不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

菜の花茶店①

「無邪気だったわたしは、

 愚かだったわたしは、

 人を好きになるたびに、

 何度も何度も生まれ変わった

 春の日差しのような淡い恋

 夏の燃えるような熱い恋

 秋の寂しさ隠す秘めた恋

 冬の冷たい寒さを耐える恋

 恋に破れるたびに魂は滅びたが、

 新たな恋の火によって再び甦った

 だけど、これが最後の恋

 もう、わたしには、恋する心はいらない

 愛の、本当の正体を知ってしまったから

 不死鳥の恋よ、安らかに眠れ」


 少女の声が耳に残る。
 
 思い出しては、ルッカは心ここにあらずと言った状態になった。

「それで?」

 ユウが、冷たい視線を向けている。

「ん?」

「それで、名前くらいは聞いたの?」

 我に帰るとそこは、アンドレの母が営む茶店だ。

 菜の花茶店と呼ばれ、地元の人々に親しまれている。

 ルッカと彼の悪友たちが、いつも集まる場所だった。

 ユウ、アンドレ、グレン、それにミゲルが集まって、ルッカから少女との出会いを聞かされていた。

「いや、聞けなかった」

 ルッカはレモン水を飲みながら、肩を落とした。

 少女との出会いから七日が過ぎていた。

「で、でもな、彼女の歌声に合わせて、オレはリュートを少しだけ弾いたんだ。そしたら、彼女はニコリと微笑んでくれた」

「ルッカのリュートはなかなかのもんだからね」

 アンドレが励ますように、ルッカの肩を叩いた。

 アンドレは、笑顔の似合う、朗らかな少年だった。気立てもよく、仲間うちでは一番大人びた性格の持ち主だ。

 彼は、このまま母の茶店を継ぎたいと思っていた。

「ところが、料理の勉強もしたいと母に言ったら、街の料理店に下働きに出ることになったよ」

 彼の母が、知り合いに頼み込んでくれたそうだ。

「今のままじゃ店は継がせられない。修行をしてこい、だとさ」

 アンドレは母と二人家族だ。

 きっと母を気づかって、店を継ぎたいと思っていたのだろう。

 思わぬ展開に戸惑っている様子だったが、それでもアンドレの表情からは、挑戦する意欲が感じられた。

「だけど、名前も聞いてないんじゃ、探しようがないよ。もうこれきりだね」

 ユウが、一人うなずいている。

 ルッカは、また肩を落とす。

 次の日も同じ場所に行ってみたが、少女の姿はなかった。

 その次の日も、そのまた次の日も。

「そりゃ、見ず知らずの男に裸を見られたんだ。危なっかしくて、もう来るわけがない」

 ユウは、追い討ちをかけるように冷たく言い放つ。

「不死鳥の恋よ、安らかに眠れ……か」

 その隣で、ミゲルがぼそりと呟いた。

「知ってるのかミゲル?」

「いや」

 ミゲルは、額に手を当てながら、思い出すそぶりをしていたが、残念そうに首を振る。

 ミゲルは、読書好きで、仲間うちでは一番の物知りだ。

 特待生として、春から高等学院への入学が決まっている。

 彼の家は貧乏だったが、学校の成績が優秀だったため、教会が奨学金を出してくれることになった。

「つまりだ」

 ミゲルはもったいぶった態度で続ける。

「君のための歌だよ、ルッカ。不死鳥の恋よ、安らかに眠れ。もう君の恋はあきらめろ、ということだ」

 ユウが嘲笑うように、そうそう、と同調した。

「いや、あきらめるのはまだ早いんじゃないか?」

 そう口を挟んだのは、グレンだ。


 

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