不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
羞恥心と聖歌隊
「あー、あーあーあー」
ユウは、間延びした声を出す。
「ほら、こんなんじゃ、聖歌隊なんか入れるわけがないわ」
「入る必要はない」
ルッカは興味なさそうに、こちらを見向きもしなかった。
聖歌隊の入隊志願は、街の教会で行われた。
ルッカを付き添って、ユウは教会を訪れた。
ユウは、この日のために精一杯のおめかしをしていた。
髪を結び、顔に白粉を振った。
人生で初めて、口紅というものをつけた。
「なんで。そんなことすんだ?」
ルッカがそう言うので、ムッとした。
「私だって、こんなことしたくないわよ! アンドレのお母さんがご好意でしてくれたのよ! 断れないでしょ!」
実際、化粧をするのは気恥ずかしかった。
しかし、心の奥底では、それを、楽しんでいる自分もいる。
「まあ、いいわ。受付は終わったから、次は練習の見学よ。例の彼女がいなくても、私のせいじゃないからね!」
ユウは、ずんずんと教会の中へ先に入っていった。
「お、おう!」
ルッカが、緊張した面持ちで後からついてくる。
街の教会の屋根は高かった。
ユウたちの地元にも教会はあるが、比べ物にならない。
装飾は美しく、清掃も抜き届き、洗練されている。
広間に入ると、舞台の上に、少女たちが並んでいた。
薔薇を彩ったベレー帽に、神父のように体全体を包む赤い衣服を見にまとっている。
声を揃えて、聖歌を斉唱していた。
建物同様、少女たちも洗練された清らかさに満ちていた。
ルッカが見惚れてしまったのも無理はないと思う。
私たちの住む地元にはいない種類の女性たちだ。
途端に恥ずかしくなった。
私なんか、本当に場違いだわ。
ユウは、早くこの場所から離れたい衝動にかられた。
「もう、帰ろう」
ルッカの袖を引くが、彼は動かなかった。
「いたの?」
「いや」
ルッカの顔は険しい。
「いない……」
「残念だったね」
ユウは、どこかホッとしていた。
「早く行こう。もう帰ろうよ」
  ささやき声で、ルッカを催促する。
「うん……」
ルッカは唇を噛み締めながら、居並ぶ少女たちを端から端まで何度も確認していた。
ルッカがなかなか動かないので、ユウはため息をついた。
「じゃ、この曲を聴き終えるまでよ」
やがて、少女たちの歌声が止んだ。
歌が終わったのだ。
「帰ろう、ルッカ。諦めな」
あんたには、あたしがいるじゃないか。
ユウは、心の中でそう付け加えて、先に広間を出ようと歩き出した。
「あ……」
ルッカが吐息を漏らす。
「待て、ユウ。いた」
「え?」
振り向くと、舞台の少女たちが入れ替わっていた。
数も衣服も一緒だが、今度の少女たちは、胸に蒼い月のバッヂをつけている。
少女の一人が前に出た。
栗色の髪に、蒼い瞳。
列の中央に立ち、この舞台の中でも、一際輝いていた。
「さて、見学の皆様。先ほどまでは研修生の練習でした。これから、私たち薔薇の蕾少女合唱隊、教皇選抜の歌唱を披露させていただきます。最後まで、ごゆっくりとお聴き下さい」
「彼女だよ」
ルッカは、感動したように目を潤ませている。
「彼女が、オレの恋する人だ」  
隣にいるルッカが喜びで泣きそうになっているのを見て、ユウはうんざりした。
私の方が泣きたいわ。
そう、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
ユウは、間延びした声を出す。
「ほら、こんなんじゃ、聖歌隊なんか入れるわけがないわ」
「入る必要はない」
ルッカは興味なさそうに、こちらを見向きもしなかった。
聖歌隊の入隊志願は、街の教会で行われた。
ルッカを付き添って、ユウは教会を訪れた。
ユウは、この日のために精一杯のおめかしをしていた。
髪を結び、顔に白粉を振った。
人生で初めて、口紅というものをつけた。
「なんで。そんなことすんだ?」
ルッカがそう言うので、ムッとした。
「私だって、こんなことしたくないわよ! アンドレのお母さんがご好意でしてくれたのよ! 断れないでしょ!」
実際、化粧をするのは気恥ずかしかった。
しかし、心の奥底では、それを、楽しんでいる自分もいる。
「まあ、いいわ。受付は終わったから、次は練習の見学よ。例の彼女がいなくても、私のせいじゃないからね!」
ユウは、ずんずんと教会の中へ先に入っていった。
「お、おう!」
ルッカが、緊張した面持ちで後からついてくる。
街の教会の屋根は高かった。
ユウたちの地元にも教会はあるが、比べ物にならない。
装飾は美しく、清掃も抜き届き、洗練されている。
広間に入ると、舞台の上に、少女たちが並んでいた。
薔薇を彩ったベレー帽に、神父のように体全体を包む赤い衣服を見にまとっている。
声を揃えて、聖歌を斉唱していた。
建物同様、少女たちも洗練された清らかさに満ちていた。
ルッカが見惚れてしまったのも無理はないと思う。
私たちの住む地元にはいない種類の女性たちだ。
途端に恥ずかしくなった。
私なんか、本当に場違いだわ。
ユウは、早くこの場所から離れたい衝動にかられた。
「もう、帰ろう」
ルッカの袖を引くが、彼は動かなかった。
「いたの?」
「いや」
ルッカの顔は険しい。
「いない……」
「残念だったね」
ユウは、どこかホッとしていた。
「早く行こう。もう帰ろうよ」
  ささやき声で、ルッカを催促する。
「うん……」
ルッカは唇を噛み締めながら、居並ぶ少女たちを端から端まで何度も確認していた。
ルッカがなかなか動かないので、ユウはため息をついた。
「じゃ、この曲を聴き終えるまでよ」
やがて、少女たちの歌声が止んだ。
歌が終わったのだ。
「帰ろう、ルッカ。諦めな」
あんたには、あたしがいるじゃないか。
ユウは、心の中でそう付け加えて、先に広間を出ようと歩き出した。
「あ……」
ルッカが吐息を漏らす。
「待て、ユウ。いた」
「え?」
振り向くと、舞台の少女たちが入れ替わっていた。
数も衣服も一緒だが、今度の少女たちは、胸に蒼い月のバッヂをつけている。
少女の一人が前に出た。
栗色の髪に、蒼い瞳。
列の中央に立ち、この舞台の中でも、一際輝いていた。
「さて、見学の皆様。先ほどまでは研修生の練習でした。これから、私たち薔薇の蕾少女合唱隊、教皇選抜の歌唱を披露させていただきます。最後まで、ごゆっくりとお聴き下さい」
「彼女だよ」
ルッカは、感動したように目を潤ませている。
「彼女が、オレの恋する人だ」  
隣にいるルッカが喜びで泣きそうになっているのを見て、ユウはうんざりした。
私の方が泣きたいわ。
そう、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
361
-
-
89
-
-
75
-
-
2
-
-
1
-
-
1978
-
-
11128
-
-
125
-
-
140
コメント