不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

運命の女性

「昨日、聖歌隊の紹介をしたのは、薔薇の蕾のソプラノリーダーだよ」

 アンドレはもったいぶって告げた。

「名前をアナ=クレイブソルト」

 父親は、城に勤める事務官。

 母親は、良家の出の専業主婦。

 街の中心に部屋がいくつもある館を構え、両手で足りないほどのメイドを雇っているという。

「本物のお嬢様だな」

 ミゲルは珍しく驚いた顔をした。

「いいとこのお嬢さんとは予想してたが、クレイブソルト家といえば、大物だよ」

「そうなのか」

 ルッカは関係ないというふうに腕を組んでいる。

「残念だったな」

 ユウはふざけるように、ルッカの背中を叩いた。

「何が残念だ?」

 ルッカは、意味がわからないと首をひねり、ユウに振り向いた。

「お前とは不釣り合いだ。雲と泥の差だ。今度こそ、あきらめろ」

「誰かあきらめるか。やっと見つけたんだ」

 ルッカの目は燃えていた。

「運命の女性に巡り会えたんだ。あきらめるわけない」

「運命の女性?」

 全員が、あっけに取られた。

「そうだ。オレには何かが欠けているとずっと思っていた。それがなにか、彼女と出会ったことでわかったような気がする」

「バカだとは思っていたが、そこまでだとは……」

 ユウは頭を抱えた。

「で、どうするんだ?」

 グレンだけは、楽しそうだ。

「何度でも、力の限り、アタックするしかない」

 そう、アドバイスをしたのは、ミゲルだった。

「良いところのお嬢さんは、真っ直ぐなひたむきさに弱い」

「そうなのか、ミゲル詳しいな」

 ルッカの言葉に、ミゲルは顔を伏せる。

「かもしれない。本で読んだ。文学の世界では、だいたいそうだ」

「ふーん、で、結局どうするのさ?」

 ユウのぶっきら棒な質問に、ルッカはうーんと考え込む。

「練習が終わるのを待つ」

「一人でか? 怪しいだけだぞ」

「彼女に会って、この想いを告げる」

「いきなりか」

「運命の女性だからな」

 今度は、ルッカ以外の四人が考え込んだ。

「これほど真剣なルッカを見るのは初めてだ。オレは応援する」

 グレンが口を開いた。

「まあ、そんなにまで言うなら、当たって砕けろだ」

 アンドレも微笑んだ。

「砕けない」

 ルッカの反論は無視されて、ミゲルが言葉を継いだ。

「面白そうだ。見物させてもらおう。どうせ、成就しない恋だ。なあユウ」

「ま、まあね」

 ユウも、しぶしぶと言った様子でうなずいた。

 こうして次の日から、ルッカの猛烈な恋のアタックが始まった。

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