行列!異世界の動物園~魔王が園長です。

ノベルバユーザー303849

第三十四話 ジパン①



 ジパン――それは一人の将軍によって統治された世界。
 長い間ジパンの漁師にリヴァイアサンと同じ様に神と崇められてきた白鯨を連れてやって来た異邦人達。
 攻撃意志はなく、黙ってついてきた所を見ると、何かこのジパンに用があるのは間違いない。
 しかし、このジパンに異邦人が来たのは、何度かあるが、このジパンで自由に行動できるかどうか決めるのは、第十五代将軍――徳山信綱ただ一人。


城に案内されて将軍に事情を説明する冬太達。


「なるほどの~、それでここまで来たか。その酒造り職人の助蔵に心当たりがある。今から呼んでやろう。それまで別室で食事でもして待機しておれ」




「ここの殿様は良いやつだなぁ、わざわざ探し人を連れてきてくれるのに加え、食事まで提供してくるなんて」


「そうですね、それにここの料理は僕の世界の料理とどこか似ています」


 各々食事を楽しみ、再び殿様の居る部屋に呼ばれた冬太達。


「お主らが探しておった助蔵はそやつじゃろ?」


 そこにいたのは四十代あたりの男性だった。


「え、あのう僕らが探している助蔵さんは百二十年前の時点で二十代の男性だったんです。生きてる筈がないし、生きていたとしても年が合いません」


「いいえ、確かにあなた達が探している助蔵はあっしでございます。いえ、正確にはあなた方が探しているのは先々代三代目助蔵――つまりあっしの今は亡き祖父でございます。生前、祖父が隣島に酒を運んでいたときに嵐に巻き込まれ、死にそうになっていた所を海の神リヴァイアサンに助けられたと言っていました。そして最高の酒を飲ませると約束したと。晩年祖父は、店を父に任せ、リヴァイアサン様為だけの酒造りに没頭していました。そして死ぬ間際完成させて亡くなりました。最後までリヴァイアサン様に酒を届けなければと言いながら。正直父やあっしや周囲の者は祖父が言っている事を信じていませんでした」


「それでは完成したお酒はもうないのですか?」


 冬太の問いに首を横に振る五代目助蔵。


「信じていなくても祖父が命をかけて造った酒です。酒蔵の奥にしまっております。まさか本当だったなんて、どうぞ祖父の酒をリヴァイアサン様にお渡し下さい。祖父もきっと喜びます」


 冬太達は礼を言い、さっそく酒蔵に向かおうとしたが、ここで待ったがかかった。


「助蔵よ、余が大の酒好きでお主のところを贔屓にしているのは知っておるな?」


「はい、将軍様には大変感謝してます」


「それなのに三代目が造った最高の酒を余の民であるお主はなぜ献上せなんだ? そんな酒があるなら余に献上するのが筋であろう?」


「確かに将軍様に献上するのが筋ではありますが、その酒は、祖父が恩人の為に命をかけて造った酒でござんす。将軍様にはこの五代目が必ず最高の酒を献上致しますんでご容赦を!」


「僕たちからも頼みます。リヴァイアサンさんは百二十年も助蔵さんがお酒を届けてくれるのを信じて待っていたんです。お願いです。どうかお酒を譲って下さい!」


 冬太達は頭を下げ懇願する。
 その姿を見た将軍は厳しい顔の表情を緩める。


「そなたらの気持ち良くわかった。異国の王にも頭を下げさせた以上この信綱、我を突き通すわけにはいくまい。しかし、代わりにこのジパンを最近困らせてる魔獣ぬえを捕まえてはくれまいか? そこの動物に好かれる少年よ」


 将軍の目が冬太に向けられる。


「その交換条件確かに承りました」


 こうして異国ジパンでも魔獣の捕獲をする事になった冬太達。


 ジパンでの行動の自由を将軍からもらった冬太達は、早速鵺の事について聴き込み調査を行う。
 町民に聴いたところ、鵺は猿の顔を持ち虎の胴体と手足を持ち、尻尾が蛇の魔獣らしい。
 鳴き声はヒョーヒョーと鳴くらしく、黒いモヤになったりできるらしい。
 直接的な被害は、農作物が食べられ荒らされたり、黒いモヤがいきなり現れて驚いて失神者が出るくらいで死人や怪我人は今の所出ていないらしい。
 出る場所は決まっておらずどこに居るのかもわからないらしい。
 ただ鵺は昼間ではなく夜に出るらしいという情報を得たので、夜になるまで待つ。
 夜になり、よく農作物が荒らされると聞いたので、畑で待ち伏せする事にした。
 いつ現れるかわからない、これは長期戦になるぞと魔王やエスナやオリアナは覚悟していた。


「鵺くーん!! 君と話がしたいんだ出てきてくれないかなぁ!!」


 冬太が大声で叫ぶ。そんなことで来るなら苦労しないと魔王達は思っていたが、数秒後ヒョーヒョーという鳴き声と共に黒いモヤが冬太の前に現れる。
 あっそういえば冬太ってそういう存在だったと再確認した魔王達。


「来てくれてありがとう鵺君。僕は友達になりにきたんだ。だから黒いモヤを解いて姿を見せてくれないかな?」


 すると黒いモヤがなくなり、噂で言われた通りの猿の顔、虎の胴体と手足た尻尾が蛇の魔獣の姿が現れた。


「でも何で畑を荒らしたり、人を驚かせたりしたの?」


 地面から頭までおよそ三メートルはある鵺の身体を撫でながら聞く冬太。


「ヒョーヒョー」


「なるほどね。人の興味をひきたかったんだね。でもそれで迷惑している人達がいるんだ。だから明日一緒に謝りに行こう?」


 鵺は「ヒョー」と鳴きながら縦に首を振る。


「トウタの奴きっとあの鵺が、私やベヒ子にはやや劣るぐらいの強力な魔獣なんて気付いてないんだろうなぁ」


「はい、私は先程から身体が震えているのに」


「流石トウタさんです~。すごいですね~」


 鵺の本当の恐ろしさが発揮されないまま、鵺の捕獲は終了した。









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