行列!異世界の動物園~魔王が園長です。
第三十二話 リヴァイアサン
動物園で過ごした翌朝早々に、転移魔法で人魚の集落に行き、オリアナと合流する。
「ほ、本当にその小さな黒い獣がかの有名な魔獣王ベヒーモスですか?」
「抱いてみる?」
「いえいえ、そんな恐れ多いですよ」
「ベヒー(悲しそうな声)」
「うぅ、それでは抱かせていただきます」
怖がるオリアナに優しくベヒ子を抱かせる。
ベヒ子どは撫でてと言わんばかりに頭をオリアナに向ける。
恐る恐る撫でるオリアナ。
「……あれっ? 全然怖くない。むしろ凄く可愛いです」
「だろう? ベヒ子は世界で一番可愛いんだぞ!」
何故か魔王がない胸を張る。
オリアナは気持ち良さそうに撫でられているベヒ子を見ながら、「なるほど、だからリヴァイアサン様に会いに行こうなんて考えたのですね」と言う。
「どう言うことかな?」
「かの魔獣王が実はこんなに可愛いくて人懐っこいから、リヴァイアサン様も同じように仲良くなれると思ったのでしょう。ですがあの方は海の神とも呼ばれる気難しい方です。今から行くのは長い間は人魚族が守人を勤めてきた場所です。
ですがくれぐれも魔獣王や他の魔獣と同じ扱いをしないようにお願いします」
そう言ってオリアナは集落の奥にある森に入る。
森に入って暫くすると、滝が流れている。
「この滝裏にリヴァイアサン様の所へ繋がる洞窟があります」
エスナさんが飛行魔法をかけてくれたので、洞窟に入るさいに少し濡れる程度ですんだ。
洞窟の中をしばらく進むと光が見えてきた。
洞窟の暗い細道を抜け出ると、そこには、広い水場があった。
オリアナは水場に近づくと、水場の前で膝ま付く。
「リヴァイアサン様、オリアナが参りました。ぜひご尊顔を御見せください!」
すると水場から泡が立ち、何かが出てくる。
「久しぶりの呼び出しだの~オリアナ。それに他にもお客人がいるみたいだの~」
出てきたのは想像していた海竜の姿ではなく、絶世の美女と言っても過言ではない人物だった。
「妾を呼んだからには何か理由があるのだろうが、そこの少年から何か良い匂いがするの~」
リヴァイアサンと思われる水色髪の美女は裸のまま水場から出てきて冬太が担いでいるリュックに鼻をクンクンと近付ける。
「はい、あなたがお酒がお好きだと聴いたのでいくつかのお酒と、お酒のあてにたこ焼きとワイバーンテールの唐揚げを作って来ました。ぜひご賞味下さい」
「その前にリヴァイアサン様服を着てください! トウタ殿も男の子なんですから少しは恥じらってください!」
オリアナが用意していた服を無理矢理着させられながらも、冬太の持ってきたお酒と料理を楽しんでいるリヴァイアサン。
「ほう、中々の上等な酒だの~」
 当たり前だ。魔王が転移魔法でアスファルト皇帝に頼んで持ってきた皇帝の秘蔵品なのだから。お酒を渡す際、若干皇帝が涙目になっていたのは冬太しか気づいていないだろう。
「そしてこのたこ焼きほクラーケンの肉が中に入っているのか。変わった食べ物だが旨い! そして何よりこのワイバーンテールの唐揚げなるものが酒を進ませる!」
しばらく食事は続いたが、リヴァイアサンは用意した料理と酒に満足してくれたらしく、腹をポンポン叩きながら冬太達を見る。
「大変美味しかった。お礼に話ぐらいは聞いてやりたいが、魔王に賢者に魔獣王か。話をするには少し物騒なメンバーが揃っているの~」
目をギラリと光らせるリヴァイアサン。
それだけでオリアナは失神しかけて、魔王やエスナ、ベヒーモスも臨戦態勢になるが、冬太だけは呑気にしている。
「本当に変な話ではなくてですね」
冬太は、帝国の船に人魚達の漁場が荒らされていること、その打開策に水族館を作り、その水族館のキャストにリヴァイアサンにも入ってもらいたい事を事細かく説明した。
その話を聞いたリヴァイアサンは体を震わせ言い放つ。
「それは妾に見せ物になれと申しているのか!!」
その覇気は凄まじくオリアナは完全に失神し、エスナは震え、魔王とベヒーモスは殺気だっている。
だが冬太だけは笑顔で、「はい、見せ物になってもらいます。こんな所に一人で居るよりも皆で働いたほうが楽しいですよ」と言い返した。
リヴァイアサンは体の震えを大きくし、怒っている……かに見えたが、「ブッワッハッハッハー! 妾を相手にそこまで我を突き通すとは面白い! 気に入ったぞ少年、名は?」
「柏木冬太、冬太と呼んで下さい」
「うむ、トウタだな。気に入ったからには、その水族館とやらを手伝ってやりたいのは山々なのだが、いかんせん妾にはここを動けん理由がある」
「その理由とは?」
「その理由とはな、ある酒造り職人の取って置きの一杯を待っておるのじゃ」
リヴァイアサンによると、およそ百二十年前に嵐で転覆寸前だったある船を助けたらしい。
その船はある街に酒を届ける途中で、助けた礼に少し酒をわけてもらったらその酒が天にも昇ると思わせる程の酒だったらしい。
その酒造りの青年――助蔵はそんなに気に入ったならまたいつかそれをも越える酒をここに持ってくると約束して帰って行ったらしい。
「それを未だに待っておるのか!? 百二十年も!?」
魔王の問いに首を縦に振り答えるリヴァイアサン。
「リヴァイアサン様、もうその人は来ないですよ。だって人間の寿命は……」
失神から目の覚めたオリアナは待つ事を諦めるように言おうとしたがリヴァイアサンの顔を見て言葉に詰まる。
「それでも助蔵の目は真剣だったんがの~」
遠くを見つめるリヴァイアサン。
冬太はその顔を見て腹を決める。
「リヴァイアサンさん、その人の特徴を思い出せるだけ思い出してくれませんか?」
「トウタ、お主まさか?」
「ええ、そのまさかですよ園長。その人を探しに行きましょう!」
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