不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
ルッカとアナ②
また別の夜。
「ルッカは、これからどうするの?」
「これから?」
「うん。やっぱり、叔父さんの店を継いで、道具屋になる?」
「いや……正直、それについてはずっと悩んでいる」
「そうよね。簡単には、決められないよね、将来なんて」
将来という言葉を口にしたとき、アナの表情は曇った。
「どうしたんだい?」
「いえ……」
彼女は、うつむいて、顔を背けた。
ルッカは言葉を飲み込んだ。
アナは泣いている。
彼女の肩が小刻みに震えていた。
「私の将来は、きっと真っ暗」
月の光を受けて、蒼く輝くアナの涙を目にして、ルッカは胸が痛かった。
「そんなことないよ!」
「何も知らないくせに」
「なんで、何かあったのか?」
アナは、何も語らなかった。
今日は、大聖堂で催しがあって、聖歌の披露をしたという。
そこで、何か取り返しのつかない失敗でもしたのだろうか?
そう思って聞いてみるが、アナは、そういうことじゃないわ、と首を横に振った。
「あなたに、言えることじゃないの」
そう言われると、ルッカは、黙っているしかなかった。
「ごめんなさい」
その夜、アナはいつもより早めにカーテンを閉めた。
ルッカは、一人暗い夜道を歩いた。
なんとなく遠回りがしたくなって、今日話題に出た大聖堂へと向かう。
いくら考えても、アナの悩みの正体がわからなかった。
彼女の心の傷を取り除きたい。
しかし、どうやっていいのかわからない。
大聖堂は、巨体な建造物だった。
三角錐の塔を中心に、五階層の屋根が段差をつけて、建築されている。
赤と金の装飾が、夜でも眩しく輝いていた。
色々な場所に、神の聖印や、聖獣の彫刻が飾られている。
ルッカ。
「ん?」
どこからか、誰かに呼ばれた気がした。
ルッカ。
声というより、直接頭に響いてくる。
聖獣の彫刻から?
ルッカは、大聖堂の柱の一つに目を向けた。
ルッカ、こっちだ。
早く早く。君が来るのを待っていたんだ。早く封印の部屋に来てくれ!
ルッカは、声がしたと思われる方へ歩き出した。
結果、無断で大聖堂の中へと入っていくことになる。
ああ、そっちじゃない!
「ええ、どっちだよ?」
声ならぬ導きに文句を言ったとき、通路の角から人影が現れた。
「お前は誰だ?」
長身で色白の男だった。
金色の髪に、甲冑をまとっていた。
胸に、聖印が大きく刻まれている。
聖戦士の証だ。
「コソ泥か」
金髪の聖戦士は剣を抜いた。
「成敗してくれよう」
言い訳する暇はなかった。
戦士の目は獣のように釣り上がり、残酷な笑みを浮かべていた。
人を殺すことを喜ぶ目。
ルッカは、とっさにそれを理解した。
獅子に見つかった兎のように、一目散に逃げるしかなかった。
「チッ!」
甲冑を着込んでいるにしては、金髪の聖戦士の動きは素早かった。
普通のものならば、すぐに捕まっていたかもしれない。
しかし、ルッカは相手が驚きを隠せないほどに、俊敏だった。
「くそ! 山猿が!」
それに、身軽だ。
柱をうまく使い、戦士の剣の攻撃をかわす。
大聖堂を出ると、路地の一画に入り込む。
まるで幻であったかのように、聖戦士の視界から消えることに成功した。
「ルッカは、これからどうするの?」
「これから?」
「うん。やっぱり、叔父さんの店を継いで、道具屋になる?」
「いや……正直、それについてはずっと悩んでいる」
「そうよね。簡単には、決められないよね、将来なんて」
将来という言葉を口にしたとき、アナの表情は曇った。
「どうしたんだい?」
「いえ……」
彼女は、うつむいて、顔を背けた。
ルッカは言葉を飲み込んだ。
アナは泣いている。
彼女の肩が小刻みに震えていた。
「私の将来は、きっと真っ暗」
月の光を受けて、蒼く輝くアナの涙を目にして、ルッカは胸が痛かった。
「そんなことないよ!」
「何も知らないくせに」
「なんで、何かあったのか?」
アナは、何も語らなかった。
今日は、大聖堂で催しがあって、聖歌の披露をしたという。
そこで、何か取り返しのつかない失敗でもしたのだろうか?
そう思って聞いてみるが、アナは、そういうことじゃないわ、と首を横に振った。
「あなたに、言えることじゃないの」
そう言われると、ルッカは、黙っているしかなかった。
「ごめんなさい」
その夜、アナはいつもより早めにカーテンを閉めた。
ルッカは、一人暗い夜道を歩いた。
なんとなく遠回りがしたくなって、今日話題に出た大聖堂へと向かう。
いくら考えても、アナの悩みの正体がわからなかった。
彼女の心の傷を取り除きたい。
しかし、どうやっていいのかわからない。
大聖堂は、巨体な建造物だった。
三角錐の塔を中心に、五階層の屋根が段差をつけて、建築されている。
赤と金の装飾が、夜でも眩しく輝いていた。
色々な場所に、神の聖印や、聖獣の彫刻が飾られている。
ルッカ。
「ん?」
どこからか、誰かに呼ばれた気がした。
ルッカ。
声というより、直接頭に響いてくる。
聖獣の彫刻から?
ルッカは、大聖堂の柱の一つに目を向けた。
ルッカ、こっちだ。
早く早く。君が来るのを待っていたんだ。早く封印の部屋に来てくれ!
ルッカは、声がしたと思われる方へ歩き出した。
結果、無断で大聖堂の中へと入っていくことになる。
ああ、そっちじゃない!
「ええ、どっちだよ?」
声ならぬ導きに文句を言ったとき、通路の角から人影が現れた。
「お前は誰だ?」
長身で色白の男だった。
金色の髪に、甲冑をまとっていた。
胸に、聖印が大きく刻まれている。
聖戦士の証だ。
「コソ泥か」
金髪の聖戦士は剣を抜いた。
「成敗してくれよう」
言い訳する暇はなかった。
戦士の目は獣のように釣り上がり、残酷な笑みを浮かべていた。
人を殺すことを喜ぶ目。
ルッカは、とっさにそれを理解した。
獅子に見つかった兎のように、一目散に逃げるしかなかった。
「チッ!」
甲冑を着込んでいるにしては、金髪の聖戦士の動きは素早かった。
普通のものならば、すぐに捕まっていたかもしれない。
しかし、ルッカは相手が驚きを隠せないほどに、俊敏だった。
「くそ! 山猿が!」
それに、身軽だ。
柱をうまく使い、戦士の剣の攻撃をかわす。
大聖堂を出ると、路地の一画に入り込む。
まるで幻であったかのように、聖戦士の視界から消えることに成功した。
コメント