行列!異世界の動物園~魔王が園長です。

ノベルバユーザー303849

第十五話  ベヒーモス



 この異世界には、災害とも言われる強力な力を持った生物が、三体存在する。
 一体目は天災――竜王バハムト。


 二体目は水災――海神リヴァイアサン。


 そして三体目が地災――魔獣王ベヒーモス。


 この三体とまともに戦えるのは、勇者と魔王のみ。


 その災害の一体ベヒーモスが魔界の動物園から北西八十キロメートル先にある魔獣王の森に生息している。
 過去に幾度もなく街や国を壊滅してきたベヒーモスはここ10年程この森から動いていない。
 近付かなければ危険もないので放っておいたのだが、今アスファルト帝国皇帝の命令によって魔動車に乗って魔獣王の森に来て、魔獣王を怒らせるため、森に火を放っている。
 森に火が移り、森全体へと広がっていく。


「グガァァァオッ!!」


 森から凄まじい怒号が聴こえてきた。


「おい、早く動物園方向に車を走らせろ!!」


「わかってるっての!」


 森に火を放ったアスファルト帝国の隠密である二人は車をアクセル全開で走らせる。
 それを追いかける様に黒い全長十五メートル程の巨体の生き物が火の中から飛び出す。
 黒い体毛に頭には二本の大きな角を持ち、赤色の瞳が無法者二人を見つける。


「あ、あれがベヒーモス!!」


「余所見してんじゃねぇ!しっかり前見て運転してろ! じゃないとあっという間にあの世行きだ。恐ろしい姿だってのは最初から分かってただろう! 今は動物園へ行く途中にある村まで全速力で逃げるんだ!」




            ◆◆◆


 魔獣王の森と動物園の間にある村では大騒ぎになっていた。
 村の警備が魔獣王の森が燃えているのに気付いたのだ。
 それを聞いた村長は直ちに村からの避難を村民に伝えて魔王国に救援を魔導通信機で頼んだ。


 すぐにテレポートの魔法で魔王国が誇る一個師団と魔王とエスナ、冬太がやってきた。


「本当にベヒーモスがこの村目指してやって来ているのか?」


「ええ、我が隊の魔術師の使い魔のフクロウを飛ばして空中からの視点で見ているので間違いないかと」


 そう答えるのは今回の一個師団を率いる四天王の一人――白狼はくろう族の族長でもある片目に眼帯をしているランガ元帥である。


「しかし、そちらの少年を連れてきてもよかったのですか? ここはまもなく死地になる可能性が高いですぞ?」


 冬太を卑下したのではなく、本当に心配して言っているのが冬太に伝わる。


「ランガ将軍お心遣いありがとうございます。でも僕はどんな動物とも仲良くなれると思うんです!」


「甘いな、トウタ。今まではお前の動物に対する才能でどうにかなったかもしれない。だが、残念だが、今回のベヒーモスは他のやつらとわけが違う。攻めてくる以上倒さなければならない」


 現実問題この世界ではベヒーモスはもはや生き物ではなく、自然災害そのものと認識されている。
 一度怒ったベヒーモスを宥めるなど無茶でしかない。
 それでも冬太の意志は動かなかった。


「一度だけベヒーモスと話させてください! お願いします!」


「死ぬかもしれんぞ。それでもか?」


「それでもです!」


「わかった、だが危険とわかったら介入するからな」


「ありがとうございます、園長!」




           ◆◆◆


 ベヒーモスから逃げている帝国の二人組は、村に魔王軍がすでに配備されてるとは思ってなかった為、一瞬アクセルを緩めてしまった。
ベヒーモスの前足の一撃をもろに受けてしまい、魔導車もろとも横に吹き飛ばされてしまう。
 生きてはいるみたいだが、大怪我をおったらしく二人は車から動けない。
しかし、ベヒーモスは二人を無視し、冬太達のいる村の前まで行く。
 冬太達の目の前に来ると、脚を止め、「グガァァァオッ!!」と咆哮すると、村人の何人かがあまりの恐怖に気絶してしまう。
 魔王達も臨戦態勢をとるが、冬太だけは一歩、また一歩とベヒーモスに近付いていく。
 冬太が近づくたびに咆哮で冬太を吹き飛ばす。
 だけどそれでも冬太は歩みを止めない。
 それを何度か繰り返すうちにベヒーモスが右前足を振り上げ冬太を大きく吹き飛ばす。


「トウタ!」「トウタさん」


 魔王とエスナがたまらずベヒーモスに攻撃しようとするが……


「攻撃しないでくださいっ!!」


 普段穏やかな冬太の怒号に魔王とエスナは動きを止める。


「君は優しいね。君が本気ならもう僕は死んでる筈なのにまだ生きてる。君を怒らせた二人も殺してないし、君は優しいね」


 そう言って体中ボロボロの冬太はベヒーモスに再び近づく。
 ベヒーモスは後退する。
 だが、冬太は足を引きずりながら優しい声で語りかける。


「大丈夫。何も怖い事なんてないよ。僕は友達になりたいだけなんだ。僕と友達になろう?」


 言葉はわからない筈なのにベヒーモスの目から涙が流れた。
 冬太はベヒーモスの前足に触れると「ほら、怖くないでしょ?」と、笑い気を失う。




            ◆◆◆


「ううっ」


「気が付いたか冬太!」
「冬太さん気が付いて良かったです~」


 一瞬ボーッとしていた冬太だったが、すぐにベヒーモスの事を思い出し、身体を勢い良く起き上がらせるが身体悲鳴をあげる。


「ダメですよ~。いくら治癒魔法をかけたと言ってもあれだけの重傷は普通は絶対安静なんですから~」


「あやつなら外で待っている、急がなくていいから行ってやれ」


 外に行くと何かの花を彫った金属製の首輪をしているベヒーモスが申し訳なさそうな顔で冬太を見ている。
「君が無事で良かった。ところでこの首輪は何ですか?」


「これは強大過ぎた魔力を持っていた最凶の第二代目魔王――シリウス·ブラッドリリーが自分の強大な魔力を抑制する為に着けていたブラッドリリーの首輪だ。これを着けたからこいつも幾分か安全になったろう」


「そっか、良かったね。もう君は一匹じゃないからね」


 ベヒーモスは嬉しそうに冬太の顔を舐める。


「ふふっ、くすぐったいよ」


「その言いぐさだとベヒーモスも動物園に連れていくつもりか?」


「そのつもりですけど、ダメですか?」


「だめじゃないが、連れていくなら名前をつけてやらないといけないだろう?」


「それならベヒ子で!」
「お前の名付けは独特だよな」


 以前、冬太がダサい名前を動物達につけようとした時から他の動物たちの名前は冬太以外が考えていた。


「でもベヒ子も喜んでますよ。ねっ」


「ベヒー(喜び)」


「まぁ、そいつが気にいってるならいいけどな」


 こうして村と動物園は守れて、新しい仲間のベヒーモスができた。
 ちなみにベヒーモスを怒らせた二人組は自決していたらしい。





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