簡雍が見た三国志 ~劉備の腹心に生まれ変わった俺が見た等身大の英傑たち~
阿豫
桃園の誓いが終わり、村に戻ると、ほどなくして旦那衆が集めた百人の義勇兵が到着した。
そろいもそろって屈強な、どこかクセのある連中ばかりだ。
旦那衆が扱いに困った乱暴者を、ひとくくりにして送り込んだんだろう。
そんな凶悪な連中を率いていたのは、あどけなさの残る少年だった。
「ってか、よっちゃんなにしとん?」
「ちょっと! 阿豫はやめてくださいよ簡さん!!」
俺によっちゃんと呼ばれて、ぷんすかと怒っている可愛らしいショタくんは、名を田豫という。
習の旦那のところに身を寄せていて、その縁で仲良くなった。
「いいですか、ボクには国譲という立派な字があるんです! だから、これからは田国譲と呼んでください!!」
「いや、君いくつよ?」
「じゅ、十四、ですけど……」
ちなみにこの時代は数え年なので、満年齢でいえば彼は十三歳。ショタだな。
「字は二十歳になってから、だぞ、よっちゃん」
「阿豫いうなぁー! それに劉さんだって、十五のころには玄徳と名乗っていたんでしょう?」
「ん? あぁ、まぁ……若気の至りってやつかな」
突然話を振られた玄徳が、珍しく言いよどむ。
本来字ってのは成人になってから名乗るもんで、この時代、男子の成人は二十歳なんだよな。
でもガキのころから旦那衆と付き合いがあって、ちょっと大人びていた劉備は「女子は十五で成人なんだから、自分も十五で字を名乗ってなにが悪い」的な理論で玄徳と名乗り始めた。
あれだ、高校生が粋がって酒やタバコを始めるようなもんだ。
ちがうか。
「それにそのころ張さんはもっと若かったでしょう? へたをするといまのボクよりも!」
「どうだったかなぁ。まぁお前ぇと違って、おれぁしっかりヒゲも生えてたからよ。そんなつるつるの顔で字ぁ名乗ったところで、ナメられるだけだぜぇ?」
たしかに、俺が出会った――簡雍になった――時点で、張飛はいまのよっちゃんと同じくらいの年齢だったはずだけど、ヒゲもじゃだったもんなぁ。
まぁでも俺の小学生時代にも、同級生に脇毛ボーボーの奴いたし、あいつもヒゲ伸ばしてたら中学のころには張飛レベルになってただろう。
成長の度合いってのは人それぞれだからな。
「生えてますぅー! ヒゲならちゃんと、ほら、ここに!」
そう言われてよっちゃんの口元を見ると、たしかにうっすらと濃くなっている部分も見えなくはないけど……。
「こりゃ産毛だ、よっちゃん」
「だから阿豫いうなぁー!」
顔を真っ赤にし、目を潤ませながらキーキーわめくよっちゃん。
ちょっとからかいすぎたか?
「なに、男が身を立てると心に決めて字を名乗るのに、年齢は関係あるまい。よろしく頼むぞ、田国譲」
「か、関さぁーん! うわーん!!」
感動のあまり関羽に抱きつくよっちゃん。
言っとくけど、雲長と名乗り始めたとき、そいつもまだ十代だったからな。
ちなみに田豫が引き連れてきた屈強な男たちは、俺たちとよっちゃんのやりとりを、だらしない表情で眺めていた。
愛されてんなぁ、よっちゃん。
「ところでよっちゃんなにしにきたの? 留守番?」
「だから国譲! あと、留守番じゃありませんから!!」
関羽に抱きついたまま振り返ってそう言ったあと、よっちゃんは彼から離れて劉備の前に立った。
「劉さん、ボクも義勇軍に加わりたくて、ここにきました。連れて行ってください! お願いします!!」
彼はそう言って膝をつくと、拱手して頭を下げた。
拱手ってのはあれだ、中国を舞台にした映画なんかでよく見る、拳を手で包んで両手を合わせるポーズだ。
「どうやら覚悟は本物のようだね」
「はい」
「君は義勇兵だ。自分の思うとおりにするがいい、国譲」
「あ、ありがとうございます!」
どうやら彼はそれなりの覚悟を決めてここに来たらしい。
なら、いつまでもよっちゃん呼ばわりは失礼か。
「しかし国譲、本当についてくるのか?」
本人の覚悟はともかく、おっさんとしてはこんなショタっ子に危険なことして欲しくないんだけどな。
俺に国譲と呼ばれてちょっと喜んだりしてるところを見ると、ますます不安になるぞ?
「その言葉、そっくり返してもいいですか、簡さん?」
「う……」
それを言われると、つらい……。
というのも、武術の腕では俺なんかより田豫のほうが遙かに上なんだ。
いや、田豫が強いんじゃなくて、俺が弱すぎるだけなんだけど。
「なに、憲和も身を守るくらいのことはできるさ」
「でも、無理についてこなくてもいいんじゃないですか?」
「いや、彼には私たちの戦いを見届けてもらわなくてはいけないからね」
「見届ける……?」
劉備の言葉に、田豫は首を傾げる。
「ま、大人にゃいろいろあるんだよ、よっちゃん」
「むー……!」
子供扱いされて膨れる田豫。
でも、さっき国譲と呼んだことで少しは機嫌をよくしたのか、ぷんすかと怒りを露わにすることはなかった。
「ところで劉さん、習の旦那から念のため確認するよう言われたんですが」
「ん?」
表情を改めた田豫が、劉備に向き直る。
「本当に太平道を敵に回すんですか?」
そろいもそろって屈強な、どこかクセのある連中ばかりだ。
旦那衆が扱いに困った乱暴者を、ひとくくりにして送り込んだんだろう。
そんな凶悪な連中を率いていたのは、あどけなさの残る少年だった。
「ってか、よっちゃんなにしとん?」
「ちょっと! 阿豫はやめてくださいよ簡さん!!」
俺によっちゃんと呼ばれて、ぷんすかと怒っている可愛らしいショタくんは、名を田豫という。
習の旦那のところに身を寄せていて、その縁で仲良くなった。
「いいですか、ボクには国譲という立派な字があるんです! だから、これからは田国譲と呼んでください!!」
「いや、君いくつよ?」
「じゅ、十四、ですけど……」
ちなみにこの時代は数え年なので、満年齢でいえば彼は十三歳。ショタだな。
「字は二十歳になってから、だぞ、よっちゃん」
「阿豫いうなぁー! それに劉さんだって、十五のころには玄徳と名乗っていたんでしょう?」
「ん? あぁ、まぁ……若気の至りってやつかな」
突然話を振られた玄徳が、珍しく言いよどむ。
本来字ってのは成人になってから名乗るもんで、この時代、男子の成人は二十歳なんだよな。
でもガキのころから旦那衆と付き合いがあって、ちょっと大人びていた劉備は「女子は十五で成人なんだから、自分も十五で字を名乗ってなにが悪い」的な理論で玄徳と名乗り始めた。
あれだ、高校生が粋がって酒やタバコを始めるようなもんだ。
ちがうか。
「それにそのころ張さんはもっと若かったでしょう? へたをするといまのボクよりも!」
「どうだったかなぁ。まぁお前ぇと違って、おれぁしっかりヒゲも生えてたからよ。そんなつるつるの顔で字ぁ名乗ったところで、ナメられるだけだぜぇ?」
たしかに、俺が出会った――簡雍になった――時点で、張飛はいまのよっちゃんと同じくらいの年齢だったはずだけど、ヒゲもじゃだったもんなぁ。
まぁでも俺の小学生時代にも、同級生に脇毛ボーボーの奴いたし、あいつもヒゲ伸ばしてたら中学のころには張飛レベルになってただろう。
成長の度合いってのは人それぞれだからな。
「生えてますぅー! ヒゲならちゃんと、ほら、ここに!」
そう言われてよっちゃんの口元を見ると、たしかにうっすらと濃くなっている部分も見えなくはないけど……。
「こりゃ産毛だ、よっちゃん」
「だから阿豫いうなぁー!」
顔を真っ赤にし、目を潤ませながらキーキーわめくよっちゃん。
ちょっとからかいすぎたか?
「なに、男が身を立てると心に決めて字を名乗るのに、年齢は関係あるまい。よろしく頼むぞ、田国譲」
「か、関さぁーん! うわーん!!」
感動のあまり関羽に抱きつくよっちゃん。
言っとくけど、雲長と名乗り始めたとき、そいつもまだ十代だったからな。
ちなみに田豫が引き連れてきた屈強な男たちは、俺たちとよっちゃんのやりとりを、だらしない表情で眺めていた。
愛されてんなぁ、よっちゃん。
「ところでよっちゃんなにしにきたの? 留守番?」
「だから国譲! あと、留守番じゃありませんから!!」
関羽に抱きついたまま振り返ってそう言ったあと、よっちゃんは彼から離れて劉備の前に立った。
「劉さん、ボクも義勇軍に加わりたくて、ここにきました。連れて行ってください! お願いします!!」
彼はそう言って膝をつくと、拱手して頭を下げた。
拱手ってのはあれだ、中国を舞台にした映画なんかでよく見る、拳を手で包んで両手を合わせるポーズだ。
「どうやら覚悟は本物のようだね」
「はい」
「君は義勇兵だ。自分の思うとおりにするがいい、国譲」
「あ、ありがとうございます!」
どうやら彼はそれなりの覚悟を決めてここに来たらしい。
なら、いつまでもよっちゃん呼ばわりは失礼か。
「しかし国譲、本当についてくるのか?」
本人の覚悟はともかく、おっさんとしてはこんなショタっ子に危険なことして欲しくないんだけどな。
俺に国譲と呼ばれてちょっと喜んだりしてるところを見ると、ますます不安になるぞ?
「その言葉、そっくり返してもいいですか、簡さん?」
「う……」
それを言われると、つらい……。
というのも、武術の腕では俺なんかより田豫のほうが遙かに上なんだ。
いや、田豫が強いんじゃなくて、俺が弱すぎるだけなんだけど。
「なに、憲和も身を守るくらいのことはできるさ」
「でも、無理についてこなくてもいいんじゃないですか?」
「いや、彼には私たちの戦いを見届けてもらわなくてはいけないからね」
「見届ける……?」
劉備の言葉に、田豫は首を傾げる。
「ま、大人にゃいろいろあるんだよ、よっちゃん」
「むー……!」
子供扱いされて膨れる田豫。
でも、さっき国譲と呼んだことで少しは機嫌をよくしたのか、ぷんすかと怒りを露わにすることはなかった。
「ところで劉さん、習の旦那から念のため確認するよう言われたんですが」
「ん?」
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