こえなくなった。

 あきらめて、ついに帰って行ったんだろうか?

 涙が出てきた。

 毎晩、やって来てくれた、彼を想った。

 正直なところ、恋愛感情は持っていなかった。

 でも、ルッカは辛いときに励ましてくれた。

 こんな私に、結婚しようと言ってくれた。

「ありがとう」

 小声でつぶやいた。

 すると、窓の外から弦楽器の音色が聞こえてきた。

 リュートの音。

 優しい、透き通った音。

 私は、カーテンを開いた。

 屋根の上で、ルッカは弦を奏でていた。

 やめて! お母様が目を覚ましてしまうわ。

 こんな真夜中に、とても迷惑!

 そんなことを言おうと思って、窓を上げた。

 心地よい音楽が、耳に入ってくる。

 思いとは裏腹に、私の唇からは、唄が溢れでた。

「不死鳥の恋よ、安らかに眠れ」

 ルッカは、二人の出会いの曲を弾いていた。

 ルッカが弾いて、私が唄う。

 心地よい共鳴。

 この世界で起こる、全ての不幸を憂いを、包み込む。

 彼の演奏に身を任せ、唄うことにより、私自身の恐怖も取り除かれていく。

「アナ」

 曲が終わると、ルッカは私に笑いかけた。

 母に許してもらった子供のような、ほっとした笑顔だ。

 私も微笑み返した。

「来て」

 私は、ルッカを部屋に招き入れた。

 窓を閉め、カーテンも閉める。

 そして、彼を抱きしめた。

 仕方ない。

 なるようになるしかない。
 





 

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