行列!異世界の動物園~魔王が園長です。

ノベルバユーザー303849

第十一話 帝国宰相ケルム来襲!



 今日も人気の魔界の動物園。
 元気に魔王も清掃活動に勤しんでいたが、ある客が来たことにより事態は急変した。


 厳重に兵士を数十人引き連れて飛空挺から出てきたのは、現在平和条約こそ結んでいるが、経済戦争真っ最中の東大陸セメントの覇者――アスファルト帝国のナンバー2であるケルム·ブルートス。
 思わぬ、客にちゃんとした魔王城でもてなそうと話を持ちかけたが、
「今回は魔界で大人気になっている動物園が気になりましてな。見学しに来たのですよ。拝見させていただいてもよろしいですかな?」


 借金をしている国の重鎮によろしいかと問われ断れる筈がない。
 仕方なく園内を案内する魔王とエスナと冬太。
 一通り案内するとケルムは感心したのか、
「大変素晴らしいですな、この動物園は、我が帝国の動物園とは違い魔獣達がのびのびと暮らしている。フードコートもお土産店も大変素晴らしい」


 やけに褒めちぎるケルムに魔王とエスナは冷や汗をかき警戒していたが、冬太はいい人だなぁとしか思っていなかった、次の一言がでるまでは。


「しかし、お忘れですかな? 平和条約のさいに著作権によって他国の物及びアイデアを使用する場合は著作権の使用料が発生する事を」


 しまったと顔を歪ませる魔王。
「ちょっと待ってくれ。動物園と言っても中身はまったくの別物ではないか!」


「とは言っても我が帝国の動物園からアイデアを得たのは事実でしょう?」
ぐりゃりと意地の悪い笑顔を見せるケルム。


「でアイデア料はどのくらいなのだ?」


 悔しい顔を見せながらたずねる魔王。


 紙を取り出し魔王達に見せる。


「こんな金額払える訳がない!!」


「そんな事を言われましてもな契約ですからな。しかし、こちらも鬼ではない。この動物園の土地を動物園ごとくれると言うならアイデア料を払った事にしてあげましょう」


「そんなの横暴だ!!」「ひどいです~」


 魔王とエスナは抗議するが、ケルムはどこ吹く風。


「まぁ、諦めて動物園を譲るんですな! はっはっは」


 ケルムは動物園を手にできるともう決めているだろうが、冬太は引っかかっていることがあった。


「ケルム閣下、この動物園を手に入れた後フードコートやお土産店は利用するんですか?」


「もちろん、こんなお客を呼び込める物を使わない手はないでしょう」


「あのう、その場合アイデア料が動物園で発生するのなら、お土産店やフードコートの著作権はどうなるんですか?もちろん、魔王国に払ってくれるんですよね?」


「ぬぅ、それはその……」


 痛い所を突かれたのか言葉が出てこないケルム。


「フードコートとお土産店の著作料で動物園の著作料を相殺できるからわからないんですが、一つ僕に考えがあるんです」


「考えとは?」


「実は、この動物園が儲かっている一番の理由は、プリンという食べ物のおかげなんです」


 プリンをお土産店から一個取り出しケルムに渡す。


「食べてみてください。人気の理由がわかりますから」


 ケルムは、見たこともない食べ物に警戒しながらも口にすると、
「なんだこの口の中に入れると甘くとろける食感は。下の黒い部分のほろ苦さと一緒に食べる事で絶妙な味を作り出す。こんな上旨いスイーツは食べたことがない!」


「そうでしょう。このプリンのおかげで動物園は成功したんです。そこでどうでしょう。プリンのレシピを無料でお教えします。使用料もとりません。この交換条件ならどうでしょう?」


ケルムは食べたことのない天上な食べ物かと思う程のプリンを食べながら、動物園の土地をとるのか、プリンのレシピ、使用料無料をとるのか打算的に考えた結果――。


「このプリンをセメントでも広めてもいいのならその条件に乗りましょう!」


 そして新たな契約書を製作し、各自その契約書に判を押す。


「ありがとうございます!」


「ところで君の名は?」


「僕は冬太。柏木冬太です」


「冬太殿か若いのになかなか見所がある少年ですね、覚えておきますよ。それでは話し合いは円満ということでこれにて失礼させて頂きます」


 すらりとしたやや痩せぎみで丸坊主の宰相は、レシピと手土産にプリンを持たせると喜んで飛空挺に乗って帰っていった。


 ケルムが帰ると同時に魔王とエスナが冬太に詰め寄る。


「プリンはうちの看板商品なんだぞ!あれがあるからこそ大黒字なんだぞ!帝国ならすぐに商品化し、世界中で売りまくるぞ。
そうなったらうちのお客さんの数も少なくなってしまう」


「そうですよ~。この動物園でしかプリンが食べられないからわざわざ遠くから来てくれているお客様もいるんですよ~」


 だが、冬太は余裕の表情で二人を落ち着かせる。


「大丈夫ですよ。僕が教えたのは、あくまで調理の仕方と材料に卵、牛乳、砂糖がいると言っただけです」


 魔王はまだわかってないらしいが、エスナには冬太の意図が伝わったらしい。


「なるほど~、そういうことなら大丈夫ですね~」


「どういうことなんだぁ!?私にも教えろー!」


 わからないままの魔王はほっといて、今日も一日頑張るぞ!

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