鮮血の殺戮者と呼ばれた英雄 〜葛藤の先に見る景色〜

片山樹

No.6 『一遊一予』

 「着きましたよぉー」

 「うぅー。身体がもたん……」

 「何言ってるんですかぁ! 英雄と呼ばれる男が。ではでは、行こうではありませんか」

 いつの間にか、俺はアジトへ連れて来られたらしい。車から降りるとそこには壁があった。銀色の大きな壁だ。要塞。

 「何だこれ……?」

 「見た目通りの壁ですよ」

 「いやそれぐらいは分かるんだが……」

 「どうしてこんな所にこんな壁がって顔ですね。良いでしょう。お答えしましょう。これはですねぇー、高さ50メートルの壁ですよ」

 「へぇーそうか。ってそれぐらいは見た目通り分かるよ。だからどうしてって」

 「ふふぅ〜ん。もういいですよ。結構冷静さが欠ける人なんですね。もう、いいですよ。大丈夫ですよ。よしっ、ではでは説明しましょう。これは壁。はい、それだけです」

 「えっ? それだけ……? 何か仕掛けとかがあるんじゃ?」

 「何も無いですよ。ただの壁です。それと一応空上には偵察機が見回っています。変な奴が居れば、レーザーでドカンという事はありませんが、一瞬で搭載の機関銃でボコボコになります。チーズみたいにです!」

 結構明るい感じで話してくれては居るが、ボコボコの方が怖過ぎる。それもニコニコ喋りかけられると恐怖の沙汰ではない。
 何度か彼女はそのようになった状態のものを見たことがあるのだろうか。

 「じゃあ、どうするんだよ?」

 「よじ登ります!」

 「古典的だな」

 「侵入にはこれが最適です!」

 「アジトなのに侵入かよ。しっかりとした入口作れよ」

 「でもそんなことをしたらバレてしまうではありませんか。色々な人に。おまけにロケットランチャーでドカンとやられれば、壁なんて一網打尽に……」

 「弱っ、弱すぎるだろ。もっと頑丈に作れよ!」

 「嘘ですよ。壁は最強です。実はこの壁、幅が広いんですよ。だから壊れたとしても、先にあるアジトへは行けませんよ」

 「じゃあ、どうするんだよ」

 「ふふっ、良くぞ聞いてくれました」

 こいつのせいでかなり時間食ったけどな。

 「トンネルがあるんですよ」

 「要するに抜け穴があるというわけだな」

 「察しがいいですね。アリア感激です! 血にしか興味がない人だと思っていたので」

 「どんな偏見だ! 俺は一応平和主義者なんだ」

 「平和主義者ですか……その癖、老若男女問わず殺したという噂を聞きましたが……。まぁ、それはどうでもいいです。私達、革命軍も革命に賛同しない者は殺す。それが掟ですからね」

 「そんな場所へ俺を招待して、何が目的だ?」

 「何がって、貴方はもう仲間じゃないですか」

 「えっ? そうなの?」

 「はい。そうですよ。それに守ってくれるんですよね、私のこと」

 「お前等の仲間になるとは言ってはない。けれど、お前は守ってみせるよ」

 というか、苦しんでいる人間は全員守ってみせる。救ってみせる。お人好しでもお節介でもどうでもいい。
 俺は皆を守りたい。平和主義者で結構。戦争なんて無くていい。その為には力が居る。個々の力では無く、集団の力が。

 もう次は絶対に失敗しない力を。

 「その……なんですか。その、口説き上手なんですね。色んな女の子にも同じような言葉を言っているんですよね」

 「さぁー知らない。俺は飛んだ大馬鹿者でね。ただの守りたがりのお節介野郎なんでね。皆皆、全員救われて欲しいと思ってるわけよ。俺は理想論主義だろ。でもそんな理想論が好きなんだ」

 「とっても良いと思いますよ。私はその理想論。その理想論を現実にする為に戦いましょう! 共に!」

 「だからさっきも言ったが、俺が仲間になるつもりは無い。でも、もしもなるとしても、一応お前の仲間に会ってからだな。俺は自分の目で見たものしか信じないタイプなんでな」

 「はぁーい。分かりましたよ。といっても、貴方は直ぐに仲間入りすると思いますよ」

 「どうしてそんなことを言い切れる?」

 「まぁ、行ってみれば分かりますよ」

 彼女の声はやけに弾んでいた。

 こうして俺とアリアはトンネルを潜り、奥へ奥へと向かい続ける。先にあるアジトはどんな場所なのだろうか。

 「あ、今おしり触りましたね! この変態!」

 「お前が止まったからだ。それと俺は変態じゃない。冤罪だ、冤罪!」

 果たして、行き着く先に見えるのは希望か。それとも絶望か。

 俺は銃に弾丸を入れるのを忘れなかった。


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