不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
菜の花茶店①
「無邪気だったわたしは、
愚かだったわたしは、
人を好きになるたびに、
何度も何度も生まれ変わった
春の日差しのような淡い恋
夏の燃えるような熱い恋
秋の寂しさ隠す秘めた恋
冬の冷たい寒さを耐える恋
恋に破れるたびに魂は滅びたが、
新たな恋の火によって再び甦った
だけど、これが最後の恋
もう、わたしには、恋する心はいらない
愛の、本当の正体を知ってしまったから
不死鳥の恋よ、安らかに眠れ」
少女の声が耳に残る。
思い出しては、ルッカは心ここにあらずと言った状態になった。
「それで?」
ユウが、冷たい視線を向けている。
「ん?」
「それで、名前くらいは聞いたの?」
我に帰るとそこは、アンドレの母が営む茶店だ。
菜の花茶店と呼ばれ、地元の人々に親しまれている。
ルッカと彼の悪友たちが、いつも集まる場所だった。
ユウ、アンドレ、グレン、それにミゲルが集まって、ルッカから少女との出会いを聞かされていた。
「いや、聞けなかった」
ルッカはレモン水を飲みながら、肩を落とした。
少女との出会いから七日が過ぎていた。
「で、でもな、彼女の歌声に合わせて、オレはリュートを少しだけ弾いたんだ。そしたら、彼女はニコリと微笑んでくれた」
「ルッカのリュートはなかなかのもんだからね」
アンドレが励ますように、ルッカの肩を叩いた。
アンドレは、笑顔の似合う、朗らかな少年だった。気立てもよく、仲間うちでは一番大人びた性格の持ち主だ。
彼は、このまま母の茶店を継ぎたいと思っていた。
「ところが、料理の勉強もしたいと母に言ったら、街の料理店に下働きに出ることになったよ」
彼の母が、知り合いに頼み込んでくれたそうだ。
「今のままじゃ店は継がせられない。修行をしてこい、だとさ」
アンドレは母と二人家族だ。
きっと母を気づかって、店を継ぎたいと思っていたのだろう。
思わぬ展開に戸惑っている様子だったが、それでもアンドレの表情からは、挑戦する意欲が感じられた。
「だけど、名前も聞いてないんじゃ、探しようがないよ。もうこれきりだね」
ユウが、一人うなずいている。
ルッカは、また肩を落とす。
次の日も同じ場所に行ってみたが、少女の姿はなかった。
その次の日も、そのまた次の日も。
「そりゃ、見ず知らずの男に裸を見られたんだ。危なっかしくて、もう来るわけがない」
ユウは、追い討ちをかけるように冷たく言い放つ。
「不死鳥の恋よ、安らかに眠れ……か」
その隣で、ミゲルがぼそりと呟いた。
「知ってるのかミゲル?」
「いや」
ミゲルは、額に手を当てながら、思い出すそぶりをしていたが、残念そうに首を振る。
ミゲルは、読書好きで、仲間うちでは一番の物知りだ。
特待生として、春から高等学院への入学が決まっている。
彼の家は貧乏だったが、学校の成績が優秀だったため、教会が奨学金を出してくれることになった。
「つまりだ」
ミゲルはもったいぶった態度で続ける。
「君のための歌だよ、ルッカ。不死鳥の恋よ、安らかに眠れ。もう君の恋はあきらめろ、ということだ」
ユウが嘲笑うように、そうそう、と同調した。
「いや、あきらめるのはまだ早いんじゃないか?」
そう口を挟んだのは、グレンだ。
愚かだったわたしは、
人を好きになるたびに、
何度も何度も生まれ変わった
春の日差しのような淡い恋
夏の燃えるような熱い恋
秋の寂しさ隠す秘めた恋
冬の冷たい寒さを耐える恋
恋に破れるたびに魂は滅びたが、
新たな恋の火によって再び甦った
だけど、これが最後の恋
もう、わたしには、恋する心はいらない
愛の、本当の正体を知ってしまったから
不死鳥の恋よ、安らかに眠れ」
少女の声が耳に残る。
思い出しては、ルッカは心ここにあらずと言った状態になった。
「それで?」
ユウが、冷たい視線を向けている。
「ん?」
「それで、名前くらいは聞いたの?」
我に帰るとそこは、アンドレの母が営む茶店だ。
菜の花茶店と呼ばれ、地元の人々に親しまれている。
ルッカと彼の悪友たちが、いつも集まる場所だった。
ユウ、アンドレ、グレン、それにミゲルが集まって、ルッカから少女との出会いを聞かされていた。
「いや、聞けなかった」
ルッカはレモン水を飲みながら、肩を落とした。
少女との出会いから七日が過ぎていた。
「で、でもな、彼女の歌声に合わせて、オレはリュートを少しだけ弾いたんだ。そしたら、彼女はニコリと微笑んでくれた」
「ルッカのリュートはなかなかのもんだからね」
アンドレが励ますように、ルッカの肩を叩いた。
アンドレは、笑顔の似合う、朗らかな少年だった。気立てもよく、仲間うちでは一番大人びた性格の持ち主だ。
彼は、このまま母の茶店を継ぎたいと思っていた。
「ところが、料理の勉強もしたいと母に言ったら、街の料理店に下働きに出ることになったよ」
彼の母が、知り合いに頼み込んでくれたそうだ。
「今のままじゃ店は継がせられない。修行をしてこい、だとさ」
アンドレは母と二人家族だ。
きっと母を気づかって、店を継ぎたいと思っていたのだろう。
思わぬ展開に戸惑っている様子だったが、それでもアンドレの表情からは、挑戦する意欲が感じられた。
「だけど、名前も聞いてないんじゃ、探しようがないよ。もうこれきりだね」
ユウが、一人うなずいている。
ルッカは、また肩を落とす。
次の日も同じ場所に行ってみたが、少女の姿はなかった。
その次の日も、そのまた次の日も。
「そりゃ、見ず知らずの男に裸を見られたんだ。危なっかしくて、もう来るわけがない」
ユウは、追い討ちをかけるように冷たく言い放つ。
「不死鳥の恋よ、安らかに眠れ……か」
その隣で、ミゲルがぼそりと呟いた。
「知ってるのかミゲル?」
「いや」
ミゲルは、額に手を当てながら、思い出すそぶりをしていたが、残念そうに首を振る。
ミゲルは、読書好きで、仲間うちでは一番の物知りだ。
特待生として、春から高等学院への入学が決まっている。
彼の家は貧乏だったが、学校の成績が優秀だったため、教会が奨学金を出してくれることになった。
「つまりだ」
ミゲルはもったいぶった態度で続ける。
「君のための歌だよ、ルッカ。不死鳥の恋よ、安らかに眠れ。もう君の恋はあきらめろ、ということだ」
ユウが嘲笑うように、そうそう、と同調した。
「いや、あきらめるのはまだ早いんじゃないか?」
そう口を挟んだのは、グレンだ。
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