不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

ルッカとアナ②

 また別の夜。

「ルッカは、これからどうするの?」

「これから?」

「うん。やっぱり、叔父さんの店を継いで、道具屋になる?」

「いや……正直、それについてはずっと悩んでいる」

「そうよね。簡単には、決められないよね、将来なんて」
 
 将来という言葉を口にしたとき、アナの表情は曇った。

「どうしたんだい?」

「いえ……」

 彼女は、うつむいて、顔を背けた。

 ルッカは言葉を飲み込んだ。

 アナは泣いている。

 彼女の肩が小刻みに震えていた。

「私の将来は、きっと真っ暗」

 月の光を受けて、蒼く輝くアナの涙を目にして、ルッカは胸が痛かった。

「そんなことないよ!」

「何も知らないくせに」

「なんで、何かあったのか?」

 アナは、何も語らなかった。

 今日は、大聖堂で催しがあって、聖歌の披露をしたという。

 そこで、何か取り返しのつかない失敗でもしたのだろうか?

 そう思って聞いてみるが、アナは、そういうことじゃないわ、と首を横に振った。

「あなたに、言えることじゃないの」

 そう言われると、ルッカは、黙っているしかなかった。

「ごめんなさい」

 その夜、アナはいつもより早めにカーテンを閉めた。

 ルッカは、一人暗い夜道を歩いた。

 なんとなく遠回りがしたくなって、今日話題に出た大聖堂へと向かう。

 いくら考えても、アナの悩みの正体がわからなかった。

 彼女の心の傷を取り除きたい。

 しかし、どうやっていいのかわからない。

 大聖堂は、巨体な建造物だった。

 三角錐の塔を中心に、五階層の屋根が段差をつけて、建築されている。

 赤と金の装飾が、夜でも眩しく輝いていた。

 色々な場所に、神の聖印や、聖獣の彫刻が飾られている。

 ルッカ。

「ん?」

 どこからか、誰かに呼ばれた気がした。

 ルッカ。

 声というより、直接頭に響いてくる。

 聖獣の彫刻から?

 ルッカは、大聖堂の柱の一つに目を向けた。

 ルッカ、こっちだ。

 早く早く。君が来るのを待っていたんだ。早く封印の部屋に来てくれ!

 ルッカは、声がしたと思われる方へ歩き出した。

 結果、無断で大聖堂の中へと入っていくことになる。

 ああ、そっちじゃない!

「ええ、どっちだよ?」

 声ならぬ導きに文句を言ったとき、通路の角から人影が現れた。

「お前は誰だ?」

 長身で色白の男だった。

 金色の髪に、甲冑をまとっていた。

 胸に、聖印が大きく刻まれている。

 聖戦士の証だ。

「コソ泥か」

 金髪の聖戦士は剣を抜いた。

「成敗してくれよう」

 言い訳する暇はなかった。

 戦士の目は獣のように釣り上がり、残酷な笑みを浮かべていた。

 人を殺すことを喜ぶ目。

 ルッカは、とっさにそれを理解した。

 獅子に見つかった兎のように、一目散に逃げるしかなかった。

「チッ!」

 甲冑を着込んでいるにしては、金髪の聖戦士の動きは素早かった。

 普通のものならば、すぐに捕まっていたかもしれない。

 しかし、ルッカは相手が驚きを隠せないほどに、俊敏だった。

「くそ! 山猿が!」

 それに、身軽だ。

 柱をうまく使い、戦士の剣の攻撃をかわす。

 大聖堂を出ると、路地の一画に入り込む。

 まるで幻であったかのように、聖戦士の視界から消えることに成功した。



 

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