行列!異世界の動物園~魔王が園長です。
第十六話 ベヒーモス②
生まれたのはいつだったかわからない。
生まれたときには、大地の頂点だった。
別に破壊したかった訳じゃない。
仲良くなれるならすべての生き物と仲良くなりたかった。
でも自分に流れる魔力の膨大さに自分ですらコントロールできず、生きてきた。
時には、村や町を壊し、国さえも壊滅させた。
でもそれは望んでやった事ではない。
人間や魔族、魔獣は私のことを見るとかまわず攻撃してくる。
それを払いのけただけだったのだ、私にとっては。
しかし、それで村や町、国が滅びた。
ある者は、私が怖い為に攻撃し、ある者は私を倒した事での名誉を求めて攻撃してきた。
殺すつもりなどなくても私が反撃するだけで簡単に命は消えていった。
数百年同じ事を繰り返すうちに誰とも仲良くなどなれないと悟った。
魔界の北西には、誰も近付かない魔力の濃い森があったので私はここを終の住処に選んだ。
私は、空気中の魔力さえあれば、食べなくても平気なので、とにかく森の中で耐えた。
孤独というものは怖い。
私の膨大な魔力のせいで魔獣達もこの森には近付かない。
本当は一人は嫌だ! それでも傷つけるのはもっと嫌だ!
なのに10年この森に来てから初めて人間が来たかと思ったら、森に火を放った。瞬く間に火は森全体に広がった。
静かに終わりを待つことさえ許されないのか! 火を放った二人組に対して怒りが湧いた。
そんなに相手をして欲しいならしてやろう!
何か素早く走る物体に乗って逃げているが、その程度で逃げ切れると思うなよ。
しばらく走っていると先に光が見えてきた。
それに油断しているのか前の二人組の乗り物の動きが鈍ったので前足で一撃与えてやった。
加減をするのは苦手だが、あの程度なら大怪我程度ですむ筈。
それよりも目先に村を護るようにたくさんの魔人が武器を構えてこちらを見ている。
またか、また私は、すべてを壊さなければならないのか。
私はたまらず怒りの咆哮をあげる。
何人かの魔人が気絶した様だ。これで怯んで逃げてくれれば良かったのに。武装した集団は戦意を失ってないようだ。
だが、私の前に歩きだしたのは、武装した魔人ではなく、一人の少年だった。
この少年はなんだ? 何でそんな笑顔で私に近付いてくるのだ? 私は混乱して少年に向かって咆哮をあげてしまった。
少年は大きく飛ばされ転がるが、立ち上がりまた私に向かって歩いてくる。
少年は歩きながら何か言っている。
たぶんそれは、私がずっと言われたかった言葉だ。
だが信じられるものか! 私は何度も咆哮を少年に浴びせた。
なんでそれでも来るんだ? 仲良くなろうとしてくれるのか?
でももう裏切られるのはごめんだ!
思わず少年に前足で払ってしまった。
軽く払ったつもりだったが、死んでしまったかもしれない。
唯一私を分かってくれたかもしれない少年を私は殺してしまった。
少年が倒れた瞬間、私と同等の力を持った魔人の少女と耳の尖った金髪の女性が私に殺意を向けてくる。
やはり、こうなるかと思ったが、血だらけの少年の一言で二人の殺意が霧散する。
血まみれで歩くのもきつい筈の少年はそれでも笑顔で向かってくる。
彼が何を言っているか分からない。
だけど、私のことをわかってくれているのが伝わり、つい涙が出た。少年は私の手に触れると私に何か優しい言葉を囁き気絶した。
すぐに彼の仲間が治療を始めた。
私は彼が村の中に運ばれるのを見るしかできない。
傷つけるしかできない私は俯いていると、私と同等の力を持った少女が近づいてくる。
敵意はないようだ。
「あいつと一緒に居たいならこれを着けろ」
何か銀色のリングを私の首に近づける。
危険かもと思ったが、彼女の目を見て考えが変わり、されるがままにリングを首に押し付けられる。
すると私の首サイズになり、私の首にはまった。
その瞬間、今までのコントロールが出来ない程の魔力が抑えられてるのがわかる。
これならあの少年と一緒に居れる。
しばらく外で待っていると少年が出てきた。
無事で本当に良かった。
少年は私を見つけるとわたしを抱き締めてくれた。
そして私に『ベヒ子』という名をつけてくれた。
周りの魔人達は呆れ顔だが私にベヒ子と少年が呼び掛けてくれるのは嬉しい。
こうして私は長い長い孤独を脱して大好きな少年と生活を始める事になった。
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