不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

菜の花茶店②

「歌が上手いなら、聖歌隊に入っている可能性がある」

 ルッカたち四人はテーブルを囲んでいたが、グレンは一人だけ、座らずに立っていた。

 体格も大きく筋肉質だ。

 常に傍らに木剣を持ち、自分の体の一部のように片時も離さない。

「オレは、最強の剣士になる」

 それが、グレンの口癖だった。

 実際、腕前も確かだし、街で行われた剣闘大会で、良いところまでいった。

 しかし、所詮は自己流の剣術である。

 道場で本格的に鍛錬を受けた者たちには、手も足も出なかった。

 大会で戦った相手も悪かった。

 太陽の貴公子ハーメルン。

 最年少で、大聖堂の近衛である聖戦士に抜擢された、エリート中のエリートだ。

  しかし、それでもグレンはめげなかった。

 あくまで彼が目指すものは、最強の戦士である。

 そのことに変わりはなかった。

「聖歌隊か……」

 アンドレが顎に手をおいて考える。

「どうしたの、アンドレ」

 ユウの質問に、アンドレはニヤリと笑った。

「聖歌隊のお嬢様たちなら、オレの修行してる料理店によく来るんだよ」

 ルッカが期待を込めて、アンドレを見た。

「薔薇の蕾少女合唱隊だったかな。催し物のたびに大聖堂に呼ばれ、歌を演奏しているらしい」

「じゃあ、その中に彼女も?」

「いるかもしれない」

 ルッカの期待に、グレンが力強く言った。

「いないかもしれない」

 ユウが、間をおかずに言葉を重ねた。

「聖歌隊の中でも、薔薇の蕾は選ばれし精鋭だったはず」

 ミゲルも慎重だった。

「あまり、期待しない方がいい」

 お茶をすすりながら、そう言った。

「よし! 」

 ルッカは勢いよく立ち上がった。

「アンドレ、オレもお前の店で働かせてくれ!」

「は?」

 グレン以外の三人が目を丸くした。

「彼女が見つかるまででいい」

「無茶を言うな」

 アンドレが困ったように頭をかく。

「さすがに非常識だ」

「やはりルッカは馬鹿だわ」

 ミゲルとユウは、呆れていた。

「じゃあ、どうしろってんだ!」

「まずは聖歌隊の練習を見に行けばいい」

 ミゲルは言った。

「たしか新規隊員に応募すれば、聖歌隊の練習を見学できるはずだ。申請すれば大丈夫じゃないか」

「なるほど、名案だ」

 グレンが感心してうなずいた。

「しかし、聖歌隊に入隊できるのは女性だけだろ? 」

「募集した本人の他に、付き添いが一人入れる」

 ミゲルはやけに詳しかった。

「いや、最近、妹が興味を持ったから、一度調べたんだ」

 ミゲルは五人兄弟の長男で、うち、妹が二人いる。

「じゃ、ミゲルの妹に届けを出してもらおう」

 ルッカは、身を乗り出してミゲルの手を握った。

「頼む!」

 ミゲルは、それを嫌そうに振りほどく。

「残念ながら聖歌隊には年齢制限がある。うちの妹じゃ、まだ応募することができない」

「じゃあ!」

 ルッカは、ミゲルの隣のユウに顔を向けた。

「なによ」

 ユウは、心底嫌そうな表情をつくる。

「ユウ、聖歌隊に応募してくれ! この通りだ。親友じゃないか」

 ルッカは、おさげ髪の少女に向かって、深々と頭を下げた。

 アンドレとミゲル、それにグレンは、ユウの心情を知ってか知らずか、複雑な表情で二人の様子を見つめていた。

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